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4. 親友の説教

パスカル兄様のお見舞いは次の日曜日に彼の体調が良ければという話になった。今までも体調がいい時を見計らって、花や菓子、商会で売っている香り付きの石鹸なんかを差し入れてきたのだが、今度のお見舞いは少し気が重い。


さてと今日はネモフィラがマールに来る日だ。彼女は騎士団所属の治癒魔導士として王都にある騎士団本部に籍を置き活躍している。毎月第二週と第四週の火曜日は王都近郊の騎士団支部であるマール沿岸警備騎士隊への往診日だ。馬車移動を想定して、往診日は本部での仕事が丸一日休みだが、実際マールで診療業務にあたるのは午後だけだ。彼女の場合、転移魔法で瞬間移動できるので午前はフリーになる。


初めはこの午前中の時間に、たまにお茶をして新規事業の相談や世間話をしていたのだが、最近は重要なことを彼女に依頼している。シモンの家庭教師だ。彼女の主属性は治癒魔法や浄化、結界を扱う光だが、副属性として火も扱える。火属性自体は貴族の中で珍しい属性ではないが、たまたま今のマール伯爵家は皆風属性で教えられるものがいない。ちょっとしたお手当を渡して、シモンの魔法の練習相手をお願いしている。


「ネモフィー、元気そうね。」


「ああ、ついにあの愚兄が結婚することになったんだ。」


彼女の兄、テオドール サヴォイアは乙女ゲームの攻略対象者の一人だ。伯爵家の嫡男でもともと学園卒業後は領地に戻って婚約者と結婚する予定であった。だが、オタク気質の彼はもっと魔法の研究がしたいと王都に居残って、魔法学園に就職した。この時もとの婚約者に愛想をつかされたらしい。魅了の呪いは生徒に危害が及ぶ前に彼が気づくべきだったが、一番初めに呪いにかかった。これでは解雇やむなしと言えよう。学園を去った後は、おとなしく伯爵家の領地に戻ったと聞いていた。


「あら、よかったじゃない?どこの家の方?」


「ジラール子爵の次女で、兄さんにはもったいない素敵な方だよ。君の方はどうだ?浮かない顔して。」


「あら、すぐわかるのね。シモンの指導前に少し相談してもよいかしら。」


さすが親友だ、以心伝心。ネモフィラを応接間に通して、この前のマール伯爵とのやり取りを事細かに話した。ネモフィラの険しい表情を久しぶりにみる。


「君が貴族に戻って伯爵家を継ぐのは良いとして、君の従兄にシモン君を認知してもらうことは反対だ。君とアベル君は婚約者だった。あの赤毛を見たら誰だってアベル君の子だと思うだろう。第一、そのシナリオだと、なぜ学生の君が失踪したのか、失踪後6年以上も姿を見せなかったのか、君の従兄の死期が近づいた今になって子を認知して入籍するのか、その辺の理由が不明瞭になる。」


「理由なんていくらでも後付けで考えるわ。シモンの髪の毛の色だって隠せばいい。」


「貴族社会の"噂"は時に度が過ぎることがある。シモン君は君とも従兄とも属性が違うのだろう?逆に他人に言えない相手との子、なんて噂されたらどうするんだ。」


「…」


「そもそも5年前、君に言われて『侯爵令嬢 リリアーヌ ブロワは死んだ。死人にすがるな、前を向いて生きろ。』とアベル君に告げたのを、私は今でも後悔しているんだ。あの時シモン君はまだ1歳だった。あの頃だったら、君たちは、ロベリアに壊される前の、元の形に戻ることができた。」


「それは無理ね。一度壊れた信頼は元の姿には戻らないわ!」


「そうは言うが、シモン君のことも考えろ。アベル君がいれば『魔力封じの腕輪』など着けさせる必要はなかった。」


「…」


頑張ってお金を稼いでも、子育てしても、属性の違いだけはどうにもならない。ネモフィラの言っていることは何も間違っていない。ただ親として存在価値を否定された気がして、悔しくて悔しくて涙が出た。


「…すまん、言い過ぎた。君は頑張っている。いや頑張りすぎている。ただシモン君の父親はどうみてもどう考えてもアベル君だ。名乗り出る前に一度話をしてみたらどうだ?生まれて6年間放置していた子をいきなり取り上げるなんて、いくら相手が力がある侯爵家だとしてもまずありえないと思うぞ。」


「ありがとう。今度、従兄のパスカル兄様とも話をしてみようと思っていてね。シモンのことをまず優先して、総合的に判断するわ。商会の方で商談の約束をしているからそろそろ行かなくちゃ。今日もシモンの指導、よろしくお願いします。」


そういって本日のところはお開きになった。

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