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6.素敵な友人が出来ました

 今日はとある公爵夫人主催のお茶会に招かれている。アンネリーゼやジークハルトの家とは深い付き合いがなく、なぜ招待状が届いたのかと不思議に思ったが、同じ日にモニカから手紙がきて自分も出席するからぜひお茶会で会いましょうと書かれていた。それならばモニカに姿勢矯正の努力を見てもらえるとアンネリーゼは意気揚々と出席の返事を出した。

 公爵家のお茶会に相応しいドレスに着替え準備万端で玄関に向かえば何故かそこにジークハルトがいた。


「まあ、ジークどうしたの? 今日これからお茶会に行くことになっているのだけど……」


 今日は来訪の予定はなかったはず。予想外にせっかく会えたのに一緒に過ごせないことが悲しい。


「ああ、知っているよ。近くを通るから送っていこうと思ってね。終わる頃に迎えに行くよ」


 ジークハルトはこともなげに言う。


「忙しいのではないの?」


 優秀な彼が日々忙しくしているのは知っている。半年後には自分たちは結婚式を挙げ、それと同じころにジークハルトが爵位を継ぐことが決まっている。もちろん彼を全力で支えていくつもりだが自分に出来ることは少ないと寂しく思っていた。そんなときに彼にお茶会の送迎などさせて負担を掛けたくないとしょんぼりする。

 ジークハルトはアンネリーゼの頬に優しく触れた。


「確かにまあまあ忙しいけど最近リーゼに会えなくてリーゼ不足なんだ。せめて送り迎えを口実に少しだけでも一緒にいたい。私の我儘に付き合ってくれるかい?」


 アンネリーゼは嬉しくて彼の手に自分の手を重ねて微笑んだ。


「嬉しいわ。ジーク。本当は私も会いたかったの」


「わずかな時間だけど一緒に過ごせる!」とウキウキしながら馬車に乗り込む。自然と甘い空気になりつつも楽しくおしゃべりをしながら目的地の公爵家まで送ってもらった。


「ようこそアンネリーゼ様」


 案内されたのは公爵家の素敵なガーデンだった。呼ばれた女性は多くないが顔なじみの女性はいないので不安になる。だがみんな穏やかな表情で温かく迎えてくれた。その中にモニカの顔を見つけて安堵する。モニカはアンネリーゼを見るなり笑顔で小さく手を振った。同じように笑顔を向けそっと手を振り返す。席に着いて一通り参加者に挨拶をする。主催者の公爵夫人の隣には老齢のしかし背筋のピンと伸びた威厳を感じさせる女性が座っていた。軽く会釈をする仕草にも品があり声にも張りがあって年齢を感じさせない。


(あそこに座っていらっしゃるのはモニカ様のおばあ様で王妃様の教育係をなさっていたというアガーテ夫人だわ。元はこちらの公爵家のご令嬢だったのに、大恋愛の末に身分違いの子爵家に嫁がれたのよね。当時、淑女として素晴らしいとの評判は結婚後も健在で王妃様の教育係を乞われ引き受けたのだわ)


 その繋がりで今回お茶会に出席していたのだと納得した。会えるなんて想像もしていなかった。アンネリーゼ、感激である。


(ああ、あの憧れのアガーテ夫人に会えた! なんて素敵なのかしら。ただ座っているだけでも気品を感じる。もしかしたら私がアガーテ夫人に憧れていることをモニカ様は知っていて今回声をかけて下さったのかもしれないわ)


 わざわざ手紙で出席を促してくれたモニカに心から感謝した。

 お茶会はアガーテ夫人が中心となって進む。アガーテ夫人の話は為になる内容だったが、だからと言って堅苦しくならずウイットに富んでいた。失敗談なども教訓として話してくれた。終始笑顔のまま過ごせたとても楽しいお茶会だった。他のご婦人方とも仲良くなれて「今度お茶会に招待したいわ」とまで言ってもらえた。いい事尽くめだ。


