09 網タイツ
快適な旅は最初の目的地で終わりを告げる。
旅立ちから三か月ほど、ようやく目的地の街へとたどり着いた私たち。
行方不明の母娘を探す私たちの周りに集う怪しい影。
「これってやっぱり私たちがギルドで定期報告してからですよね」
屋台で買った焼き菓子を食べながら探索魔導具を操作しているノルシェ。
「ふごふふふぐふご」
「飲み込んでから喋ってください」
「モノカお姉さん、お茶どうぞ」
マクラの煎れてくれるお茶は格別に美味い。
「とりあえずギルドだけじゃなくてあの街全体が監視されていると見た方が良いかな」
「まあ、領主様ですからねえ」
先日の激闘の結果、マクラ権を手に入れた私はご機嫌である。
マクラ権の所有者は抱っこやおんぶの際、優先的にマクラに接触出来るのだ。
故に現在私の膝の上にはマクラがいる訳で、要するに最高だぜ。
「ニヤけてないで何か妙案思いついてください」 マクラ成分が不足気味のノルシェは不機嫌。
「派閥関係や過去から現在までの街の事情に詳しい人を見つけるのが最優先、かな」
「テントの周りにいる連中は、しばらく放置で良いですかね」
私たちの目の前にあるテーブルはあちらの世界でいうところの立体ディスプレイ。
テントを中心として投影された半透明なドームの中に様々な色の光点が見える。
いわゆる生体反応があるものは赤い光点なのだが、
「怪しい動きをしている赤い光点は三個、どうしますか」 私より一個多く食べたな、ノルシェ。
「一匹捕縛して、お話しを聞く方向で」
「痛くしないでね」 マクラは敵にも優しいけれど、お母さんたちの我慢にも限度があるのだよ。
「大丈夫、全然痛くしないよ」 精神支配魔導具で無理矢理情報を聞き出すだけだからね。
もちろんマクラにそのような現場を見せる訳にはいかず、ひとりテントを出て作業に取り掛かる私。
適当なのを一匹捕縛して簡易結界付き隠蔽小テントに連れ込んで作業開始です。
目の前にいるのは一見何の変哲もない女冒険者ですが、露出度控えめな装備の下は網タイツアーマー姿のいやらし刺客だということはとっくに確認済みですよ。
まずは拘束魔導具の効果を切ってと、
うむ、首を動かさないで目線だけで周囲の状況を確認したということはそれなりの使い手ですな。
「くっ、殺せ」
あーっ、コイツやりやがったですよっ。
私の人生初くっころが姫騎士じゃなくてえろクノイチになっちゃいましたよっ。
ちくしょう今まで私がどんだけ美味しそうな女騎士を見逃してきたと、って、
おっといけねえ、興奮しすぎて思わず素が出そうになりました。
だめですよ私、素を出すのは運命の人の前だけでって決めてるでしょ。
今の私は命を賭けてマクラを守護するクールな槍使い、危ない危ない。
「ふーっ」
落ち着いたところで、オペを始めますかね。