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ファミリアに捧ぐ 82

 ハンターたちの絡みをかわし、なんとかサノに戻ってきたカガリは外見はさることながら、中もがらりと変わった建物にすっかり開いた口が塞がらなかった。

「全然違うな」

「でしょ?」

 隣に立つイオリは満足気に室内を見渡した。

「前はもっと店感が強かったけど、アタシとしては寄宿舎としての意味合いを強めたかったから、思い切って全部変えたんだ。吹き抜けの二階にも新しく席を設けて、食事ができるスペースは増やしたよ。広くなった分、上にあった部屋をなくしてもまだ余裕があったしね。部屋数も増えたよ。シャワー室も増やしたし。一階は見てもわかるとおり、前は個別テーブルだったけど、長テーブルに変えてもらった。窓際の席は残したからね。兄貴の特等席」

「ははっ、そうか。助かるよ」

「カウンターと厨房の場所は変わらないけど、前のときよりうんと広くなったね。兄貴たちの部屋はこのすぐ右の扉。入ってすぐ部屋ってわけじゃなくて、離れみたいに廊下の先にあるよ。こことは別にもう一つ小さい家が建ってる感じかな。二階構造で、一階はダイニングとシャワー室、簡易のキッチンもあるからね。二階は兄貴とチサトが住む部屋と、ミアの部屋だから」

「随分変えたな」

「前から食堂と部屋が直通なのはちょっと気になっててさ。これを機に離したんだ。アタシと旦那の部屋も離したよ。兄貴たちの部屋に向かう廊下を左に曲がった先がそうだから。厨房の真横にある部屋だから、旦那の為に直通の通路は作ったけどね」

 一通り説明をし終えたイオリは、「他には何かある?」とカガリに尋ねた。いいや、とカガリは首を振り、改めて室内を見渡す。

「これをアケミさんが見たら驚くだろうなぁ」

「……そうだね」

「報告には言ったのか?」

「建て直すときに一回。兄貴も久しく行ってないでしょ。あとで行っときなよ。魔物の侵入でちょっと荒らされたけど、今は前より綺麗だから」

「そうか。わかった、そうするよ」

「あ、パパ!」

 部屋を探索していたのだろう、扉を開けてミアがやってきた。その後ろからはチサトがついてきている。

「パパ、お部屋すごいんだよ! 広いしすっごくキレイなの!」

「あなたと共用の部屋って聞いてちょっと身構えちゃいましたけど、あの広さなら全然ありですね」

「そうですか。それはよかった」

「パパもいっしょに見よ! ミア案内するね!」

「ああ、ありがとう」

 ミアはカガリの腕を引き、早く早くと部屋に向かっていく。「ママも来て!」とミアが言うので、「はいはい」とチサトもあとに続いた。

 新しい家族の姿を微笑ましく眺めたイオリは、さてと腕まくりをし、夜に向けた歓迎会の準備に勤しむのだった。



「やぁっとカガリさん戻ってきた! 私一人で事務処理してたから大変だったんですよ!」

 受付から席を立ち、イチカがムスッとした顔で口を尖らせた。

 サノでの荷解きも終え、夜の歓迎会までの間、カガリは一度ギルドに戻ることにした。中では本部から届いた物資だろう箱が所狭しと置かれている。

「悪い。説明すると長くなるから省くけど」

「いいですよ、大体のことは支部長から聞いてますから。明日から死ぬほど働いてもらいますからね!」

「わかったわかった。あ、一応こんな状況だし、今後を踏まえても俺と君だけじゃ手が回らなくなるから、増員はお願いしといたからな」

「え、本当ですか? 助かります! 誰が来ますかね。男の人ですかね? それとも女の人ですか?」

「いや、そこまではさすがにわからないけど。君より手先の器用な人だとありがたいな」

「あ、またそういうこと言う!」

「カガリ、戻ったか」

「支部長」

 奥の支部長室から姿を見せたシロマにカガリは急ぎ歩み寄った。

「長らく留守にしてしまい申し訳ありませんでした」

「いや。体調はもう良さそうだな」

「はい、おかげさまで」

「魔武器はどうした」

「あれは……手放すことにしました。代わりになる銃が作れそうだとのことで」

「そうか、それなら今後の心配はいらないな。お前に任せたい仕事が山のようにあるんだ。プランクトスの洞窟の件も進めなければだしな」

「ああ、そうでしたね。そう言えばハルト君は? 姿を見かけませんが」

 カガリは辺りを見渡し言った。集落に辿り着いたときにハルトの姿は見つけられず、ギルド内にもいないようだ。丘から見たとき、訓練場も資材置き場として使われている様子だったから、復興の合間に訓練をしているとは思えない。

