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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
192/249

使者の来訪

 バルドー国側からやってきたその一党が、コ・ジエと衛士の一団が進路を塞いでいるのを視認する。

 一党で、武官服と政官服を纏った二人が、その馬から降り、コ・ジエの前へとやってくる。


「サザウ国の者か。バルドー国よりの使者である。サザウ国、王政庁に目通りするためにこの道を進んでいる。道を開けよ。」

 武官がコ・ジエを前に進み出ると、背後に控えた兵士たちはその槍を持つ手を返して倒し、矛先を僅かに衛士たちに向ける。


「サザウ国、ディル領、コ・ジエです。サザウ国、王政庁へ赴くその目的を伺いたい。当方、並びに私を遣わせたコヴは、王領より使者殿が兵士を伴い、この道を通る旨を聴いていない。」

 兵士たちの矛先が向けられた返礼的に、コ・ジエの背後に立つ衛士数名は、揃って槍を手にその石突を地面へと打ち付ける。


「ディル領。なるほど、もうディル領に入っていたのか。来る道なりのどの港町も無人で荒涼としたものだった。悪名高いディル領の領地とならば納得である。最早、民すら領を捨てて逃げ出したか。」

 武官がコ・ジエをなじるようにそう言い放つと、政官が一歩前を出て、一同の前に略式の礼をする。


「我らは交渉に来たのだ。ただし、ディル領とではなくサザウ国とな。我々の後背にはバルドー国王の王命があり、我ら使者の安否に我が国軍の進退がある。素直に通されよ。コというからには多少なり分別はあるだろう。この兵士たちは、無事に王領へたどり着くための、備えなのだ。」

 政官がそう述べると、兵士たちは更にその矛先を前へと倒す。


「いいでしょう。私とこちらに伴った衛士で、使者殿を王領へご案内致します。ただし、この人数以上の同伴兵士の進出はご容赦頂きたい。」

 コ・ジエは深く礼を払う。その言葉を受け、政官が手を振ると兵士は槍を持つ手を返し、その矛先を天へと向ける。


「おかしな真似をすれば、いかに領のコといえど、我が軍は容赦はせぬと思え。我々は伴われずとも、王領へ進むその目的は変わらん。」

 人数の優位も手伝って、武官はそう尊大に述べると、コ・ジエに背を向け、再び馬にまたがる。政官もまた、兵士の手を借りて馬の背に乗る。


 コ・ジエは手で合図すると、あらかじめ決めていた衛士の一人がその場を離れ、北の道を進む。


「あれは、事への備えを行っているコヴの下へと、使いに走らせました。では、ご案内させていただきましょう。」

 そうして、コ・ジエは一党から少し離れ、その横を伴う。




「ときに伺うが、雨季にもこうして、我が国の使者が、物事の不和を正すため、この道を通ったはずだが。」

 武官が、道中にコ・ジエにそれを問う。


「その件については、私は、コヴより、事の次第を言及する裁量を得ていません。お話することは出来ません。」

 その返答については、コ・ジエはここへと足を運ぶ道中にずっと思案をしていたものであった。


 事前に、幢子との打ち合わせで、侵略してきた軍や、自分たちが知っている情報は必要を止むを得ない場合の極一部を除いて、与えない事としていた。

 また、その裁量権は、コ・ジエ自身に幢子より委ねられていた。


「ここ二年、サザウ国は例に見ない豊作だったと聴いている。その真偽はさておいて、豆の実りばかりに目を向けて、国そのものに目を向けていないのではないかな?」


「我が領のコヴは領の難題に常に目を向けており、それはサザウ国全体とも相違ない事と私は考えております。」


「先の大きな地震と、我が国の使者は、不明でまだ若いコヴにはさぞ難題であったろうな。本来或るべき姿に戻すというのであれば、我が国も取れる立場が変わってくるであろうよ。」

 武官の立て続けの言及に、コ・ジエは内心の落胆を深めていく。


「リゼウ国は所詮、豆を育てる事に長けた、遠地の一領に過ぎない。我が国は強き民もいれば、猛き軍もある、優れた軍備もある。不相応な功名心に駆られ、拙速に事を進めるのは危うい事だ。曲がりにも領主のコであるならば、それも理解できるであろう。」

 武官が述べるそれを、コ・ジエはただ聞き流す。


「使者殿は、我が領のコヴが、何か大きな誤りをしているとお考えなのですか。」

 ただ淡々と、想定を立て続けていたその言葉を、コ・ジエは口から吐き出していく。


「そう拙速な話ではない。誤りに気づいたのであれば、後からでも正す道も、まだ用意されていると私は考えているのだ。確かに、聡い事もその地位を認めさせる相応にあるのだろう。しかし、それにおごって、或るべき姿を歪めて、民を惑わせては、国を危うくする事もある、そう考えてはどうだろうか。」

 一人淡々と話し続ける武官を横目に、政官は不慣れな馬の上から、コ・ジエの表情に目を向ける。

 そして、そのくちびるの歪みすらない普遍とした面持ちに、頭をかしげる。


「コ・ジエ殿、話は変わるが、今年の豆の出来はどうであったのかな?」

 その変化を見てみたくなり、話の前を横切って、彼は声をかけてみる。

 政官が横槍を入れてきたことに、武官は周囲にもわかる大きさの舌打ちをして、片頬を歪める。


「一の豆はやや不作、その他は、何とか平年を持ち直したと言った所かと。」

 コ・ジエはそう、ありのままをただ無表情に答えた。

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