11. 打ち上げ花火とプロポーズ
翌日、レニエ子爵、ネール男爵は王都の騎士団本部に移送され、アベルもそれに同行した。彼らの邸の家宅捜索も速やかに行われ、軍事魔道具密輸の証拠品も押収されたそうだ。
この特命任務は今が一番忙しいはずなのに、アベルから海神祭のフィナーレである打ち上げ花火を一緒に見たいと誘われた。なんでもシモンと約束したらしい。アベルが邸に迎えに来た。
「ここからでも花火は見えるんだけど、伯父様が広場のVIP席をとってくれたし、せっかくだからそちらで見ましょう。」
「リリありがとう。今日は歩きだし、混む前に行こうか。」
「はなび、はなび!」
シモンが私たちの手をつかんで歩き始めた。親子三人、港の広場に向かう。この町の一大イベントだけあって、他領や隣国からの観光客も多い。シモンとはぐれないように、小さな手をしっかりを握った。
VIP席には先にマール伯爵夫妻が来ていて、来賓たちに挨拶していた。私も後継者として一緒に挨拶周りをする。その間、アベルがシモンの面倒を見ていてくれた。二人に目をやると、何やら楽しそうに笑っている。なんか大型犬と子犬がじゃれているみたいだ。
花火が始まる前に席に戻り、用意されたシャンパンを口にする。ちなみにシモンの飲み物はオレンジジュースだ。
ドン、ドン、ドン。
鈍い音とともに、大輪の花々が空に咲き誇る。
「ちちうえ、ははうえ、花火とってもきれいだね!」
「ああきれいだ。シモンは花火が好きか?」
「うん!」
色とりどりの大華が次々にマールの港町を飾っていく。最後にばばーんと連続で花火が打ち上がって、今夏の海神祭も無事終焉を迎えた。
***
「花火、きれいだったね!最後の真っ赤なのがすごかった!」
帰り道で、興奮気味のシモンがはしゃぐ。
「また来年も行こうね。ちちうえ、ははうえ!」
アベルとの関係性を今後どうしていくのがいいか、それが目下の私の悩みである。邸の玄関の前でシモンがアベルにせっつくように言った。
「ねえ、ちちうえ!ははうえに渡さなくていいの?」
「お、おい、シモン。こっちにも心の準備があるんだ。」
「二人ともなんの話?」
アベルが耳まで顔を赤くして、何やら決意を固めた様子で、射抜くようにこちらを見つめる。上着のポケットから小箱を取り出した。
「リリ、ごめん。やっぱり俺、待てない。結婚してくれ。大好きだ。」
小箱の中身は特大のエメラルドがついた指輪だった。
「ははうえ、ねえいいでしょ?」
シモンは完全にアベルの味方らしい。
「…もうしょうがないわね。今度変な呪いにかかったら承知しないわよ。」
「リリ、、、リリ、ありがとう。シモンもありがとう。」
そういうとアベルは、私の左手の薬指にエメラルド指輪をはめ、そのまま私とシモンを抱き寄せた。




