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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
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煉瓦の種

「焼き物を作ってみないか?」

 数日前から彼らの下へ通ってきていた村の一人がそう言ったのは、昼頃の事であった。

 そういって、男は背負い袋で持ってきた赤い煉瓦で、彼らの前で炉を組み始める。


「炉を組んでおくから、粘土を取ってきてくれないか?」

 まだしていない返答を前に、そう頼まれ、彼ら家族は、その数日眺めていた村人の行動を真似て、粘土を取りに行く。それぞれの両手に粘土を摘んで、理解わからないながらも、思った量を運んでいく。


 彼らが戻ると、煉瓦で炉が組まれていた。村の中にあるものと比べると随分とそれが粗末な物に感じていた。


「何も難しい事はないんだ。」

 そう言って、男は、運ばれてきた粘土に川の水を混ぜ合わせていく。

 それを見様見真似に、彼ら家族も、土を練っていく。


 火にかけただけでそうして作られた器は、見比べれば、その場の誰の目にも差は明らかだった。



 翌朝、その男は、まだ小さな自分の子供を連れて、その場にやってきた。


 そして、その場に組まれたままの同じ煉瓦の炉の前で、粘土をこねる。

 父親がそうする姿を見て、同じ様にまだ幼い少年も粘土を練っている。


 家族の内、一番下になる彼らの娘が、同じ様に粘土をこね、他の三人はそれを静かに見て、焚き火を突いていた。

 途中で粘土が切れると、少女の兄が、身体を起こして、昨日のように取りに行く。


 同じ様にその日も、土器に火をかける。

 日中に成形されたそれは、日が沈んで、エルカが水炊きの豆を運んできた時に、家族と男たちの目の前で、炉の中から取り上げられた。



 その翌日も、その男はやってきた。


「実は、妻に子供が産まれてな。息子と家にいると、手狭だからと追い出されたのだ。」

 そう笑いながら、自分の子供と一緒に粘土を練っている。

 その日は、型を持ってきて、家族と自分の息子の前で、煉瓦の作り方を披露する。


 その手際の良い手つき程ではないにしても、一度、土を練ることを諦めた彼らの息子も、妹と共に粘土に向かった。

 そうして作られた煉瓦種は、河原に並べられていく。


「明日、雨が降らなければ、明後日には焼けるだろう。」

 そう家族に説明しながら、男は煉瓦種を並べていく。昼から始めたそれは、夕方には、それなりの数が並べられていた。

 幼い男の子は、それを奇妙な手つきで数えている。そこに並べた数を見事に言い当てると、男は満面の笑みで子供の頭を撫でた。


 翌日の昼過ぎ、静かに降り始めた冷たい霧雨に、彼ら家族の娘は、並べた煉瓦種の心配をする。

 慌てる姿に、一同で思い悩んでいると、三の豆の枯れ弦を編んだ草布を手に、男がやってきて、煉瓦種にかけていく。

 家族はそれを手伝って、そうしている間に日が暮れていく。


 残されたままの炉で、鍋と豆を持ってきたエルカが、その場で豆の水炊きを作る。

 家族と、男とその息子と、エルカでその豆を一緒に食べる。


「最初は何もわからないんだ。俺だってそうだった。」

 男はそう、自分の子供頭をなでながら、色々な話をする。自分たちの最初の子供が狼に噛み殺されたことも、そこから立ち直って今があることも、火を囲んでの食事の話題となった。


「ゆっくりでいいんだ。豆を食いながら、手を広げていけば良い。」



 翌朝、彼ら家族は、川に、枝と弦で作った釣り竿を垂らしていた。

 同じ様に男とその子供がやってきて、煉瓦の炉に火を炊き始めると、彼らの娘と息子、それと妻が、その手伝いをする。


 彼は釣り竿を弄りながら、炉に入っていく煉瓦種を横目に見ていた。


 朝から焼かれた煉瓦種は、その日の夕方に炉から上げられた。

 真っ黒なすすにまみれた煉瓦は、この村のものと比べて粗末で、品質の差が明らかだった。


 割れたもの、持ち上げれば崩れたもの、小さくなったもの。

 一つとして同じ出来合いのものはなかった。それでも、男が連れてきた子供の一喜一憂する声に誘われて、彼の娘は暫く振りに声を上げて楽しんでいる様子だった。


 出来上がった煉瓦が積み上がる。その夜、その煉瓦は家族の寝床の枕となった。



 そうして日々は過ぎていく。冬季が始まろうとしていたのはそんな頃だった。

 それ以来、男は顔を出す頻度が減ったものの、男の連れていた子供は、他の子供を連れて河原にやってくるようになった。


 寒い中、子供たちが煉瓦種を作り、彼らの息子や娘もそれに混じっていく。

 釣り糸を垂らしながら、彼はそんな姿を目で追った。


 霧雨や霜が降れば、草布を煉瓦種にかけるのを手伝い、手慰みにと、家族が寝静まった頃、粘土をこねて、土器の種を作ってみる。

 その土器が勝手に焼かれ、炉の中から割れて出てきた時には、失意もしたが、息子や娘と、どうしたら良いか話す機会となった。


 そこに久々とやってきた男との話題も生まれ、折々に豆の水炊きを食む合間の口が、寂しくなくなってきた事を感じていく。


 毎日、毎日、エルカは夜に豆を持ってやってくる。村人たちとも、そうして会話をするようになる。


 自分たち家族で作った土器の鍋で、その豆を水炊きにした夜、そこに男が鶏の干し肉を持ってやってくる。

 彼が釣った小魚も、その鍋に放り込まれる。


 そうして、暫く振りに、彼ら家族は、揃って笑う夜がやってきた。

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