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猫と聖女と、異世界カフェと~誤召喚されたけど、美味しい生活始めます!~  作者: タライ和治


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66.駄女神の説得と卵がゆ(前編)

 ……不安しかない。


 断酒期間が五日で途切れたクローディアに、お酒を振る舞った翌日。エドワードの使者が俺たちの家にやってきた。


 いわく、挙式について早急に結論を出して欲しいという旨の手紙を持参しており、これ以上の時間稼ぎは厳しいなと察した俺は、女神からの説得によって、揉め事を回避する時がやってきたことを感じとったのだけれど。


 肝心のクローディアはといえば、俺のベッドで腹を出しては、いびきをかいて爆睡しているような状況なわけで……。


 アルコールの濃い匂いが立ちこめる寝室に足を踏み入れたエリーとラテが、駄女神の身体を揺すっては起きるように懇願していたりするのである。


「女神様、女神様。起きてください、もうすぐお昼になりますよ」

「うへへへへへ……。もう飲めへんよぉ……」

「にゃ! にゃにゃにゃあ!!」

「アカンで、ラテ……。いくら自分の頼みでも、猫に酒を飲ませるワケにはいかんのや……」


 寝言を耳にしたエリーは困惑の表情でこちらに向き直り、それから続けた。


「ダメです、起きません。どうしましょう?」


 なかば絶望的な響きを帯びた声に、俺は思わずかぶりを振った。まったく、こんなことになるんだったら、昨日、酒を飲ませるんじゃなかったな。


 というのも、五日間の断酒期間から解放されたクローディアは、グラタンでお腹が満たされたのもお構いなしとばかりに、赤ワインに白ワイン、ブランデーに梅酒、さらには蜂蜜酒などなど、店中のありとあらゆる酒を、文字通り、浴びるほどに飲み続けては、帰宅したエリーやレオノーラから唖然とした眼差しを向けられていたのだった。


 おまけに絡み酒が止まらないし……。


「なあなあ、透ぅ……」

「はいはいはいはい、なんです?」

「嬢ちゃんたちとは一緒になるのに、なんでウチとは一緒になってくれへんのやぁ」

「なんでって、アナタ、女神様じゃないですか。恐れ多いですよ」

「嫌やぁ……。つれないこと言わんといてよぉ……。ウチも透と結婚するんやあ」


 今度はさめざめと泣き始めたクローディアは俺にもたれかかっては、エリーとレオノーラに刺すような視線を浴びせられたのだった。


「……ふむ。タチの悪い酔っ払いによく効くマッサージがあるのだが……。そこの酒乱に試しても構わんな?」


 そう言って両手をポキポキと鳴らすレオノーラをなんとか止めた俺は、やがて眠りについたクローディアを寝室まで運び込むと、ベッドに横たわらせた。まったく骨が折れるな……。


「女神様、大丈夫でしょうか……?」


 心配そうに呟いたエリーに、俺は深いため息で応じる。


「どうだろうなあ、いまのいままで酔い潰れるまで飲んだ姿を見た試しがないし……」

「なにはともあれ、我々としては説得が上手くいくことを願うばかりだが」


 何回目かのお代わりかわからないグラタンを頬張りながら、レオノーラは口を開いた。


「そもそも父上たちを説得するにもどうするか聞かされていないからな。私としては一抹の不安を覚えるが……」

「ああ、そのことなんだけど。一応、クローディアから作戦を聞かされてはいるんだ」


 それはグラタンを食べ終えて少し経った後、五日ぶりの酒に上機嫌となった駄女神の口から語られた“説得工作”の詳細についてである。


 例えば、エドワード家を対象とするのであれば、俺たちが挙式について相談したい旨を先方に伝え、その協議を重ねている最中、空から舞い降りたクローディアが「婚姻の儀式は自分が執り行う」という天の声を発し、エドワードに手を引いてもらうというものなのだが……。


 ぶっちゃけてしまうと、そんなに上手くいくかどうか疑わしい以外の何者でもない。飲酒したことで、“女神モード”が四分間に削れてしまい、この短時間で相手を説き伏せることなど、果たして可能なのか?


「大丈夫、大丈夫やって! ウチにまかせときー!」


 胸を叩くクローディアの顔は、アルコールの影響で明らかに紅潮しており、俺はと言えば、わずかでも成功率を上げるためにも、せめて酒が抜けてから、説得工作にあたってくれることを願うのだった。


 ……しかしながら現実は厳しい。


 願いははかなく破れはて、話は冒頭に戻る。


 タイミングの悪さを嘆いたところで、いまさらどうしようもない。こうなってしまった以上、粛々と作戦を実行するしか選択肢はないのだ。


 枕によだれを垂らしては熟睡し続ける駄女神様には、なんとしてでも夢の世界から戻ってきていただく必要があるわけで、どうやって起こしたものかと頭を悩ませていると、身支度を調えたレオノーラが寝室に顔を覗かせた。


「透、エリー。こちらの準備は終わったぞ。……なんで、女神様はまだ起きないのか?」


 そう言ってベッド脇に歩みを進めたレオノーラは、横たわるクローディアにまたがると、昨夜ぶりに両手をポキポキと鳴らすのだった。


「任せろ。一角獣騎士団に伝わる目覚めのマッサージは得意なんだ。どんな寝ぼすけさんも一発で目覚めるぞ」


 やがてクローディアの両肩を掴んだレオノーラは、捻り切れるんじゃないかと錯覚するぐらいの勢いで上半身に海老反りを決める。


「そして、こうだ」


 今度は頭を両手に抱えたレオノーラが、筆舌に尽くしがたい方向へと首を曲げると、絶叫とともにクローディアは起床を果たした。


「いだだだだだだだだだだだだだだ!!!!! ギブ!!! なんかようわからんけど、ギブやって!!!!!」

「おはようございます、クローディア」


 レオノーラから解放された女神は、なにが起きているのか理解できないといった面持ちでこちらを見ているけれど、あいにく、事情を説明している時間はない。


「早速ですが、作戦開始といきましょう」

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