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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
国家の転機
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領主候補の才幹

柑橘類。

 皮に覆われ、その内側に柔らかい果肉と種がある。人類に広く好まれている果実の一つ。


 日本で馴染み深いものといえば、蜜柑であろうか。

 冬に食す果実の代名詞とも言える。


 他にも、ゆず、すだち、かぼす、レモンなど。同一品種内でも大きさが異なるもの、酸味が異なるもの、香りの違い、外部の皮の厚み、果肉の形状、種の大きさや形に至るまで。

 品種改良が盛んに行われている果実の一つであり、今ではその種類も多く、増え続けている。


 果実だけでなくその皮にも有用性を求められ、食材の香り付けや、その苦味をアクセントとして用いられることがある。



 栄治は、目の前に差し出されたそれを興味深く見つめる。


「ご用意させていただいたものは、今朝、取ってきたものです。ご賞味いただけますか?」

 その場の人数分が用意されている。コ・ニアはそれを解っていたかのように、中座し、その場へ持ち込んだ。栄治はまず、それを手に取り皮の香りを確認する。


「久しい香りがする。ユズに似ているか。」

 栄治がする仕草を見て、リゼウ国の官僚たちもそれに習う。栄治は早速その皮を割って、果実の味を確かめる。


「少し苦味があり、酸味も強いか。同じものとは行かないが、レモンに近い。だが食えるな。甘みは薄いが悪くない。」

 同じ様に口に運んだリゼウ国の官僚たちは、その酸味に顔を歪める。

 魚と豆以外のものは、久しく食べていない事もあり、慣れないその味に舌を出す。だが、二房目を口に運ぶ者も少なくない。


「ああ、ビタミンCか。知らなくても身体が自然と求めるか。」

 馴染みのない味に戸惑いつつもそれを口に運ぶ官僚たちを見て栄治は納得する。

 そしてその挙動の正体を興味深く見つめる。


「いい品だ。是非とも欲しい。これを人里へ植樹し、管理しようというのなら、俺は協力を惜しまない。許す限りどんどん増やし、商品として出荷し広めるべきだ。豆とは折り合わないが、家畜の肉や魚とは相性がいいだろう。」

 栄治が言うのを官僚たちは苦味と酸味に堪えながら見守る。

 その応答を待ってコ・ニアは微笑み、栄治を見据える。


「これとは違う果実が、雨季の終わり頃から乾季の初めに。もう一種、とても小さい果実をつけるものが雨季の前に。領民の空腹を慰めるものとして、存じ上げています。」

 栄治は過ごしてきた日数から、この世界の一年をどれほどの日数か逆算していた。

 その計算に季節を当てはめ、類似する果実を考察する。


「その季節にまた来よう。我が国で今調べさせている果実もエスタ領の方々に共有し、適したものを試みていってはどうだろう。もちろんコイツは有力候補の一つだ。真っ先に試したい。」

 栄治の答えに官僚たちは一瞬の戸惑いを見せるも、目の前の果実の一房を前にやがて頷く。そして思い思いに、一つ、また一つと口に運んでいく。


 この日の交流を終え、客間へと案内する家令の促しに即する官僚たち。


 栄治はその促しを一寸止め、その場に残り座したまま、自分を見るコ・ニアとコヴ・ラドを見る。

 何かを察し、家令は一歩引いてそれを見守る。


「連中は行っちまったが、まぁいい。お嬢さん、まだあるだろ。」

 栄治はコ・ニアを見る。そして目の前の空になった陶器を指す。


「今日出されたものは、前のと違う。隠し立て無しと言ったろう。」

 その言葉と仕草を正確に受け止めたコ・ニアは、栄治を見る。そして頬を緩ませる。


「果実、と申されましたので。果実のお話を致しました。」


「これだ。前も言ったが、あんたの娘はとんだ食わせ物だな、領主様。」

 コヴ・ラドが苦い顔をする。今回の果実も、自分の預かり知らぬ物であり、その準備の良さから予め売り込むつもりで用意されたことには気づいていた。


「あるんだろう?茶の葉が。それだけじゃない、あんたはそれを試している。商品として出せる茶をここで作ろうとしている。違うか?」

「その通りです。気づいてくださると初めから信じていました。」


「大国から輸入しているものを、自分たちで作れるようになれば。そう思っている方は何も、お一人ではないという事です。以前よりそのような事が出来ないか細々と調べを進めていたのです。」


「私にも隠してか。販路はどうするつもりだったのだ。」

 コヴ・ラドの追求が始まるが、頭を抱えるそれを、コ・ニアは笑う。


「高いものを買わない事もまた商人でしょう、お父様。自領のもので賄う。信頼でき好んでくれる方に売る。それを続けていけば、長い月日で販路としていく事も可能でしょう。お父様のご存命中にそれが出来ないのならご報告は不要でしょう?かえってご心配をさせるのみです。」


「成程、道理だな。だが、あの茶は良かった。その葉を落とす樹なら次代まで待つことはない。俺が知識と技術で支援しよう。増やせ。喜んで買うだろう奴をもう一人知っている。恩を売れるぞ。そいつも色々落としてくれるだろうしな。」


「まぁ。この陶器以外にも色々あるのでしたら、とても興味深いお話ですね。ジエさんから横取りできるかしら。」

 コヴ・ラドの表情はみるみると険しくなっていく。それを見て栄治は声だけは笑いながらその場を立った。

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