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ファミリアに捧ぐ 71

 それからいくらかの日々が過ぎた。ミアは相変わらずチサトには会いに行きたがらず、話題にも上がらない。その分外で遊ぶことを覚え、毎日友達とアンバーを連れ、どこかしらに出かけに行っている。

 一方のカガリも、サポートハンター制度の仕組みが徐々に形作られてきたことで、本部長であるアウラギの命のもと、会議に参加することが増え、日々を忙しくしていた。

 ある意味カガリも、その事から目を背けようとしていた。集落ではほぼ毎日会っていたはずのチサトとも、ここしばらくは会わない日々が続き、気づけば最後に会った日から七日近くが経とうとしていた。

 この七日のうちに、授与式の正式な日程が街中に貼り出された。ユノが言っていたとおり、満月の日だった。それを知った街人たちはそれはそれは大いに喜び、街中はそれから一気に活気づいた。数日と経たないうちに訪れる商人の数が何倍にも膨れ上がるほどだ。

 何度目かの会議後、休憩所から地上を見下ろしたカガリは明らかに増えた人の数に圧倒されていた。授与式ってそんなに大事なのか……?

「授与式前後はお祭り騒ぎですよ」

「わっ。いたんですか」

 背後から突然聞こえてきたチサトの声にカガリは驚いて飛び退いた。久しぶりに見たチサトはすっかり見えているところの包帯がなくなり、健康的な顔色でカガリの隣に立ち並ぶ。

「前日祭と後日祭って言って、朝から夜まで盛大に大騒ぎです。露店は増えるし、音楽は街中から聞こえるし、まぁとにかくいろんなもので溢れ返りますね」

「そんなに盛大なんですか」

「みんなお酒を飲んだり、楽しいことをしたり、そうやって騒ぎたい理由が欲しいんですよ。街中の人たちに認知されてる大きな出来事も少ないですからね」

「なるほど」

「で、あなたが会議やら何やらに奮闘している間に、アタシがここを出る日が明日に迫ってるんですけど、約束のお出かけはどうしましょうか?」

「え。……え! しまった、ミアに何も聞いてない! い、急いで聞いてきます!」

 カガリはそれこそ大慌てで休憩所を飛び出していった。取り残されてしまったチサトは肩を竦めつつ、窓から街の様子を眺める。

 ……そもそも一緒に出かけたいって思ってくれてるんだろうか。



「ミアッ、ミアッ!」

 急ぎ帰宅したカガリは、出かける準備をしているミアを見つけ、息も絶え絶えになりながらミアの前に膝をついた。

「どうしたの、パパ」

「み、ミカゲさんっ……明日、明日っ、本部を出るらしいんだ。約束したろ、一緒に出かけるって」

 ミアはそれを聞いて、肩から提げているポーチの紐をぎゅっと握り締めた。

「どこ行きたいか、今のうちに考えておくんだぞ。っ、あー、疲れた……」

「……言ってないもん」

「?」

「ミア、そんなこと言ってないもん」

「ミア?」

 今にも泣き出してしまいそうなほど顔を歪ませたミアは、「ミアが言ったんじゃないもん!」と声を上げて家を飛び出していってしまった。

「ミア!?」

 飛び出したミアを追い、アンバーが駆けていく。慌ててカガリも追いかけたが、ここまで駆け抜けてきたせいで遠いミアの姿を追うほどの体力が残っていなかった。カガリは膝に手をついて息を整えるのがやっとだった。

「……ミア」



 本部に戻ったカガリは、休憩所で軽食を取っていたチサトにミアの様子を伝え、とても出かけられる状態ではなさそうであることを告げた。チサトは寂しげな表情を見せたが、同時に既にわかっていたような顔もした。

「なんとなくそうなんじゃないかなって思ってました。ミアちゃん、前にここに来たときから一回も来てくれてないですもんね」

「すみません……まさかあそこまでとは」

 チサトは大丈夫だと首を振った。

「一緒に出かけるのはなかったことにしましょう。元々ミアちゃんのお願いじゃなかったですもんね」

「本当に申し訳ない……なんであの時のミアも、あんなことを言ったのか」

 すっかり気まずい空気になってしまい、カガリは肩を落とした。おや、とチサトはいやに落ち込んでいるカガリの顔を覗き込む。

「もしかしてアタシと出かけるのちょっと楽しみにしてくれてました?」

「え?」

 思わぬ言葉にカガリは顔を上げ、チサトを見た。数舜間が空き、カガリは軽く咳払いをする。

「……まぁ、楽しみでなかったと言えば嘘にはなりますけど」

「随分素直」

「いやいや。……あなたには感謝してもし切れないことがたくさんあったので、何かできないかな、とは思ってましたね。だから、ミアが怒ったことに関しては申し訳ない部分もあるんです。あの時のお願いには私の私情が反映されていたので。もっとよくミアの話を聞いてあげるべきでした。父親として情けない限りです」

