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7. ママ友の心配

フルール商会では初め化粧品やヘアケア用品を中心に扱ってきたが、現在は飲食店の経営にも力を入れている。地元の海産物を活かしたレストラン『ビストロ フルール』、大衆居酒屋兼バーの『バー・ローズ』、そしてついに念願かなって私のお菓子のレシピを活かしたカフェ『カフェ ド マール』をオープンさせた。カフェ経営は前世の私の淡い夢だった。生まれ変わってよかった。


この店の実質的な管理は店長のサルビアに任せている。サルビアは私より10歳以上年上の少しふくよかな女性で、同じシングルマザーのママ友だ。サルビアの夫は漁師だったが海が荒れ、帰らぬ人になった。サルビアはまだ幼かった息子のトマを抱え、いくつかの仕事を掛け持ちして何とか食い扶持を稼いでいたが、私と意気投合してフルール商会の仕事に専念してもらうことになった。現在は『カフェ ド マール』の店長として見事な切り盛りをみせている。


彼女の息子のトマは今年で12歳だ。王都の騎士学校に通うことになり、サルビアも入学式のため今週の月曜日、火曜日は休暇をとっている。将来王立の騎士団に入隊するという誓約書にサインすれば、騎士学校の全学費が無償になるため、平民や魔力学園への入学に必要な魔力が足りていない下位貴族の間で人気だ。このため選考が年々厳しくなっており、入学時に卓越した剣術か体術、もしくはその両方が必要になる。


今週頭は大事な商談を入れず、人手不足の『カフェ ド マール』を手伝うことになった。滞りなく月曜日の業務を終え、その翌日もカフェに出向く。


ちゃりん、ちゃりん。

まだ営業前の店内に人が入ってくる音がした。従業員用の勝手口を見る。休みのはずのサルビアが立っていた。


「会長、昨日はお店ありがとうございました!無事にトマの入学式に参列することができました。」


「そんな急いで帰ってこなくても、息子さんと1日くらい王都観光すればよかったのに!」


「働かないと体がなまりますから!これお土産です。」


「ありがとう!ここのチョコレート、私の好物よ。」


2日の休みを1日に切り上げるとはなかなかのワーカホリックだ。

最近の悩みについて人生経験豊富な彼女の意見も聞いてみたくなった。


「架空の話なんだけど、戸籍上の父親が自分の本当の父親じゃないと気づいたら、どう思う?」


「うーん、それは状況による気がするわ。のっぴきならない事態なら納得すると思うけど、なんか気分は悪いわね。本当の父親のことは気になるんじゃないかしら?…ねえまさかと思うけど、それシモン様のこと?」


「あくまで架空の話よ。」


「あの子、まだ小さいのに必要以上に周りに気を使っているじゃない?どこかで反動がきそうな気がして怖いのよ。何か事情があるなら、母親の口からちゃんと真実を話しておくべきね。」


彼女はそれ以上深い詮索をせず、淡々と開店準備に取り掛かった。

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