1. 来襲
火曜日の夕、商談のあと邸に戻ると、気まずそうなアンヌが出迎えてくれた。
「リリー様、ご報告があります。ネモフィラ様と坊ちゃまが騎士隊支部で…、アベル様にお会いしたそうで。坊ちゃまのことでリリー様とお話がしたいと、アベル様がこちらに来られています。」
「はぁ!!」
つい淑女らしくない驚き方をしてしまった。そういえば、シモンがネモフィラにくっついて騎士隊支部の見学をしに行ったと前聞いた気がする。シモンは好奇心旺盛な子だ。社会科見学としては悪くないと思って許可していたが、今も通っていたとは。
「坊ちゃまもアベル様ととても楽しそうにお話しされていて、やはり親子なんだなと思いました。もう少し大きくなると、父親の存在って今よりもっと大きなものになると思うんですよね。僭越ながら、アベル様は今マール沿岸警備騎士隊に特命で派遣されてらっしゃるそうですし、これを機に交流をもっておくことも悪くないかと。」
「そうかしら?まあいくら母親といえど、シモンから父親を奪う権利はないのかもしれないわ。」
「坊ちゃまは自室に戻られておられます。アベル様、ネモフィラ様は応接間にお通ししておりますので。」
「わかったわ。荷物を置いたら、応接間に向かうわ。ネモフィラに文句言わなきゃ。」
ネモフィラは、ずっと子どものことをアベルに伝えるべきだと言っていた。だから騎士隊支部に派遣されたアベルに事の次第を伝えたのだろう。いつかはシモンに彼の本当の父親のこと話すべきだとは思っていたが今ではない。
応接間に入り、ネモフィラを一瞥した。
「ネモフィー、ちょっとどういうつもり?」
「すまん、これはちょっとした不可抗力で…。」
不可抗力ってなによ。とりあえずアベルとネモフィラの向かいのソファに腰掛ける。
「それで、お話ってなんですの?」
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