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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
国家の転機
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茶碗のお茶

塩害。

 農作にとって致命的であるこの問題は、沿岸地域では馴染みが深い。

 海からの潮風、海水の侵食浸透。


 作物は環境の影響を強く受ける。

 好む温度、好む湿度、好む土中の化合物、好む日照時間。


 そういった中で、一貫するものとして塩害がある。

 海辺の砂浜でマメは育たない。マメに限らず余程塩に対して抵抗力がない限り植物は育たない。


 ただこれが内陸に発生する塩類の集積となると途端に問題の視認性が悪くなる。

 火山性物質、埋蔵鉱物、或いは雨天、乾季、河川の含有ミネラル。


 塩害以外にも作物の育成条件、好嫌が存在することがよりそれを複雑化させていく。


 これらの問題について理解が深まり、考察と研究、そして対策が試みられてきたのは近代、そして化学研究が進んだ現代に至ってからである。



「少し待って欲しい。農作に対する施策があるとするならば、それは国の機密規模の話であり、国家間の優位性そのものを揺るがしかねない問題だ。リゼウ国の使者がそれを軽々しく我々に口にしていいのか?まして、イノシシの飼育?人が明日を生きる食料にも困りかねない、この地域で。馬鹿げている。」

 コヴ・ヘスは言葉を荒くする。


 もし仮にそれが解決できるとするならば、人口の流出、流入にも関わる話であり、出生率にも波及する。商圏も大きく変わりかねない。

 ここに至って、目の前に現れた「トウコの同郷」を称するこの男が、幢子の同類である事を認識する。


「だがリゼウ国はこの問題の解決に向かっていくでしょうな。私は国主にそれを誓った。その準備のためにここに訪れている。立場も、権限も。持参した依頼書の印がその証拠です。」


「土壌の問題。ああ、土の塩基濃度。それで草木灰と木酢液ですか。後は、塩害とか?」


「ま、その辺りを真っ先に疑うわな。話が手短に済んで助かる。」

 幢子の頭に学生時代の授業の記憶が駆け巡る。それを満足そうに栄治が頷く。


 その一連の所作に、コヴ・ヘスは言葉を失う。

 二人の間では、それだけで何かが繋がってしまったのだと理解ができるだけに、頭を抱える。

 直様、手元の陶器の鈴を鳴らし、外の給仕を呼びつける。


「あ、風鈴。そうやって使っているんですね。」

 幢子の間抜けた声に、栄治が思わず吹き出す。

「やっぱり風鈴だったのかそれは。通りで懐かしい音色だと思ったわけだ。」

 二人の間に気の抜けた会話がやり取りされる。二人を置いて、給仕が戸をくぐり現れる。


「ラドを呼んできてくれ。手に負えん。」

「コヴ・ラド様はつい先頃、馬車で屋敷を発たれていかれたばかりで。」


「馬を使え。直ぐに呼び戻せ。緊急だ。話の続きはラドが来てからだ。それから全部話せ!」

 コヴ・ヘスは口内ににじむ胃液の酸味のようなものを強く意識する。

 それは貨幣の準備に頭を抱える時に感じるそれ以上のものだと理解をしていた。

 目の前の二人はそれと知らず笑ってすら居る。その事が、拍車をかけていると嫌でも理解する。



「貴方がたは協力者だ。少なくとも幢子殿がやってることを理解し、協力している。だったら私もそれと真っ向から事を構えるより、お互い手の内を明かして行った方が、協力していった方が動きやすい。そう考えた。」

 戻ってきたコヴ・ラドを交え、応接室から場を談話室に変え、四人は対峙する。

 家令がその前に茶を置く。まずはそれにコヴ・ヘスが口をつけ、三者にそれを勧める。


「笑ったのはエスタの領で茶碗に茶が注がれた時だ。馬鹿げた話かもしれないが、そこでこんな事もあるかと何処か感じていた。作っている奴と、それを売っている人間が決定的に何か違うんじゃないかと。だから同郷の奴が居る期待も生まれ、結果的に河内さんに伝聞を送った。」


「私は埼玉の生まれですけどね。ああいう田舎と都会のやり取りは理解できます。」

 幢子は久々に安心感のようなものを感じていた。

 心の何処かでは望郷と不安の気持ちが燻っていたこと、寂しさがあったことを意識する。


「俺は滋賀と三重、奈良のちょうど真ん中辺りだ。山の中だよ。だから珍しい事じゃない。高校、大学と通ったが、実家に戻って畑や畜産をやっていた。若いのが俺しか居なかったから、近所を手伝いながらな。近くにゴルフ場もあってな。意外と都会な所もある。」

 それは栄治にとっても同様であった。妹と言うにはやや年の離れた幢子に、それでも離れていた家族に再開したかのような安堵感を得ている。


「旧交を温めているかの所、済まないが。」

 コヴ・ヘスが割って入る。コヴ・ラドもその口元を歪めている。

 説明も詳しくされないまま呼び戻されたので、事態を理解できていない部分が多い。


「ああ、本題だ。要はこの冬が明けて直ぐ、まずリゼウ国では土壌改善を本格的に進める。」

 栄治はまずは鶏が必要だった。鶏糞と鶏卵。

 そのために塩と貝殻を求めた。その次第を話していく。


「貝殻でそれを試しても良かったが、真っ先に疑ったのは塩害でな。だが家畜の増産もいずれ手を付ける必要があったから、先に鶏に手をつけた。実際にリゼウ国では既に飼料改善に手を付けている。」

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