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後継〜神皇帝新記 第二章  作者: れんおう
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『17』

『17』

 広大なエイブベティス大陸を隈無く調査するのは、三十人超程度の人員では不可能だ--。

 調査隊に合流したフォーディンは挨拶もそこそこに、シザサーやキーオン、デルソフィアなど他の隊員を前にそう断言した。

 調査隊は王宮を後にし、前線基地へと移っていた。前線基地は王宮より北西に一刻ほど進んだ地にある旧ムトタンパ聖堂に設けられた。現ムトタンパ聖堂が王国街内に建立されたのを機に使われなくなった建物で、古いが広さは十分で、隊員三、四人につき一部屋が割り当てられた。

 フォーディンが加わり全員が揃った形の調査隊は、旧聖堂の大広間で初めての打ち合わせ会議を行なっていた。

 「では、どうすべきなのか?」と、皆が思った疑問をキーオンに問われると、「心配ない」と言って、フォーディンは四つの地名を挙げた。

 「ブッパー森林山とネノの森、そしてガゼッタ山とナハトーク樹海。これらの地を調査し、ブラウラグアが見つからなければ、ブラウラグアは絶滅したと考えて良い」と言い切った。

 地名を聞き、隊員たちの間から僅かながらも騒めきが起きた。ガゼッタ山とナハトーク樹海の名が挙げられたからだ。

 ブッパー森林山とネノの森は王宮より東にあり、ガゼッタ山とナハトーク樹海は西にあった。南北に比べ、東西に長いエイブベティス大陸において、険しい自然は王宮を中心に見ると、西側に偏っていた。

 その中で、ガゼッタ山は大陸最高峰で、登山道は切り立つ岩峰が幾つも続く独特な山容となっている。岩峰を抜けた辺りからは万年雪が現れ、凍った雪道あるいは雪渓が頂上までの道程を困難なものにする。

 しかも今回は、ただ登って下りてくるだけではなく、調査を行うのだ。当然、登山道から逸れ、通常は人が足を踏み入れない場所にも進んでいかなければならない。

 そして、ナハトーク樹海。

 こちらはガゼッタ山の西側の麓に広がっており、ガゼッタ山を抜けなければ辿り着けない。太古よりほぼ手付かずで、人を寄せ付けぬ地とされる。それでも太古から積み重ねれば、同地を訪れた者は相当数に及ぶが、無事に帰還した者が数える程であることが、極めて攻略困難な自然であることを物語っている。

 まず何よりも、全容を記した正確な地図が存在しない。これまでに帰還した者が記した断片的な地図は幾つかあったが、仮にそれらを組み合わせても正確な全容には程遠いと言えた。

 まさに難攻不落の象徴とも言うべき自然をフォーディンは口にしたわけであり、精鋭揃いの隊員といえども、騒めきが起きたのは無理からぬことと言えた。

 さらにフォーディンは、前線基地である旧ムトタンパ聖堂に残る王太子とミハエ、護衛者の二人を除き、隊を三つに分けることを提案した。

 具体的には、約半数の十五人を第一班として困難なガゼッタ山〜ナハトーク樹海へ向かわせる。残りの十六人をさらに二つに分け、それぞれをブッパー森林山とネノの森に向かわせ、そちらの調査に目処がつき次第、第一班の方へ合流させる。そうした提案だった。

 二つ三つの質問はあったが、異議は出なかった。質問にもあった班分けについては、フォーディンが隊員のことをまだ何も知らないとしたため、シザサー及びキーオンに一任された。

 しばしの休憩が与えられ、シザサーとキーオンにミハエを加えた三人は別室で班分けの作業に入った。途中、フォーディンとミーシャルールが一度ずつ別室に呼ばれた。

 休憩中、デルソフィアは何度かフォーディンとの接触を試みたが、その都度、別の隊員がフォーディンに話しかけ、機を逸し続けた。デルソフィアは、調査隊に加わったフォーディンに改めて訊いてみたいと思っていた。

 ブラウラグアの棲息を信じているか--と。

 なかなか機会がないまま、他の隊員と話すフォーディンを時折見遣りながら、「訊くまでもないか」とデルソフィアは独りごちた。隊を先導する格好で、先刻までの話や提案をするフォーディンの姿を思い出したからだ。

 フォーディンはブラウラグアの棲息を確信している。その地が、先刻挙げた四つのいずれかなのだろう。

 出来得るならば、その瞬間に立ち会いたいと思う。ブラウラグアを前に、一体、フォーディンは何を語るのか。伝説と伝説の邂逅に、自身は何を感じるのか。

 シザサー、キーオン、ミハエの三人が別室から戻り、キーオンが班分けを発表した。

 デルソフィアを含めた四人は、第一班に配属された。世話役のミハエを除くと、調査隊で紅一点のルネルにだけ、最困難が予想される第一班へ配属されることに対する意志確認が行われた。不要極まりない確認だ、とデルソフィアが苦笑するのとほぼ同時に、「何ら問題ありません」とルネルの声が響いた。

 そして当然のごとく、第一班にはキーオンとフォーディンの名もあった。

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