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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
国家の転機
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冬季研修制度の始まり

労働者。

 その定義や種類には、多くの見分と観測点があり、それによりそれを扱うものの是非に賛否両論が発生する。

 基準としては幾つかあるが、最も視認性が高いものは賃金の発生や、奴隷かそうでないか、だろうか。


 賃金の発生は労働の価値を指し示すものである。

 難易度、作業時間、或いは許認可免許の有無など。一般的には従事時間が長いほど高額の賃金が支払われ、その賃金で生活に必要なもの、娯楽要素などを自由に選択できる。


 当然、条件を問わない作業ほど賃金は安くなり、請負手が少ない作業ほど多くの賃金が発生する。


 しかしこれが、奴隷制度の導入と奴隷であるという状態が付与されると異なる。

 奴隷は「人間そのもの」を商品として扱い、奴隷商と購入者によって金銭の授受が発生した後は、購入者が労働者に対して賃金を払うこともなく、また労働者は作業に対しての選択権はない。

 奴隷の労働活動を維持するための健康保全、睡眠や食料の提供すらも、購入者の裁量や都合に依って随時左右される。


 少なくとも、表面的にはサザウ国には奴隷商はいない。

 それは、建国途上に明確にそれを禁じたからである。

 領民の裁量権を依然領主が有していることを、第三者が奴隷制度だと言わなければ、であるが。



 やってきた大勢の青年たちを、幢子は全く理解していなかった。


 彼らが運んできた荷車には、追加と言うには多い食料と、貝殻が詰まっていた。

 食料についてはもう十分な量が随時供給されている。突然供給が途絶えても、ひと月に少し足りないくらいは村の維持には問題がない。

 その間に売るための陶器を生産するなり手段を講じるにはやりようがあるだろう。


 二十人は居るだろう青年たちを、コ・ジエは出迎え、教会へと導く。

 そこへ幢子も同伴を求められる。


 作業の手を止めなければならない状態。それを惜しみつつ、幢子は窯場で煉瓦の品質を分別する作業から離れる。


 コ・ジエの説明によって、領主が村々から集めた冬季限定の作業従事者という話は、寝耳に水であった。更にその裁量権は領主からコ・ジエ、そして幢子に委任されている。


「いきなり来ても、村の作業は手伝えませんよ。」

 幢子はそう述べると、頭を抱える。そう言いながら、手はしきりに何かを数えだす。


 結局その日は、日中半日の交代制で、薪割りの介助と煉瓦種の作成の確認と体験をしてもらうことになる。


 その日の幢子の作業はまるで進まず、新たに訪れた青年たちに説明をすることに費やし、寝床については圧倒的な不足なため火が炊かれる一号窯と教会へと別れてもらうことになる。

 寝床についてはコ・ジエも失念をしていたらしく、各家から余剰の草布の提供と、教会に備蓄されたものを配布し、寒さを凌いでもらうこととなった。


 その翌日はまず、薪割りと煉瓦種の製造を彼らに体験してもらいつつ、そこで浮いた人員で急いで雨を防げる東屋を建てることになる。

 幢子はその監督に追われ、また木材を温存するために作成済みの粗悪な煉瓦を振り分け、その個数は随時、幢子の指示の下、コ・ジエが懸命に記録した。


 実質この煉瓦、そのための漆喰など、村の持ち出しという扱いであり、その個数や分量を領主が買い上げることを幢子は再三と要求をする。

 村の子供達が木べらで漆喰を練り上げている横で、自らの失念もあり、コ・ジエは努力を約束せざるを得なかった。更にこの日の煉瓦種は、手慣れた子供達が行った仕事に比べ、品質も悪く、作成数も少なかったことに幢子は頭を抱える事になる。


 青年たちが到着し三日目。

 突貫で行われた東屋の作成は、漆喰と炉の組み上げの経験を受け、それなりに頑丈で、それなりの様相となった。

 地面はむき出しであるが、炊き場には少量の煉瓦も組まれ、火を焚いた煙も東屋の屋根と煉瓦壁の隙間から流れていく。

 広さとしては十人が雑魚寝をするのがなんとかといったもので、半分はやはり交代で窯場に草布で包まって貰う必要があった。


 東屋が出来上がったのを見て、青年団はその漆喰や煉瓦に驚きの声を上げた。

 どうせなら窯場の夜通しの維持も体験してもらおうと、幢子はその日の作業も窯場番の青年たちへの説明に費やした。


 青年たちが村に響くエルカのオカリナの音に気づきだす五日目。


 この村を実質運営しているのが、どうやら自分たちに東奔西走している幢子であると、ようやく納得し始めていた。


 判らぬことを官吏のコ・ジエを探しだし問うと、そのコ・ジエは幢子を探しに行く。

 その幢子にコ・ジエが小言を言われながら、彼女が自分たち全員を集めそれを教えてくれる。

 必要なことを教え終えると、また別の誰かに呼ばれ、幢子は何処かへいってしまう。


 東屋で寝る番の青年たちは、その日起こったことを報告し合う。

 村の男達は食事をしている姿をまるで見ないだの、休憩をする時は集まって詩魔法師の土笛を聴きながら昼寝をするだの。

 或いは、窯から上がった陶器の見事さや、それを荷車が積んでいくのを見ていたものも居る。

 薪が使い放題とばかりに炊かれ、そのために薪割りに延々と従事する必要があるのを嘆くものが居る。

 後は豆を戻した汁の塩気が濃いだの、冷まさず飲む湯の暖かさが有り難いだの。


 彼らにとっては、たった数日ではまだこの村を理解する事が難しい有様であった。


 それでもまた翌朝には、必ず彼女がやってきて、少しずつ新しい作業の説明が始まるのである。

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