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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
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レールの誕生

「銑鉄脱却のためには、転炉にもいつかは着手しないと。」

 焼結鉱が陶器製のベルトコンベアにのせられてカラカラと高炉の中に入っていく。担当の作業員たちが無事に入っていく塊一つ一つに歓声を上げている。


 歯車とくさりの開発をした細工師の面々は感極まっている姿も見える。自転車型の脚力転換動力は今後、レールの上を走る軌道自転車の試作も兼ねていた。


 水車や風車を運用できる環境ではないので、送風装置の試行錯誤から始まった幢子の実験も、この先となると蒸気や電力といった、誤魔化しや一足飛びの効かないインフラの発展が必要であり、それは最早、このポッコ村単体での生産力や、付帯人口では、或いは十数年といった予備計画なしでは成し得ないものだと幢子は考えていた。


 目下、冬季の交流会を終えコ・ジエを中心として第二の製鉄拠点を検討しており、そのための設備の図面化が、この高炉と、工場こうばと言える規模になったこの施設・機器自体の試作でもあった。


 こうした建築にも、今ではミキサーを始めとしたコンクリート製造技術が下打ちされ始めており、それは王都でのポッコ煉瓦建築という絶え間ない実地から、経験を得た大工たちの情報共有と人材循環を経て成り立っている。

 王都で日雇いとして大工仕事の見習いに入った面々も、そこで信用を勝ち得て、身体検査を経て、ハヤテの準商会員として初めてポッコ村に派遣研修という形でやってきている。製鉄の工場こうばには関わらなかったものの、村のあちこちで足を止めてそれを見ている姿に、怒声が飛んでいた。


 こういった、今まで王領での不定職の上に成り立っていた人材に色付けが行われているだけでなく、各領単位で、漠然と「北部開拓村」と配されていた人材が、再配置され始めている。


 その一方で、やはり残し、拡張する事に決めた農地では、一の豆の作付けが行われている。

 今回はバルドー国の難民の夫婦が、その作付けに参加して、雨でぬかるんだ新規の開墾地に、慣れない鉄鍬を振るっていた。その夫婦の子供たちは兄妹で陶器窯の徒弟として働き出していた。


 新旧の産業が混在する、混雑としたポッコ村の活気は、天候を関係なく陽の出ている間は続いている。そうした姿は、交易路に点在する港町の規模と変わりなく、あるいはそれ以上であった。



 それから十数日。高炉から吐き出された液状の銑鉄が四ヤートルの陶器型に流し込まれる。

 そんな陶器型が十六本用意されていた。


 大量のスラグを排出し、それ以上に山とあっただろう木炭を消費して、それがいよいよ完成する。

 幢子が立ち会う中で行われたその瞬間は、工場こうば作業員の多くがその手を止めて見守った。


 こうして、その耐久度にやや不安を残しながらも、最初のレールが完成した。



「いよいよ、着工っすか。楽しみっすね。」

 測ったように、予定を数日前に村へとやってきた由佳が、レールの試験敷設場でトロッコの試用をひとしきり楽しんだ所で、それを見ていた幢子に話しかける。


「着工式やるんだってさ。スラール鉄道の。切り開きの最前線にも、国主様連れて、京極さんが来てるって。」


「うへぇ。出ないわけには行かないっすよね。そういう式典系の服装は持ってきてないっすよ。ばあちゃんが色々用意してくれたっすけど、全部王都の屋敷に置きっぱなしっす。」

 由佳が苦笑いを浮かべて舌を出す。そうして逸らした視線の先で衛士隊のリオルを見かけて手を振っている。由佳を見て、それにリオルが手を振り返す。


「衛士隊も規模を増やすらしくて、敷設現場の警備にも当たるんだって。で、当面はここが拠点になるから、その責任者がリオルさんになるらしいよ。だから着工式に出ることになりそうで、同じ顔してたよ。」

 当の幢子も、そういった式典に参加している時間があれば、村で製鉄の視察や、図面と向き合っていたかったが、コ・ジエを中心とした役人面々が結託し、退路を断たれる公算だった。


「他の所だと、ニアさんも来るって話らしいし、多分、セッタ領のドゥロ様も来るんだろうね。色々気の重い話になりそう。」


「そうっすね。駅街の建設計画も進んでるっす。セッタ領でも駅建設の予定が決まってるっす。あの人、いい人なんすけど、過保護っていうか何と言うか。」

 幢子とは違う悩みを抱えた由佳が、お互いの会話の難点の食い違いを気づかぬまま同時に溜息を吐き出す。


「あ、そう言えば、王都から使節団出して、バルドーの使者たちの送り返しするらしいっす。組合でも交易路復旧のための職員と調査班を出す話っすよ。そっちにも後追いで行くことになってるっす。」

 由佳の日程は、その脚力を当て込まれた濃密なものとなっており、恐らく、この場にこの日に到着した事も、その予定を調整した関係者が式典の予定を伏せて送り出した可能性に、由佳はその時、気がついた。


「それ、そうなると、ここへドゥロ様が正装服持ってくる流れだよね、他人事だけど。」

 そう思慮に行き着いて口にした幢子の視線の先に、エルカを伴って、コ・ジエが強張った笑顔を作って歩いてくるのが見えた。


「ああ。あの顔は、多分、リゼウ国から開通の知らせが来て、着工式の日程が決まったって顔っすね。で、二人でトロッコで遊んでたのが、エルカさん経由でバレたと。他人事っすけど。」

 由佳は仕返してやったとばかりに言うと、トロッコに乗っている幢子が頭を隠したのを見えるように指さして彼に知らせた。

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