「なるほど。わかりました。じゃあ、アタシにちょっと任せてもらえません? ミアちゃんのこと」

「あなたに?」

「今すぐには難しいんですけど、ちょっと思い当たることがあるんですよね。ミアちゃんがアタシになんであんなこと言ったのか」

「そうなんですか?」

「ええ。でもそうだな、その前にあなたのお願いを叶えてあげましょうか」

「は?」

 チサトは二ッと笑みを浮かべると、「前日祭、アタシとご一緒しません?」と続けるのだった。



 日が暮れ出すのが早くなってきた。夜になると気温もぐっと下がり、家の中でも一枚多く羽織るようになる。

 カガリはどこか落ち着かない様子で家の中をウロウロとしていたが、「ただいま」とミアがアンバーと共に帰ってくると、それに「おかえり」とカガリは返した。

「ミア、ちょっといいか」

「……うん」

 昼間の出来事があるからだろう、ミアはとても気まずそうにカガリの前に立っていた。

「ミカゲさんとも話して、明日のお出かけはなしにしてもらったからな」

「……」

「その代わり、授与式のあとに一緒に街を見て回らないかって。ミアに話したいことがあるからってミカゲさんが言ってた」

「……。チサトお姉ちゃん、怒ってない?」

「いいや。悲しそうではあったけど、怒ってはなかったよ」

「……」

 ミアはまたポーチの紐を握り締め、「ごめんなさい、しなきゃ」と声小さく呟いた。

「そうだな。パパも授与式には出なきゃいけないし。おっと、そうだった。前にキサラギさんから授与式で着る服を売ってる店を紹介してもらったんだ。ミアも服を買いに行こう」

「ミアも?」

「ああ。パパもミカゲさんもおめかしするんだ、一緒に街を見て回るならミアもおめかししないとな。あ、もちろんアンバーもな」

 視線を落とした先にいたアンバーに目を向けると、アンバーは首を傾げてカガリを見上げていた。

「今度は約束破らないって誓えるか? ミカゲさんはミアの約束守ってくれただろう? 今度はミアが守る番だ」

 ポーチの紐をきつく握り締め、ミアはこくりと頷いた。カガリは「よし」と頷き、ミアの頭を撫でる。

「そうだ。前日祭、ミカゲさんと出かける約束してるんだ。ミアはどうする?」

「ほんとうは行きたいけど……ミア、おともだちのみんなとあそぶ約束しちゃったから……」

「そうか。ならそっちのほうが優先だな」

「でもね、じゅよしき?のときはみんなパパとママとでお出かけするって言ってたから、その日はだいじょうぶだよ!」

「わかった。当日はちゃんとミカゲさんに謝ろうな」

「うん」

 ようやくミアの表情にも少し明るいものが戻り、カガリも一安心だ。肝心の自分のほうはと言えば、忙しさにかまけて全く何も進んでいない。たった、たった一言だ、「あなたはここに残るんですか?」という言葉すらかけられない。頷かれたときの自分がどんな感情になるのかが怖い。

 ……参ったなぁ。



 前日祭までの間、会議に出席する為、本部と家を行き交う日々が続いた。そのついでに映像通話でミクロスとも連絡を繋ぎ、復興が順調に進んでいることも確認した。サノの建て直しも始まっており、予定ではあと一月ほどで完成するという。前よりも強固な造りで、一回り以上も大きくなるらしい。これは楽しみだ。

 プランクトスの洞窟に関しては、現在本部から派遣された学者たちがミクロスに滞在しており、日夜討論を繰り返しているそうだ。時には熱が入りすぎて取っ組み合いの喧嘩にまでなるらしい。意見をまとめるというのはなかなか難しいようだ。

 また、イーニスを追う調査班に関しても、神出鬼没のイーニスを追うのはなかなか苦労があるらしく、思うように調査は進んでいないらしい。

 Sランクハンターに協力を仰ぎ、近くにイーニスの群れがいないか探してもらっているそうだが、調査班が辿り着く頃にはイーニスも消えてしまう為、今は各地のハンターからの情報収集に徹しているそうだ。

 飛空艇ではまだ遠距離を行くのに何日もかかってしまう為、現地にすぐ辿り着けるような移動手段の開発が必要なのではないかともなっており、ネロの登場でただでさえ忙しくなった開発部はますます忙しくなりそうだ。

 ネロと言えば、武器開発における新プロジェクトの指揮を執りながら、同時並行でカガリの魔武器に代わる銃と弾薬の開発も進めており(開発許可と開発費申請はその日のうちにもぎ取ってきたらしい)、早ければカガリがミクロスに戻る頃には試作品が試せるだろうとのことだった。とんでもない勢いである。

 一方、ミアのギフトアビリティの研究については一旦保留という扱いになった。というのも、研究部と開発部においてかなり大掛かりな人事異動があったからだ。これによってトドロキが主任の座を降格……とはならなかったが、その代わり新たに主任の枠を二人にし、その空いた一枠にネロが据えられることとなった。

 そうすることで、ネロも本格的にギフトアビリティの研究に携わることができるようになり、トドロキの暴走を止めることができる立場になった。それぞれにチームを抱える立場の為、より効率的に動かないと互いの進行状況に影響してしまう。意見の食い違いが起きるものに関しては次々と保留の判断を下しているおかげで、ミアのギフトアビリティの研究も保留となったのだ。いつ再開するかはわからないが、一旦は心配事が去り、カガリも深く安堵した。

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