9. 海神祭
海神祭の当日に、風の精霊であるヴェントスを呼び出すのもなんだが、せっかくのお祭りだ。ちゃんと晴れてほしい。
「来たれ、ヴェントス。」
「我が創造主、なに用かな?」
「雲一つない晴天にして。」
「お安い御用だ。」
ヴェントスが呪文唱えると、曇天が一気に晴れ渡った。
シモンを連れて、広場の『カフェ ド マール』の出店に向かう。この出店ではアイスティーとカフェで人気のカステラやマカロンを袋詰めにしたものを提供している。売り上げの一部を領内の孤児院に寄付する予定だ。
「リリー様、シモン様!」
売り子をしている孤児院の子どもたちがこちらに気づいて駆け寄ってきた。
「売り上げはどう?順調そう?」
「はい!今日は日差しが強いのでアイスティがよく売れています。」
「あなたたちも熱中症に気をつけて。適宜交代で休憩をとりながら店番してね。」
「お気遣いありがとうございます。」
そういえば学園時代にも、アマリリスとネモフィラと海神祭に出店を出したことがある。アマリリスが経営学の実習レポートを書くために何らかの就業経験が必要だったからだ。それで近場のお祭りということで海神祭に白羽の矢が立った。『フルール商会』の原点だ。
あの時は氷属性のアマリリスがいたから、アイスクリームを販売した。彼女の魔力は氷属性の中では少ない方だが、扱いは巧みだ。アイスクリームの原液を器用に空気を混ぜながら固まらせる。魔道具でも氷を作ったり、単純に何かを冷やしたりすることは可能だが、空気を混ぜながら凍らせるみたいな難しいことはできない。氷属性の庶民もまずいないので、カフェでアイスクリームを提供するのは難しいだろうと思っている。
いくつか広場の舞台で楽団の演奏を聴いた後、祝宴に向けて準備中の『ビストロ フルール』にも顔を出す。パーティーメニューの下ごしらえや会場の設営を行っているが、こちらも問題なさそうだ。
祝宴は大人の会なので、シモンはおうちでお留守番である。ドレスアップのため、一旦邸に戻ると張り切った様子のアンヌに出迎えられた。




