4. バー・ローズ (side アベル)
打ち合わせが終わり部屋を出ると、ラウルがいた。
「大佐の部屋、用意しました!ついてきてください。」
大佐といっても、こちらの支部では臨時職員のはずなのに支部に個人部屋を用意してくれたらしい。手狭だが中庭に面した過ごしやすい部屋だった。
「そういえば、この前話したバー、今日の仕事終わりに行きませんか?」
「フルール商会のバーか、ぜひ。」
終業後、ラウルと一緒に『バー・ローズ』に行くと癖の強めの店主が出迎えてくれた。
「やっと連れて来てくれたのね~、マイダーリン♡」
聞くとラウルと店主とは恋仲のよう。ラウルがそういう性的志向があるとは初耳だ。
「ジンライムを頼む。」
「かしこまり~♪」
癖の強い口調とは裏腹にカクテルを作る所作は美しく、繊細に巧みに作られたジンライムがカウンターにすっと差し出された。アルコール度数は高いがライムの後味がさわやかでスッキリとした飲み心地だ。
「実はうちの会長、超かわいくて、化粧品販売から飲食店経営までできちゃう天才で、超お金持ちなのに、本当に男運がなくって!最近だとレニエ子爵っていう遊び人のクソ男に目をつけられて困っているのぉ~。」
おいおい、子爵家の人間に聞かれたら、不敬罪で捕まるぞ。
「レニエ子爵ですか。」
「あら、レニエ子爵知ってるのぉ?アイツ、隣の領の領主なんだけど、三股不倫して奥さんと別れた後、事業もうまくいかなくなって、借金で首が回らなくなったのぉ~。絶対、リリーたんの資産狙いなんだから。」
「でも彼女は平民で貴族との結婚は難しいのでは?」
「そう!このままじゃ結婚できないからって、ネール男爵のところの養女にするとか、ほざいているのよ!ネール男爵のところで作られたコピー商品のせいで、フルール商会の化粧品の売り上げもだいぶ落ちているのにぃ~。二人でこの商会を食いつぶす気なのよ。」
「被害届は出さないんですか?」
「出してるわよ!でもうちは平民がやっている商会だから、権利侵害の被害届を出してもなかなか審査してもらえないのよぉ。相手はお貴族様だしね。もう何度もひねりつぶされているわ!」
「なるほど。」
「で、あんたみたいないい男が、リリーたんの恋人になれば、あのバカどももあきらめるでしょ~!今度一回会ってみない?別に気に入らなければそれでいいんだけど、私ぜったいお似合いだと思うのよ~♡」
「それは興味深いですね!いつなら彼女に会えますか?」
「そうね、土曜日は帳簿の確認をしに来ると思うわ。最近は忙しい時間帯は避けてるみたいだから~♪」
ちょうど特命の件もあるし、絶好の機会だと思った。次来るときはニコラも誘うか。