 同年代の令嬢とのお茶会とは違いこれはこれでとても素敵だ。モニカも真剣に時には楽しそうに頷いていた。今回モニカの優しさに触れて、どうせなら学生時代から仲良くしていたかったと惜しく思った。

 楽しい時間が終わり辞去の挨拶をする。するとアガーテ夫人がじっとアンネリーゼを見てから口を開いた。


「アンネリーゼ様。とても美しい姿勢ですね。あなたの所作は洗礼されていて素晴らしいわ」


「!! ありがとうございます。アガーテ夫人。実はモニカ様がアドバイスを下さったのです」


 アガーテ夫人は目を見開くとモニカへ視線を移す。そしてふっと笑った。


「こちらこそ有難う」


 何についてお礼を言われたのか分からないが、聞く雰囲気ではなかったので微笑みで返した。お淑やかに対応したが心の中は誉めてもらえた興奮で叫び出したいほどだったし、心臓がバクバクいっている。モニカを見れば不思議なことにどこか困ったようなそして気まずそうな顔をしていた。玄関に向かう途中でモニカが話しかけてきた。


「アンネリーゼ様は完璧ですわ。私、先日は余計なことを言ってしまったと後悔していました。どうか許して下さませ」


「まあ、そんなふうにおっしゃらないで。モニカ様のおかげでアガーテ夫人に声を掛けて頂けましたし、このお茶会もモニカ様の口添えで招いて頂けたのでしょう? ずっと憧れていたアガーテ夫人と会えて感激しましたわ。ありがとうございます」


 アガーテ夫人は厳しいが王族から信頼と尊敬を寄せられていると聞く。夜会でも王妃様の側に控えアンネリーゼが気軽に話せる人ではないのだが、今回はお話を聞くことが出来た。実際に目にしてその姿に更に憧れを強くした。年齢を重ねたからこその佇まい。いつか自分もと思ってしまう。これもモニカのおかげだ。お礼を伝えればモニカはさっきと同じような困ったような顔をしたが、それでも嬉しそうに目を細めた。


「そう言ってもらえると嬉しいわ。自慢の祖母なんです。それとおばあ様は本当にアンネリーゼ様を誉めていました。私もあなたを見習いたいと思います」


「見習うなんて……なんだか恥ずかしい。モニカ様。よかったらまたお会いしていろいろお話したいわ」


 モニカは目を輝かせて頷いた。


「ぜひ、ぜひ! お願いします。あとどうしてもお伝えしたかったのですけど、アンネリーゼ様ほどジークハルト様に相応しい方はいませんわ」


「そうおっしゃっていただけると嬉しいです。ありがとうございます」


 モニカの言葉に心をほっこりさせながらアンネリーゼはモニカと次の約束を交わし別れた。玄関を出るとすでにバルリング公爵家の家紋のついた馬車が止まっていた。優しい婚約者が自分を迎えに来てくれていた。アンネリーゼに気付いたジークハルトが恭しく手を差し出す。軽い足取りで彼のエスコートを受け馬車に乗る。


「お茶会はどうだった? 楽しかったかい?」


「ええ。とても楽しかったわ!」


 アンネリーゼは興奮のままお茶会でアガーテ夫人に会えたこと、彼女のお話しがとても素晴らしかったこと、そしてモニカと友人になれたことを矢継ぎ早に話した。ジークハルトは満足気に頷く。その表情は甘く優しい。


「リーゼにとって有意義な時間になったようだね」


「そうなの!」


「手を下さなくてもダウム子爵令嬢は愚かではなかったようだな」


 ジークハルトの低い呟きは小さく聞き取れなかったので首を傾げながら聞き返す。


「ジーク。今なんて言ったの?」


「リーゼが楽しそうでよかったと言ったんだ」


 ジークハルトはそっとアンネリーゼの肩を抱き寄せた。彼の胸に頭を預け幸せな気持ちになりながらそっと目を閉じた。




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