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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
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雇用への糸口

 日雇いの常連たちの間に、密かに、噂話が上がっていったのはその頃だった。


 自分たちに仕事を持ってくる由佳は、誰から仕事をもらってくるのか。

 自分たちと同じ様に仕事をしているかと思えば、仕事場からふらりと居なくなる。


 だが、自分たちはこれだけの豆を貰っているのだから、それを配る由佳はもっと貰っているはずだ。

 自分たちもその仕事を紹介してもらいたいのだと。


 そうした時、由佳が始めた日雇いの募集が、他にも増えていったを思い出す。

 今も、日雇いを募集する荷車は、次々と背負いカバンを荷車に乗せてやってくる。



 日雇い達は幾つかの傾向に分かれていった。

 荷を運ぶ仕事を好むものは、その仕事を斡旋してくれる荷車に。

 大工仕事を好むものは、大工仕事を斡旋してくれる荷車へ。


 そして極一部ではあったが、広場へ仕事を運んでくる、その仕事を求めるようになった者と。


「あー、気付かれちゃったっすか。でも、そろそろかなって思ってたっす。」

 豆の袋を受け取った後、その日の日雇い仲間が揃って、思い切って、由佳に直接それを聞いてみる。


「この仕事、そろそろ潮時かなって思ってたんすよ。でも、そうっすね。本気でやる気があるなら、教えてあげてもいいっすよ。」

 由佳が特に残念そうにもなく言うと、一同を見回す。


「皆、興味ある感じっすか?よく見る顔ばっかりっすけど。」

 そう言って由佳は笑う。そうして荷車を転がし始める。彼らはそれを見送らず、その背を追う。

「じゃあ、興味ある人だけ付いてきて欲しいっす。でも、それなりに働かされる覚悟してて欲しいっすよ。」


 そうして由佳を追って、男たちは走る。

 働き始めた頃はそんな気力もなかった。豆を貰って満足してしまっていた。


 家族と豆を食べて、働いて、色々な仕事を見て、交流をして、そうしていく過程で、家や仕事をなくした失望が薄れていき、日雇からもっと先へと、気持ちが浮き上がっていった。


 由佳の荷車は速度を上げていった。彼らは懸命に由佳を追って走った。

 今は、どこかで待ってくれている由佳に追いつくのではなく、それを追う事ができた。


「最後の試験っすね。」

 恐らく、貴族の屋敷だろう前で、由佳はその身を夕日に染めて、立ち止まる。

 日雇い達は息を切らせてそこへ追いつくと、膝に手を当てて、必死に息を整える。


「知ってるっすか。私が独立商人になって、背負カバンから頑張って、荷車を持つようになったって。」


「ちゃんと仕事ができるなら、大変になるっすけど、皆に持たせるのは、背負カバンじゃなくて荷車になるっす。毎日決まった時間に、休んだり、豆を食べたり、家族の元へ戻ったり、できなくなると思うっす。」


「でも、新しい家を持ったり、豆だけじゃなくて鶏を食べたり、もっと沢山の人と知り合って、たくさんの仕事を覚えて、必要な所に、必要な物を運ぶ、独立商人になれるっす。やってみたい、って思うなら、この門をくぐって欲しいっす。」


 由佳は、そう言って臆する事なくその門を潜る。

 門を潜って、振り返り、門の前に立つ面々を見る。


「アタシは、トウドとは別の場所で色んな仕事をやらないといけないっすから、そろそろこの日雇いの紹介は終わりっす。ここへ案内できるのも、今日だけっす。今、ちゃんと決めて欲しいっす。」


「できるっすか?」


 息を整え終えた男が、一人、前に出る。そしてその門を潜る。

 その男を追うように、一人、また一人。


「俺は、ちょっと怖いわ。」

 一人、門の前に残って、そこを超えていった面々を見る。


 一人残ったその前に、由佳は立って、手を差し伸べる。


「それも、きっと、正解っす。仕事をしながら、ゆっくり考えていってもいいっすよ。自分が何をしたくて、何ができるのか。そのために、日雇い自体はまだまだ続くと思うっす。」


「でも、もしまだ、気になったら、今度はやってみたいと思ったら、その時でも遅くないっす。独立交易商組合にいって、独立商人になる手続きをして、張り紙を探して欲しいっす。いいっすか?」

 由佳に差し伸べられたその手を、彼は強く握ると、一度、しっかりと頷いて、背を向けた。


「さあ、門を潜った人たちは、これから怖い怖い、面接っすよ。」

 そう言って、由佳は門を閉じた。

 その口元は、緩み、日雇い達の誰もまだ見た事がない、評定しがたい顔をしていた。



「というわけで、瓦礫の撤去と、骨材への加工、煉瓦の搬入、建設の開始、全部ひっくるめて、順調っすよ。これでやっと、リゼウ国の鉱山の方へ行けるっす。」


「順調だなんて、よく言う。肝心の荷運びと、鉱山の監督の方が遅れてるじゃないか。」

 ブエラは顔を見せた由佳に言い捨てる。

 副商会長の待つ面接室に、新人商会員の候補たちを放り込んで、その応接間に来た所であった。


「今後、どう考えても手が足りないっすから、人材探しの方を優先したっすよ。お陰で、不動産だとか、大工の斡旋だとか、王都の職人周りだとか、調整に苦労したっすけど。」


「ハヤテで倒壊した建物の土地を瓦礫ごと引き受けると言い出した時は、肝を冷やしたが。上手く纏めたことについては、褒めるとしよう。使い物にならない土地を買って、建物付きで売る、その差額を豆や資材で受け取る。貨幣を一切動かさずに、その段取りを付けるとはね。」

 ブエラは屋敷に持ち込んだ書類に目を通しながら、大きなため息を吐く。


「まだ建物は完成してないっすけどね。でも、完成したら、そこから三年はハヤテで管理と維持をして、その代行手数料が、国から流れてくる手法っす。損にはならないはずっすよ。そのために実績があって、腕のたつ大工も呼んだっす。」


「その約定に、承認印を突いてやったのは誰だと思ってるんだい。行政府でそれが上がってきた時は、後からの火消しに骨が折れたわ。」



「それで、煉瓦の工面とその大工の派遣に、どうやってコヴ・トウコの首を縦に振らせたんだい?」

 書類に向けた顔を上げ、由佳の顔を見て口元を緩ませ、ブエラが興味津々にそれを問う。


「王都で手の空いた時に好きにモノづくりができる、快適な建物を用意するって約束したっす。たたら場を作りたいって言われたのを、鍛冶場だけでどうにかって交渉したっす。」

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