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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
三国の転機
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幢子の帰る家

幢子の記録 詩魔法そのジュウニ。

 冬季に音楽会をやるつもりで、炭焼きに夢中ですっかり忘れていたことを思い出す。


 楽器を増やそうと思っていたんだった。

 というわけで、製鉄関連に忙しくなる前に、整形しやすい粘土を使って陶琴とうきんを作ってみようと思い、邪魔をされない様にいっそ、ジエさんに作ってもらうことにする。


 普段粘土なんかコネないジエさんには苦戦をするかと思ったけれど、手際がいい。

 子供たちがこっそり教えてくれた話だと、実は一番窯に入る釉薬待ちの素焼きの器に、たまにジエさんが自分で作ったものをこっそり混ぜているらしい。


 知らなかった。実際、本人もバレていないと思っているらしい。

 そう言われてみれば、妙に一番窯の前に立っている日があった事を思い出す。


 釉薬に板を鎮めるジエさんは、見ていて面白かった。村の手隙の人たちも、物珍しげに集まる。

 そんな中を照れて恥ずかしがるように施釉せゆうを進めるジエさんを、私は見ていた。


 窯から上がった板を豆のつるで縛りながら繋げ、木の台座の上に並べていく。


 丸鉢まるばちで叩くと、心地よい音が響く。

 その音にエルカも思わず声を上げる。音階を調整しながら、板の並び替えと選別を続けていく。


 台座の上から弾かれた板を不良品だと思って、その度に声を上げ悲しそうに眺めるジエさんが面白い。

 それもちゃんと調整して再利用するから安心して欲しい。


 出来上がった陶琴とうきんは、一時はジエさんが雨の日に遊んでいたが、いつの間にか一番小さい子に取られてその遊び道具になっていた。余材で作ったカスタネット共に、人気の玩具になってる。

 詩魔法の知育楽器として、大人から子供まで今後重宝しそうだ。




 陽がゆっくりと傾く中、巡回行脚じゅんかいあんぎゃを終えてポッコ村に帰参した三人を、村の一人が遠目に見かけると、火の番をしている担当以外の全ての村人が集まる。

 その仰々しさに何事かと思っていた三人に、村の青年たちが前に出て、そこへ案内をする。


「凄い。凄いよ!出かけてる間に、皆で内緒で作ってたの?」


 幢子が黄色い声を上げる。

 それを前にエルカも目を潤ませ、コ・ジエも興奮を隠せずに居る。


 三人の前には教会をそっくり煉瓦で模倣したかに見える建物だった。


「トウコ様に村へちゃんと帰ってきて貰いたくて、村の皆で作ったんですよ。」

 今や一番窯の窯元の婦人が、赤子を抱えながらそう説明をする。


「日に増して煉瓦種をこさえて、当番で煉瓦も焼きました。交代で漆喰を練って。早く中も見てくださいよ。」

 青年の一人が言う。そう言われ、幢子たちはその戸を開く。


「食器も全部陶器。机も椅子もある。教会の中と作りが同じだけど、村の皆だけでこれを全部作ったんだね。分かるよ、凄いよ。」

 幢子の興奮は収まらない。地面に敷かれた漆喰や煉瓦の壁を叩いてみたり、食器を一枚ずつ眺め、椅子や机の立て付けを確かめている。どれも真新しさに溢れている。


「トウコ様の家としてお納めしても宜しいでしょうか、コ・ジエ様。」

「ああ。ああ、構わない。よくやってくれた。」

 事後承諾とも言えるその青年の言に、コ・ジエは思わず目頭を熱くする。

 そのコ・ジエの返答に村全体で歓声が上がる。火の当番に甘んじる面々もその歓声に思わず笑顔を浮かべる。


「私一人にはもったいない広さだし、必要な時は皆も使ってくれていいよ。でも凄く嬉しいよ。」

 集まった村人の前で、幢子は頭を下げる。温かい気持ちで一杯になっていた。


 そんな幢子の前に、村の子供達が集まって前に出る。

 その手にはオカリナがあり、一人の合図で全員がその吹き口を唇に当てる。



 少しずつ音色の異なるオカリナで小さな合奏が始まる。

 その詩は幢子が先の冬季に皆で演奏しようと課題にしていた曲だった。


 詩魔法ではなく、その曲だと気づいたエルカは一寸の焦りから一転、直ぐに目から溢れ出る涙に抗えないでいる。


 幢子にしてみれば嬉しくも少しだけ複雑な感情だった。

 辿々しく、縦笛の音楽の授業の様に教えた「国民的アニメのエンディングテーマソング」が、目の前で自分のために演奏されている。


 嬉しい気持ちと同時に、少しだけ申し訳無さと、大きな気恥ずかしさが複雑に胸中で混じり合っていた。しかし、横でエルカが感極まって泣き出しており、コ・ジエまで鼻をすすりあげている。

 子供達の演奏があまりにも熱心で、丁寧で、上手なのが複雑さに拍車をかける。


 どう感謝の言葉を贈ろうか、こっそり頭を悩ませていた。



 演奏の最中、村人たちがにわかにざわめき出す。


 幢子の目は子供達から離れそちらに向く。

 陽が沈みつつある村の彼方此方あちこちに、丸い光の玉がちらほらと姿を見せ始めていた。

 何処から飛んできたのであろう、初めて見る光景に、思わず子供達も演奏の手が止まる。


「え、蛍?かな?それともなにかの魔法?」

 演奏が止まり、ざわめきの方が大きくなるとやがてその光はゆっくりと静まっていく。


「私も今みたいなのは、初めてみました。多分、なにか詩魔法になってしまったのだと。」

 エルカは目元の涙を拭いながら、その目で見た光景について答える。


「その、なんか、変な雰囲気になっちゃったけど。ありがとうね、皆。」

 少しだけ、偶然の雰囲気で誤魔化せた事を安堵しながら、幢子は子供達を両手を伸ばして抱き寄せて感謝した。

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