「ハルト君か。ミカゲさん……いや、姓は今お前と同じなんだからこの呼び方はよくないな。チサトさんが戻ってくると聞いてから、最近は復興の合間に何かしてるのか時々姿が消えるんだ。集落の外には出ていないようだから、あまり心配はしていないが」

「そうですか。私も一応気にかけておきます。歓迎会まで時間があるので、何かできそうなことがあれば手伝いますが」

「荷物! 運び切れてないやつ地下に運んでもらいましょうよ! あと在庫整理! 七日おきに本部から大量に物資が届くからどこに何が入ってるのかわからなくなってるんです!」

 イチカがこれ見よがしに声を張り上げ物資を指した。確かにざっと見る限りでも、食糧品と飲料水、衣類と言ったものが全て混在して置かれている。

「それは運んでもらうときに君が事前にどこに何を置くか決めておかなかったからそうなってるんじゃないか?」

「ち、違いますよ! 私が指示を出す前にどんどん荷物が置かれてっちゃうんですよ!」

「だからじゃないか……」

「カガリ、物資はここにあるだけじゃないんだ。地下にもあるし、衣類のように温度管理が必要ないものは外の敷地内に積んである。復興に携わっている人間の数と物資の量が見合ってないんだ。今、同時並行で倉庫を作ってもらってるところだ。もうすぐ完成する。サノが完成したことで少しは人を呼べるようになったから、他のギルドに人を寄こしてもらえないか要請も出している。もう少ししたらまた忙しくなるだろう」

「溜まっている事務処理に洞窟の件、追加の人員補充に物資管理か……」

 ――働きたくなくなるとか言ってる場合じゃないな。

「持ち場管理も今は私がしているが、お前が戻ってきたならお前に任せたい。現場を取り仕切っているのはカフさんだ。連携して管理してほしい」

「わかりました。とりあえず今は、ロビーに溢れてる荷物をある程度地下に運んだほうがよさそうですね」

「ああ、頼む」

「ようやく荷物持って階段上り下りする作業から解放される……!」

 と、まるで天にも昇るような様子でイチカが言った。いやいやと、カガリは衣類の入った箱を指した。

「衣服は軽いんだから、それくらい運べるだろ。食糧品と飲料水は頑張って俺が運ぶけどさ」

「えー、カガリさん中央でのんびりしてきたじゃないですか。その分体力仕事頑張ってくださいよ」

「した日もあったけど大半が会議やら面倒事やらに巻き込まれて大変だったんだからな。あと俺も歳だから一日に運べる量は限られてるぞ」

「それは日頃カガリさんが体動かしてないからですよ。そんなんだと将来お腹に贅肉ついちゃいますからね。いいんですかぁ? チサトさんに失望されちゃっても」

「っ、人が秘かに気にしてることを……わかったよ! 運べばいいんだろ運べば!」

 カガリが戻ってきただけなのに妙に騒がしくなったギルド内を、シロマは微笑ましく見守った。これこそがこの支部のあるべき風景だと、そう言いたげに。

 支部長室に戻ったシロマは、自身の端末に新着メッセージが届いていることに気づいた。ミクロス支部における増員の件についてとタイトルにある。中を開いたシロマは、ふむとそこに添付されていた資料を見て唸る。担当ハンターの名簿欄にいくつか名前が並ぶなか、見慣れた文字がシロマの目に飛び込む。そこには確かに「チサト=ミカゲ(旧姓)」の文字。

「これは……期待大だな」



「おい、ハルト坊! もう歓迎会始まるぞ!」

 カフが集落の片隅で這いつくばり何かを必死に探しているハルトに声をかけた。

「わかってるよ! 先行ってて!」

「人が親切で声かけてやってんのに……もう全員サノに行ったからな!」

 やれやれと、カフは一人サノへと歩き出した。

 ハルトは暗いなか、ランタンの灯りを頼りに「くっそ、どこ行ったんだよっ」と生い茂っている雑草を掻き分けている。

 あの方向なら飛んでったのはこっちのはず――。

 もう何日数えたか、これだけ探してないならもうこの辺り一帯は片付けられてしまったと考えるしかない。……諦めるか。いやでも。もう少し、もう少しだけ。

 ハルトは近くの植え込みの中に体を突っ込み、ランタンで中を照らした。と、何かが灯りに反射した。

「――あった」

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