11 潜入
潜入は、素早く・目立たず・大胆に。
さすがにこんなのは道場で教えてくれませんでしたが、まあ異世界生活の豆知識ってやつですかね。
正直、私って地味ですから。
ノルシェやリリシアさんや梨想さんたちみたいに華が無いから潜入には最適、ってうるさいわっ。
そんなこんなで目的地到着っと。
何か地味な平屋の一軒家です。
貴族のお屋敷勤めだった方のお住まいには見えないですね。
ノックしてもしもーし。
「どなた」
あらやだ、素敵な老婦人。
「わたくしニエルさんの友人のモノカと言います。 少しお時間よろしいですか」
「どうぞお入りになって」
老婦人の名はセシエラさん。
事情を説明しても今イチ警戒を解いてくれなかったのでネコさんポーチをお見せすると、
セシエラさん、涙をぽろぽろこぼしながら当時の状況を語ってくれました。
狙われた母娘の脱出を手助けしたのは家族ぐるみの付き合いがあったセシエラさんのご主人。
脱出は成功したけど、母娘が逃げた森の捜索で見つかったのはご主人の遺体だけだったそうです。
「よかったら、私もあなた方の旅に御同行させていただいてもよろしいかしら」
セシエラさんの目には覚悟の光。
「私ももう長くは無いので、最後に後悔しないようにしたいの」
聞けば病で残り少ない人生を思い残すことなく過ごしたいとのこと。
そういう重たいのは私の柄じゃありません。
ネコさんポーチからおもむろに取りいだしたるは、もしもの時にとニエルさんから託された秘薬。
その名も『エリクサー改』
とりあえず万病・万傷どんとこいらしいので、その旨説明して老婦人に手渡した。
「ニエルちゃん、お元気かしら」
元気も元気、たぶんあの屋敷で一番生命力に溢れているのはあのちっこいサキュバスです。
お上品な所作で薬を飲んでいる老婦人にお味の感想を聞こうとしたら、
「あらまあ」
こっちがあらまあですよ、って言うか誰ですかあなた。