3. シモンの父親
「リリー、少し言いにくいことを話すのだが、どうか怒らず聞いて欲しい。向こうは侯爵家だ。シモンがボナパルト家の血をひく人間だと向こうに知れると、確かに分が悪い。」
「はい」
「では父親が別にいるとなったらどうかな?」
「!!」
「学園在籍中に不貞があったと勘繰られるのが嫌であれば、シモンの貴族籍を申請する際に、誕生月を少しずらすくらいは造作もない。」
もともとブロワ侯爵家で私の専属侍女を勤めており、私の失踪後侯爵家をクビになったアンヌの話では、父は捜索の打ち切りと共に、ボナパルト家に婚約破棄の書類を送ったそうだ。確かにそれ以降の妊娠であれば"不貞"にはならないのか。シモンの髪色は、アベルと同じ燃えるような赤毛だが、あれは魔力に影響されたものだ。魔力封じの腕輪で一定水準まで魔力を下げると、私より少し濃い目の茶髪になる。もともと顔の作りは私に似ているし、火属性自体めずらしくはない。赤毛さえ隠せばボナパルト家の血縁と勘繰られることはまずないだろう。
「では父親はどうするのです?シモンを父親のいない子として登録するのですか?」
「パスカルではだめか?倅は肺病を患った時、婚約を解消していてね。それからは婚約者をおいてこなかったんだ。幸いいとこ同士の結婚は認められているしね。」
「パスカル兄様はそれで良いと仰っているのですか?!」
「ああ。納得はしてくれたよ。」
よくは思ってないだろうとその返事を聞いて思った。どこの世界に、余命1年と宣告され、廃嫡の上、自分の子どもじゃない子を認知させられる不幸な男がいるのだろうか。
「大事なことなので少し考えさせていただいてもよろしいですか。あと近いうちにパスカル兄様のお見舞いにも伺いたいです。」
「そうか、分かった。考えてくれるだけでもうれしいよ、リリー。」