ファミリアに捧ぐ 1
砂塵が舞う荒野を、ローブを身に纏い、フードを目深に被る人物が一人歩いていた。
足元からは乾いた大地を踏み締める音がする。
大きな木製の箱を背負うその人物は、不意に足を止めるとローブの下から使い古された地図と方位磁石を取り出した。地図のある一点にはバツ印がついている。
――この近くのはず。
その人物は辺りを見渡し、目をよく凝らした。
バタバタと靡くローブの音がうるさい。
場所を移動したか。そう思い歩き出そうとしたとき、ハッとしてその人物は視界の奥、砂塵の向こうに一瞬捉えた影を見逃さなかった。
近くの岩陰に身を隠し、息を潜める。地図と方位磁石をしまい込み、代わりに望遠鏡を取り出すと捉えた影を覗き込む。
全身が火に焼かれたように赤い体、四つの牙に、巨大な猪のような見た目。
間違いない、あれだ。
背負っていた箱を降ろし、蓋を開ける。その人物が中から取り出してきたのは重厚感のあるガントレットだった。
フードを押さえながら空を仰ぐ。舞い続ける砂塵の、僅かに開けた視界の青さに向かって指笛を吹く。どこからともなく尾の長い、赤く美しい鳥が上空に現れた。
それを確認するとガントレットに腕を通し、指先までをきつくはめ込む。準備に必要なのはたったこれだけだ。
赤く巨大な体は荒々しい鼻息と共にその場に立ち止まった。眼光鋭い金色に輝く瞳が、目の前に突如現れたローブ姿の人間を捉えたことでより一層きつく細められた。
装着したガントレットが拳を握り、打ち鳴らされる。まるでそれが合図かのように、赤い巨体は激しく呼応し醜い咆哮を上げた。
猪に似た生き物はその場で大きく体を震わせ、前足の蹄で硬い地面を何度も叩き鳴らした。鼻息を荒くし、数歩その場でうろつくと、徐々に歩き出し、更には駆け足になり、速度を上げていよいよ猛進してきた。
悲鳴にも似た奇声を上げながら、その生き物は目前の標的に向かって突進した。走り抜けるとその生き物の視界が、標的が身に纏っていたローブに覆われ遮られる。
鬱陶しそうにローブを振り払った生き物は、自身が走り抜けた場所から標的が忽然と消えていることに気がつき辺りを見渡した。
――と、次の瞬間。生き物の顔面が歪んだ。
突如視界に入らない側面からの重い一撃を受けた生き物は、その巨大な体を大きく傾けさせた。