4. 特命のこと、婚約のこと
「今日は時間をとってもらって済まない。」
「問題ないわ。で、特命って何なの?」
この別邸に怪しいものはいないはずだが、少し警戒したのかアベルが魔法で防音壁を展開した。
「一応、念には念を。実はマール港で隣国への軍事魔道具の密輸が噂されていてね。その秘密捜査なんだ。王太子殿下からの直々の命だよ。」
「軍事魔道具の密輸って国家反逆罪じゃない!?」
「ああ、しかも一部の貴族も関わっている。」
「え!?身の潔白のため言っておくけど、マール伯爵も私もそんなことには関わっていないわよ。」
「マール伯爵にもこの前話は伺ったけど、君たちのことはシロだと考えているよ。密輸に関わっている貴族というのはレニエ子爵とネール男爵だ。」
「ええ!?あの人たち、そんなことまでしているの?」
「ああ。で、『バー・ローズ』の店主から聞いたが、ネール男爵は最近、君の商会に目を付けて粗悪なコピー商品を次々に作って販売しているそうだね。」
「ええ。」
「でも、王宮に権利侵害の被害届を出しても一向に審査してくれない。」
「そうよ。だからといってこんな些細なことを、王子が生まれたばかりのアマリーに言うのも悪いし。もうあきらめているの。化粧品部門の売り上げはだいぶ落ちたけどね。」
「平民の商会の場合、知財2課が担当するのだが、その担当文官の中に怪しい金の動きがあるものがいる。しかもあのレニエ子爵の学園時代の同級生だ。」
「えっまさか賄賂を。」
「いま第五騎士隊が捜査していて、かなり有力な証拠がそろってきている。検挙できる日は近いと思うよ。」
「で、リリにお願いなんだが、コピー商品の件に関して、リリアーヌ ブロワとして、知財1課に被害届を提出してもらってもよいだろうか?知財1課は貴族の商会が担当だ。我々としては、まずはコピー商品の件を検挙し、家宅捜索をして、一刻も早く軍事魔道具密輸の件も検挙したい。」
「わ、わかったわ。でも、うちの商会平民の商会として届け出しているし、貴族とはいえ行方不明中の私が知財1課に提出しても大丈夫なの?」
「ああ、近々名乗り出るつもりなんだろう?王太子殿下の命として担当部署に話は通しておく。あとついでといってはなんだが、別件でもう一つ話しておかないといけないことがある。」
「何かしら?」
「…実は俺とリリの婚約は解消されていない。」
「え?失踪後、父があなたの家に書類を送ったって聞いたけど!?」
「俺の両親は君が失踪した後の俺の様子が明らかにおかしかったから、一旦保留にしたんだ。それで『魅了の呪い』が解けたあと、親から婚約解消の書類を渡されて、どうしてもサインできなかった。君との最後のつながりが無くなるような気がして。君が失踪して7年近く経って、君には君の生活があるのはよく知っている。だから無理にとは言わない。ただ俺はシモンのことがなくても、君とやり直したかった。シモンの存在が分かった今はなおさらだ。」
「…」
「もう一度俺との結婚を考えてくれないか?…俺は君以外、愛せないと思う。」
あなたロベリアの『魅了の呪い』にかかったの忘れたの?いまさら何よとも思うのだが、縋るような瞳でこちらを見つめられると、どうしても心が揺さぶられる。そもそも自分の好みを詰め込んだ"キャラ"だから、やっぱり好きだと思ってしまう。
「…わかったわ。その件については少し考えさせてもらってもいいかしら。シモンのこともあるし。」
「うれしいよ、リリ。答え待っている。愛している。」
『考える』という返答は、全く肯定ではないんだけど、はにかむような笑顔でそういわれて、思わずドキッとしてしまった。




