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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
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不和の種

 彼らは幢子から話を聴いて、自分の兄がこの地で亡くなった事を知った。

 そしてそれに導いたのは、幢子自身である事を、彼女は隠さなかった。


 その夜、彼らは訪れたポッコ村で、与えられた豆の水炊きを手に、村人たちから離れ、静かにそれをんだ。



 翌朝、資料を取り纏め、機器の製図に向かおうとしていた幢子の耳に、甲高い陶器の割れる音が響いた。

 追って、それに飛び出していくコ・ジエの背中を、幢子は小さくため息を吐いて見送った。


 保護された一家の青年が、窯から上がった陶器を割ったのだという。

 コ・ジエがそれを問えば、青年は悪びれずそれを認め、家族の輪に戻っていった。



「どう対応すれば良いのかわからないのと、ここが敵地であるという感情と、空腹や思考能力の低下が一つのココロにぎゅうぎゅうに詰まってて、自分でも何をしてるのか解ってないんだよ。」

 対応を問われ、幢子はそう、コ・ジエに説明をする。


「いちばん大事な事として、ジエさんは、まずは何をするべきだと思う?」


「怒らず根気強く説明をして、理解を求めることでしょうか?」

 幢子はコ・ジエの返答に対し、製図に向かっていた顔を上げて、首を振った。


「私は、彼らに同じ境遇の仲間を与えてあげることなんだと思うんだ。彼らを同意して、肯定して、一緒に敵に立ち向かってくれて、笑顔で一緒に帰ってきて、豆の水炊きを一緒に食べてくれる仲間。」


「でも、その時に殴られる敵役は、私達で、奪われるものは豆なんだよ。それは、私は領主である以上許容は出来ない。ジエさんも、ディルのコなんだから同じだよね。」

 幢子はそれだけ答えて、再び製図へと目を向ける


「私がこの村に初めて来た時、村は狼に襲われてた。村には被害が出てて、子供をなくした親も居た。その時は狼が敵で、狼を一緒に退治した、から、私は受け入れられたんだよ。私が一人で退治したり、衛士さんが全部退治してたら、多分、受け入れてもらえなかったと思う。」

 幢子がそれを言うと、傍で聞いていた衛士の一人が、自身を引き合いに出された事でふと顔を上げる。


「ジエさんは、彼らに仲間として認めて貰うために、一緒に陶器を割って、豆を奪ってあげられる?」 

 幢子の問いに対して、コ・ジエは首を横に振る。


「あの子達は、あの家族だけになってしまったんだよ。それでここに来てしまった。それは幸運な事ではなくて、不幸な事だったのかも知れない。周りには敵しか居ない。それはきっと、バルドー国に帰ってもそうで、或いは、バルドー国で本当に親身に彼らの事を考えてくれる貴族様が居て、それが彼らの手を取って、敵の中から救い出してくれれば、感動もするかも知れない。」

 幢子はそういって、図面から顔を上げて、深い溜め息を吐く。


「でもそれって、無理な話なんだよ。彼らが言う事が、本当だったならね。」

 幢子が言うその目を見て、コ・ジエは戸惑う。


「我々ができる事はないのでしょうか。」

 そう口にしながら、悲観的な見方を続ける幢子が、なぜ彼らを受け入れたのか、コ・ジエは疑問が尽きなかった。


「まずは、お腹いっぱいになって貰って、こっちは痛い思いをしながら、時間が流れて、奇跡が起こることを祈るしかないんだよ。最善の手段がないから、ね。でも、もしその奇跡が起こったら。」

 そこまで言いかけて、幢子は頭を傾けて、そしてそのまま口をつぐむ。



 翌日、また同じ様に暴れた青年が、加熱した炭焼きの窯に手を突いて、手のひらを火傷した。

 それを、彼らの親が心配し、窯場でそれをとがめた。それはそこそこ大きな騒動になった。


 エルカが駆けつけて、火傷の快癒’(かいゆ)を願う。

 オカリナの詩魔法に馴染まぬ家族は、声を出しての詩をエルカにせがんだ。

 エルカは望まれるままに、それを唄おうとした。


 騒動を伝えられて、教会を出た幢子が、それを目にすると、真っ直ぐと駆けていき、それを乞う母親の顔を張った。


 エルカの声は詰まり、反骨した父親が幢子の腕を掴み上げた時、一斉に村の空気が変わった。


 空気の変化に気づき、それが殺気に近いものであると彼らは気づくと、掴んでいた幢子の腕を離す。

 幢子は周囲を黙して手で制止すると、エルカに少しだけ耳打ちして、その場を去っていく。


 声に出しての詩ではなく、オカリナの音色が、静かに響き始める。



 翌朝から、彼らは村を少し離れて、川の側で過ごすようになった。

 乾季も過ぎ、間もなく冬季がやってくる。


 そこへエルカは、毎日、薪と、陶器に入った豆の水炊きを運んだ。

 その豆の水炊きをみ、彼らは、毎夜、ほどこされた草布を羽織って、河原で静かに泣いて過ごした。



 そうして数日が過ぎ、夕方、陶器の窯の一人が、家族の元へ、皿と器を持ってやってきた。

 かじかむ手で覚束おぼつかない彼らの火起こしを手伝い、追ってやってきたエルカが、そこへ豆の水炊きと薪を置いていく。


 彼ら家族はそこで、二人に、村へやってきて始めて、礼を述べた。

 少しだけ会話が交わされ、河原に少しだけオカリナの音色が響いた。



 その翌朝には、青年の手のひらの火傷は、少しあとを残して、すっかりと良くなっていた。

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