『21』
『21』
何の成果も無かった--。断じてしまうのは容易いが、そうしたくはない己がいることをフォーディンは自覚した。
ガゼッタ山からナハトーク樹海に至る王国随一の難所。他の国や大陸のことは知らないが、自然豊かなエイブベティス大陸でも抜きん出た難所は、世界中を見渡しても、比肩する存在はそう無いと思っている。
今回はナハトーク樹海に到達することすら出来なかった。調査らしい調査も、ほとんど出来なかったと言っていい。ブラウラグアの尾どころか、影、気配すら感じられなかった。それでも成果無しとしない故は、隊員たちの資質を目の当たりにしたからだ。
デルという少年も含め、王国外の者である四人が只人でないのは解っていた。むしろ瞠目したのは、王宮内から選抜されたという者たちだった。
精鋭などと言われていても、所詮は平穏な王宮内でのことと、たかを括っていた。しかし、それが誤りであるとすぐに気付かされた。
取り組む姿勢は真面目そのもの。結果、みるみる練度を上げる者が次々と現れた。元々そうした資質を兼ね備えていたのだと思うと共に、王宮内の仕事においてもそれぞれが戦場であり、日々、己を磨いているのだと考えを改めた。
フォーディンは、小さくない手応えを感じていた。烏合の衆でなければ、数はそのまま力になり得る。
相手にするのは、神獣ブラウラグア。調査隊の力は、高ければ高いに越したことはないのだ。班の再編成が行われたが、フォーディンはさほど大きな問題とは捉えていなかった。次回の調査ではナハトーク樹海にまで到達できるだろう。そうなってからが本番だと、高揚する。
キーオンを筆頭に高い資質を備えた者たちが必死になる根底には、王太子シザサーへと向かう想いがあるようだ。それは認めざるを得ない。
シザサーの期待に応えたい。シザサーの役に立ちたい。隊員たちの端々から滲み出ていたそうした想いが、怯みそうになる難所で彼らを突き動かした原動力だった。
当初は、単に王太子という地位に藉口し、隊員たちが動いているのだと思っていたが、難所にて半月も行動を共にした今、それが誤りであると理解した。彼らが命を賭す理由は、王太子という地位ではなく、王太子シザサーという人物そのものにあるのだ。
一体シザサーのどこに、それ程の人望・人徳があるのか。ブラウラグア一色だったフォーディンの中で、シザサーはデルソフィアに続き興味が芽生えた存在となった。
そして今回の班再編成に当たって、シザサーは第二班へ同行すると言い出した。その本心はまだよく分からないが、高みの見物をするだけでない姿は評価できる。
公式狩人の一件以降、名君と言われているアツンドが率いてさえいても、王君一族や王宮幹部などには何も期待できないと思っていた。だが、シザサー、そして彼のために必死になっているキーオンや隊員たちを目の当たりにし、一括りにしていたのは己の不明であったのかもしれないとフォーディンは思い始めていた。
次回の調査に向け、高揚するフォーディンの心であったが、同時に微かな重しのようなものを感じてもいた。シザサー同様に、いやむしろシザサーよりも前に、その存在に興味を持ったデルが、第二班になったことだ。
縁もここまでかと考える一方で、フォーディンの心内には何故か、ナハトーク樹海をデルと二人並んで歩く姿が浮かび上がっていた。




