3. シモンの誕生会
『ビストロ フルール』は海辺のレストランだ。普段シモンにさみしい思いをさせているから、この日くらいはと張り切って、一番広い個室を貸切にしてシモンの誕生日会を開く。夜景が自慢のレストランで、窓からはマール港と灯台が見える。レストランの従業員たちが笑顔でシモンを出迎えてくれた。
「シモン坊ちゃま、お誕生日おめでとうございます!」
室内に入ると、既に到着していたゲストのマール伯爵夫妻とアベルが何やら話込んでいる。そういえば、伯父様とアベルが会うのは初めてだ。シモンに気づくとマール伯爵夫人が、さっと駆け寄ってきた。夫人は子ども好きだ。孤児院の慰問にも精を出している。
「あーら、シモン君、お誕生日おめでとう。大きくなったわね。顔つきもお兄さんになったわ。」
「おばさま、ありがとうございます。」
それから皆に口々に「お誕生日おめでとう」と言われて、シモンも得意げだ。
「乾杯!」
ディナーを楽しみながら、シモンの話を聞く。少し厚めの本が読めるようになった、外国語の先生に褒められた、魔法でファイアランスが出せるようになった。子どもはどんどん吸収し学んでいく。私は成長していくシモンの姿に目を細めた。
デザートはこの前の試作品ベリーベリーベリーショートケーキをサルビアにお願いしている。その前に、プレゼントタイムだ。私からは聖獣ユニコーンのぬいぐるみ、マール伯爵夫妻からは隣国で流行っているという色鮮やかな絵本のセット。
こないだのやり取りで、アベルがシモンに何をプレゼントするのか少し気になっていたけど、子供用の魔法剣だった。魔法剣とは、普通の剣と違って魔力が纏いやすくなっている剣のことで、魔法で剣術をパワーアップさせたいときの必需品だ。おそらく魔法が得意なシモンなら魔法剣の方が扱いやすいと思ってプレゼントしたんだろう。
「うわぁ、かっこいい!!ありがとう!」
どのプレゼントも喜んでもらえたみたい。
「はーい、ではお待ちかねのケーキですよ。」
「わー、ケーキ!ケーキ!美味しそう。」
サルビアが特大のバースデーケーキを持って入ってきた。生クリームたっぷり、トッピングに苺、ラズベリー、ブルーベリーがたっぷりあしらわれていて、真ん中のチョコレートのプレートには『シモン様 おたんじょうびおめでとう』と書かれている。既に火が灯されていた六本のろうそくがケーキに刺さっていたが、運んでくる間に一本消えてしまった。
「ぼくがつける!イグニッション」
シモンが指先に小さく火をともすと、消えていたろうそくに近づけた。
「ついた!」
「よくできた!シモン。」
アベルがほめると、シモンが誇らしげに笑った。前よりもシモンの魔力のコントロールが上手になっている。
みんなで誕生日の歌を歌って、シモンがふーっと一息に六本のろうそくを吹き消した。サルビアがきれいにケーキを切り分けて、食後のお茶と一緒にサーブしてくれた。このケーキは試作品のため、味の感想が楽しみだ。
「ははうえ、おいしいです!」
「とっても美味い!これもリリが考えたの?」
アベルとシモンがにこにこしながらケーキを頬張る姿がよく似ていて、ついこちらも笑みがこぼれた。その後、残ったケーキをレストランの従業員にも試食してもらって、味の感想を聞く。みんなの意見をまとめた結果、最近の健康志向を意識して、砂糖を少し控えめにすることにした。
誕生日会がお開きになって両手いっぱいのプレゼントを持ったシモンが少し眠そうな顔をしている。帰り際、アベルが声をかけてきた。
「今日は呼んでくれてありがとう。感謝する。」
「こちらこそ。シモン喜んでたわ。ありがとう。そういえばアベルが邸に来てくれる日、シモンのわがままに一日付き合わされているみたいだけど大変じゃない?魔力を吸い取るのだって、あれだけの量だと気持ち悪くもなるでしょう。」
「大丈夫、全然。シモンかわいいし。笑った顔も怒った顔もかわいいんだ。」
照れくさそうににこっと笑いながらアベルは答えた。
「そうだ。実はリリと二人で話したいことがあって、今度時間もらえないかな?特命の件なんだ。」
「え、アベルの特命って私が関係しているの?」
「あまり大きな声では言えないが、無関係ではない。」
「そう、分かったわ。アンヌ、スケジュール帳を。」
次のアベルの非番の日、私は『アベルの特命』について話を聞くことになった。




