投诉
白茶の顔に我慢ならない不快そうな表情が浮かぶ。
この化け物は全く動かない。
目の泪を拭き、ドアを開けてみる。
開かない。
振り返ると、全身血まみれの長髪の女がすぐ目の前に立っていた。近距離で突然飛びかかってきた。
白茶は震え上がる。冷たい。
腐った臭いが鼻を突く。白茶は再び吐き気を催す。
「ぶえっ......」
女幽霊は2歩下がる。すでに恐ろしげな顔が、黒い血の脈のようなものでいっそう異様な風貌となる。
白茶は吐き終え、ドアに寄りかかって彼女を見る。
幽霊は耳障りな叫び声を上げた。
白茶は一瞬目の前が暗くなり、気を失いかける。
後ろ手にドアを開けようとしている。
本当はそこまで怖くはない。死んだって解放されるだけだ。
慢性病に長年苦しめられてきた者にとって、病死以外ならどんな死に方でも受け入れられる。
だからといって投げ出すわけにはいかない。
幽霊は攻撃を仕掛けてこない。条件が揃っていないのだろう。
ここはルールのダンジョン。すべてはルールに従う。
ポスターのどれにも、洗面台の蛇口はパニックにならず電話をかけるよう書いてあった。
恐怖を示さず冷静でいれば、安全なはずだ。
幽霊は音でしか攻撃できないようだ。
白茶の頭がズキズキ痛む。力を込めてドアを引くと、カチッと開いた。
同時に照明が明るくなる。
幽霊は瞬時に消え失せた。
白茶は力尽きて倒れる。
赤いカーペットの上だからさほど痛くはない。
肖晓は驚いて駆け寄り、異変に気づき洗面所を見る。
「あなたは......」
「助けて。受付に電話しなくちゃ」白茶は弱々しい声で言った。
どのルールにも人を呼ぶことが書いてある。人を呼ばない方が危ない。今は第一歩を踏み越えただけだ。
肖晓は深呼吸して、もう何も言わずに抱き上げた。
白茶「......」
自分と正常な体の違いをあらためて痛感する。
「でも......宿に電話しないの?」
そう言ってはいるが、肖晓はドアを開けた。白茶の選択を尊重する。
自分には良いアイデアがないのだから。
白茶は頷き、肖晓の肩に頭を預ける。
「蔡が受付のポスター通りにするように言っただろう?」
肖晓「......」
肖晓は複雑な顔で1階まで白茶を抱きながら、何と言っていいのか迷う。
これは従順すぎるのではないか。
正直、白茶がトイレに入った隙に、ダンムリを見ていた。
情報がない中で、プレイヤーの中にはダンムリに助けを求める者もいる。
重要な情報がプレイヤーに分からないうちは、ダンムリに書いても誰にも見えない仕組みだが。
状況を知らせようとする人もいるだろう。
だが残念ながら、何もなかった。
自分は有名実況者でもない。そういった実況者の部屋にはヒントが書き込まれることがある。
白茶の様子を見て、冷笑するダンムリが数本流れた。
【蔡にこんなに従うなら、死ねと言われたら死ぬのか?笑】
【蔡の部屋に行って、白茶が嘘ついてると言えよ】
【そうとも。でも規制されてるらしい。彼女のスキルだね】
【くだらん。主に言うが、病人と一緒にいる必要あるのか?早く死んだほうがいいんじゃないの?】
肖晓は呆れるが、白茶を抱いているのでダンムリを消す手が使えない。
1階のソファに王旭明が座っているのを発見する。
王旭明は様子を見て眉をひそめる。「何かあったのか?」
白茶が軽く肖晓を叩き、下ろすよう合図する。ゆっくりと受付に歩み寄り、電話を取る。
肖晓は言いたげな表情が続く。
王旭明は立ち上がり、二人が受付に連絡しに来たと察し、2回目の連絡で何が起きるか興味がある。
白茶が電話をかける。
電話の向こうはノイズが多い。
白茶の頭痛は激しさを増す。目の前が闇になり、これ以上は耐えられまい。
「はい、ご用件をお伺いできますか?ヒソヒソ」
「306の洗面所の蛇口が赤くなって、吐きまくった。苦情を言いたい」
白茶の声は弱々しく、電話の声よりも虚ろに聞こえる。
「ご苦情の内容を教えていただけますか?ヒソヒソ」向こうの声の方がはっきりしている。
「施設が貧弱で蛇口まで故障している。苦情に値しないと?私はもともと病人なんだ。熱を下げる薬が必要なんだ」
精一杯言い終え、肖晓の驚愕した顔を見上げて弱々しく笑う。