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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
国家の転機
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男の素性

家畜。

 古来より人は、動物を飼いならし、育て、命を奪い資源を得てきた。

 それは狩猟に追われ、動物性タンパク質を得てきたそれより古い時代よりも、人口の増加と文明の発展に大きく寄与する。


 家畜とて生きている。本来であれば野に生き、草を食み、虫を食らい、水を飲み、或いはそれを準じるより大型の動物から逃げて過ごす。


 人々は発展をする過程で、家畜に餌を与え、子を産ませ、親を狩り、その子を再び育てる。

 そうして外敵から守り、食を与えることを引き換えに、それらを安全に、狩猟する。


 野山を走り、森を征く、そうした危険の多い生活から、人々は定住を基礎としていく。

 その過程で農作、そして家畜は、その最大要因となったとも言えるだろう。


 しかし人はそのために、人が食べる分だけでなく、家畜に与える食料を育てねばならない。

 その安全のために、命をかけて外敵と戦わねばならない。


 文明の発展の過程で、人々は、家畜が本当に求めるものが、人間と何ら変わらないことに気づいていく。それを損なえば、品質で、その数で、或いは量で、報いを受けることになる。


 一般にブロイラーと言えば、量産性の高い安価な鶏肉であることのみを指しがちだが、彼らの求めるものを端的に理解し、効率的に追求し、それを与えた、言わば積年の関係の延長線なのである。


 無知故ゆえに彼らの求めるものを与えねば、本来は卵の一つも、まともに得られぬ、のである。



「難局を超えたな、ヘス。一時はどうなることかと肝を冷やした。」

「巻き込んで済まなかった。この恩は必ず。とは言え、それもトウコ殿次第ではあるのだが。」


 両者が固く握手を結ぶ。

 王城へ当城したコヴ・ヘスが、貨幣による納税といくつかの権利の発行を受けて、足早に領地へと引き返した話は、直ぐに親友の耳へも届いた。


「しかし館の地下に溜め込まれたという秘蔵の陶器。親友の私にもついに見せてくれたことはなかったな。」

「必要ならば取り寄せよう。だが、ただ見るだけならばディルの港や、エスタの館で探した方が早いだろうな。」

 コヴ・ヘスの目には薄く涙がにじむ。

 息子の失敗を共に汲んでくれたこの親友が居てくれたからこそ、その損失を大きく取り返す事ができた。

 そしてその結果は、恐らくディル領が抱える諸問題の解決に大きく寄与する。その安心感が、心を許せる相手を前に涙腺を緩ませた。


「早速ですまないが、あの同伴の客というのは。信用がおけるのか?」

 ディル領へと舞い戻ったコヴ・ヘスは友人からの手紙をそこで受け取ることになる。


 そこには近々と客を引き連れ、館を訪れる旨が記されていた。

 その仔細の説明を、今、執務室で受けている。


「本人はリゼウ国の使者を名乗っていてな。私も知見はなかったが、ニアが既に以前、知遇を経ていたらしい。持参した依頼書も本物だ。リゼウの国主の国印もある、正式なものだ。」

 応接間で屋敷の家令の同伴の元、待たせている客人を指し二人は事前にその情報を取り合う。


「ダナウの親派の者という可能性は?」

「判らんが、今のところその可能性は低いだろう。リゼウ国はシギザ領と直接の接点もない。以前、依頼書を持参した際には、大量の塩と貝殻を買い付けていったという。」


「貝殻?貝ではなく、殻だけか?となると、我が領で似たような話を知っているが。」

 にわかに、コヴ・ヘスの頭に頭痛の種が思い浮かぶ。


「だが、少し事情が異なる。ニアによると、最初は密輸を持ちかけたらしい。見事な鶏を必ず届けるからと、塩と貝殻の援助を、関所を経ずに森を越えて求めてきたという。」


「鶏?煉瓦や陶器ではなく、か?」


「そうだ。その際には依頼書を持参せよとニアが退けている。ところがその後、今回と同じ様に正式に依頼書を持参した。必要だと言うから用意した、とな。後から思い返せば、確かにそのような内容の依頼書を処理した記憶もある。荷も確かに、リゼウ国へと届いているはずだ。」


「そして鶏肉が届いた。商品としてではなく寄贈としてだ。例年になく大ぶりで肉質も良かった。そして独立商人たちによってその良質な鶏はもう出回っている。他でもなくリゼウ国から生きたまま関所を通ってだ。」


「商人としては、信用せざるを得ないか。」

 コヴ・ヘスは顎髭に手を添え、友の言葉に頭を巡らせる。


「領主、そして個人としては、未だ不信感はある。だが、今回の一件にも気づいている所を見るに、ある程度の教養、何らかの識見があり、感の働く得難い人材と言えるだろう。無碍にあしらうにも問題がある。良質な鶏肉そのものにも関わっているというのなら、とそこまで思い至って、似たような話があることに気がついた。」


「トウコ殿は記憶喪失でポッコ村に現れたと聴いている。」

「それを素直に信じたお前ではないだろう。そしてあの黒い髪と黒い目だ。」


「直ぐに引き会わせるわけにはいかんな。まずは私が確認をし、滞在させ、確認する。その間にトウコ殿に使いを出そう。」

 コヴ・ヘスは陶器の鈴を鳴らす。これもまた、幢子から届いた品の一つである。


 それを合図として、家令の一人が応接間へと足を運び、それを追ってコヴ・ヘスもまた、親友を伴い、応接間へと向かった。

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