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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
群雄割拠の舞台
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再建の歯車

「今日はこのポッコ煉瓦を運んで欲しいっす。」


 日雇い達は、運び出すのが仕事だとばかり思っていた。しかしそこへ、運び込む仕事が増えたことに心底、安堵をした。

 背負いカバンにその赤い煉瓦を詰めていく。いつもと同じ様に、由佳の荷車は足早にいち早く駆けていった。

 いつもと同じ様に、荷を詰めて集合し、詩魔法師に付与をかけて貰う。そして由佳の背を追って王都の中へと戻って来る。


 連日降り続いていた雨は、少しずつ、曇り空が増えていった。それは雨季がもうすぐ終わるだろう知らせだと誰もが感じていた。

 それと同時に、自分たちが運び出した瓦礫や廃材も、何やら別の者達が取り付いて作業をしているのが見えた。しかしそこはあまり気にせず、まずは荷を担いで由佳の背を追う事に専念をする。


「こっちっすよー!」

 先に行った由佳が手を振っているのを見て、日雇い達は歩調を速める。


「来てもらって有り難いっす。今日からよろしくお願いするっす。」

 由佳が荷を下ろす場所で誰かと話している。しっかりとした体つきの男が数人と、徒弟と思われる少年、いや青年になりかけの、そんな子供が二人、立っていた。


 子供二人は、首に、広場で音色を奏でる詩魔法師と同じ様な、土笛らしきものを下げているのに気づいた者が居る。だが、そんな事よりも彼らにとっては、仕事とその報酬であった。

 背負ったカバンから、運んできた煉瓦を下ろし、その場に並べていく。


「トウコ様に頼まれたのもあるが、俺達は俺達で勉強に来たんだ。王都の城壁ってのは実際に見てみたかったからな。作業しながら、色々調べて、色々試させてもらうよ。」

 子供が、腕を組んで笑いながら由佳に胸を張っている。それを聞いて、周囲の男たちが苦笑いを浮かべている。


「じゃ、親方。よろしく頼むっす。補充が必要な材料はハヤテの誰かか、アタシに言って貰えば、工面するっす。」

 そういって由佳は空の荷車を転がして走っていく。子ども二人はそんな後ろ姿に手を振っていた。


 日雇いたちも煉瓦を下ろし終えると、再び、集積場へと戻っていく。

 空になったカバンが、身体を軽くしている様に感じて、その足取りは早かった。



 そうしてその日の仕事は煉瓦の運び込みで終わる。集積場にあったレンガは勢いよく減っていき、一時の安堵を他所に、再び、日雇い達は失業を恐れながら、その日の報酬の豆を受け取った。

 その日から、豆は二の豆に変わっていた。一の豆に飽きたと言うほど贅沢は言えないが、そのちょっとした変化を話題に、家族との会話に花が咲いた者も多かった。



「今日の共同作業者を募集するっす。報酬は草布の小袋1つの二の豆。仕事が終わったらお渡しするっす。今夜、豆をお腹いっぱい食べたいなら是非参加して欲しいっす。」


 いつもの様に、由佳たちの募集がやってくる。日雇いの仕事を求めるものは、広場に溢れていた。

 背負いカバンを求めて、日雇いたちが走って集まってくる。その日の家族の食事が掛かっていた。


「焦らなくても仕事はたくさんあるっすよー。」

 この数日は、由佳以外の日雇い募集も増え続けていた。報酬の豆の多い少ないも話題になったが、由佳の仕事にありつけたものは、大入りの袋だと噂になっていた。


 自分たちが運び出した瓦礫置き場に群がっていたのは、どうやら同じ日雇いらしいと、日雇い仲間での噂話になっていた。

 煉瓦を運ぶ以外にも、灰を運ぶ仕事や、小さな瓦礫を再び王都内に運び込む仕事もあるらしいと、荷運び中の世間話に上がってもいた。


 由佳の案内で訪れた場所は、前日に煉瓦を運び込んだ場所だった。

 既に、なにやら作業が始まっていて、前日の作業に参加した者は、建設作業が始まったのだと理解が進んだ。


「今日はここで、建設作業の手伝いをして欲しいっす。アタシはちょっと他の仕事があるので、大工の皆さんの指示に従ってやって欲しいっす。休憩はいつも通り。いつもの時間に迎えに来るっす。そしたら報酬の豆を配るっす。」


 そうして、由佳は日雇いたちを大工に紹介をする。大工は体つきもしっかりしており、日雇い達はそれに貫禄のようなものを感じていた。


「よろしく頼むぞ。昼の豆はたんまり用意してあるからしっかり働いてくれや。」

「お前がガツガツ食い過ぎたら、その豆は減るんだから気をつけろよー。」

 大工の傍に寄ってきた徒弟の子供が、その腹を小突くと、大工は機嫌を悪くする事なく笑ったのを見て、日雇い達は僅かに口元を緩ませた。


 そうして作業が始まる。少年たちがその空き地を紐を持って走って周り、指示をされた場所に日雇いたちが木の杭を打ち込んでいく。

 付けられた杭を目印に、大工たちが地面を掘り下げていく。

 用意されていた粗方の杭が打ち終わると、日雇いたちも地面を掘り下げる作業に参加した。


 陽が真上に登る頃、大工たちは煉瓦を手慣れた手つきで組んで、火を起こすかまどを作った。

 そこそこ大きい陶器の鍋がそこに乗せられ、鍋の中には二の豆の水煮ができた。

 濃い塩の汁と豆に、日雇い達はそれを嬉々として口に頬張った。強い日差しに、流した汗に、その塩分は心地が良かった。


 食事を終えると、大工たちはその場に横になった。徒弟の子供たちは、広場の詩魔法師がそうするように、土笛に口を当てて、同じ様な曲を吹いた。


「お前たちも昼寝しろ。ちゃんと寝ないと、身体が持たないぞ。」

 大工たちにそう言われるままに、日雇い達は煉瓦を頭の下に置き、地面に横になる。


「起きる時間になったらちゃんと起こすから、仕事もしっかり頼むぞ。」

 そう大工の男は言うと、直ぐに、いびきを立てて眠ってしまう。

 日雇いたちもまた、土笛の音に誘われるままに身を任せ、いつしか眠っていた。


 そうして暫くした後、起されて仕事を再開する。

 大工の言う通り、日雇い達は仕事をする。

 昼の食事を得て、昼寝もして、身体の調子がいつもより軽く感じていた。


 陽が落ちる前に由佳の迎えが来る。

 そうしてその場は解散となり、報酬の豆が配られる。いつもと同じ大入りであった事に、日雇い達は驚いた。


「じゃ、今日はお疲れ様っす。しっかり真剣に働いてくれれば、今後は直接、声をかけてお願いするかもしれないっす。またよろしくお願いするっすよ。」

 いつもと少しだけ違うことを言って、由佳は荷車を引いて去っていく。


 日雇い達は、広場で待つ家族の元へ、気分も良く走って戻っていった。

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