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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
地方領の転機
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荷の旅立ち

サザウ国の冬。

 一年の約四分の一程度を占める。近隣四国はほぼ一致する気候を持っている。国内に於いてはほぼ差異はない。


 休眠中と思われる火山から扇状、臨海部までなだらかな森林が広がっているが、その約半分ほどは広葉樹であり、枯れていくのが冬の足音である。

 山の向こうから臨海部に吹き込む風は冷たく、海に近づくほど緩やかになる。その境目を縫い合うように冷たい雨が時折降る。山岳部を除き雪になることは少ない。


 内陸部山地に向かってそこから北部には一部雪が降り積もる地帯があるが、開拓は進んでいない。


 冬が訪れると、内陸の住民は暖を取るために火を焚いて過ごす。

 雨が降るとその消費量は増える傾向がある。また、稀の豪雪では死者を伴う。


 冬季の農作物も少なく、防寒具も十分に普及していないため農業従事者は休暇となり、集合施設で共有財産の薪を焚き暖を取る。

 夕食までを伴にし、防寒が十分な家屋を持つものは自宅に帰宅し床につく。

 そのため越冬中は手工芸などを流れ作業で行うことが多い。


 領地を運営する貴族は、王領へと集まり、税の換金、納税や物資の代価の支払い、内政府の専住貴族や王族との交流を盛んに行う。

 冬期の間に翌年の方策を話し合い、物価の調整、流通開拓の優先順位、国内産業の開拓方針の決定、軍備の更新、新成人貴族の地方官・王国直属官へのスカウトなど。


 王家は貴族の合議を受け、発布令を取りまとめ、冬が明けるのを待って発布する。

 また必要に応じて冬の間に寡兵を行う。


 戦乱は建国来起こっておらず、大規模な寡兵は行われていない。

 冬の初めに叙勲・年功により再編成を行い、退役者の分を寡兵する事が続いている。

 多くは生活の貧窮により職を求める者を登用する一般兵卒、また王領で就学を経た詩魔法師の優秀な者の登用だけが続いていた。


 商業立国なため、この時期は王領に取り分け多くの商人が国内外から集まる。



 からりと乾燥した少し冷える空であった。

 窯開けを待ちきれないとばかりに朝から多くの村人が東屋に集まってきていた。


 子供たちも煉瓦種の作成の手を止め、窯に集まってきている。

 その中心に、窯に潜った幢子が居た。コ・ジエもエルカもそれを固唾を呑んで見守っている。


 冷めた窯の中から、幢子が出てくる。


 その手には赤黒く染まった、正しくの陶器があった。

 それを大人たちが受け取るやいなや、幢子は次々と窯から陶器を送り出した。

 それが日光の下、草布を敷いた地面に並べられていく。


 割れたもの、欠けたもの、或いはヒビの入ったもの。

 無いわけではないが、幢子が驚くほどにそれは少なかった。

 いずれも深く黒い赤。光沢を持ち、良く出来ている。


 失敗をした陶器を作った者は笑っていた。自覚、思い当たる節があったのだろう。

 だから自ら笑えた。周りはそれを冷やかしたり怒ったりはしなかった。


 そして上手くいった多くの陶器は、そのどれもが驚きと喜びを持って迎えられた。


 中でも、あの子供を失った夫妻の皿は、窯から取り上げた幢子が思わず頬を緩ませ、また運び出される先々で唸り声を持って褒め称えられた。間違いなく、その窯で一番の出来であった。


 均整の取れた、滑らかで広い大皿。

 日陰では黒く深く、陽の下ではそれが限りなく黒に近い赤なのだとわかる。

 夫は無口に頬を赤く上気させ、妻はそれを肘で突いてはにかんだ。


 窯から最後に出てきたのはエルカのオカリナであった。


 幢子からオカリナを受け取ると、エルカはそれを大事そうに抱きしめる。

 目には薄っすらと涙が浮かんだ。


 濃淡の斑があるが、黒よりも赤に近い。

 同じ釜の中で釉薬の色の出方が違うのもまた、村人たちの驚きと喜びと憧れを誘った。

 何よりも子供たちが、次はそれを作りたいとエルカに詰め寄った。



 最後に窯から出てきた幢子に、大人たちは詰め寄り、「今度は赤くしたい」「今度は椀を作りたい」等など、次への要望を語った。

 ここからは村人それぞれの、彼ら自身の創作になる。幢子はそう強く感じた。


 そしてコ・ジエの前に立つと、並べられた陶器に目を向ける。

 手も頬も、草布の服も、白い灰と煤でまだらに汚れている。


 コ・ジエは膝を突き、そこに並べられた陶器の数々から、それを手に取る。

 件の夫婦の皿であった。


「驚いている。あの土器がこんなに見事に色づくのか。」


「そうですね。それに長持ちをします。売り物になりますか?」

 この陶器たちは村人の手を離れる。領主の元へ届けられ、換金され、その換金の額だけ村に食料として戻される。ここから先は、コ・ジエと、コヴ・ヘスの仕事であった。


 村人の誰もがコ・ジエを見る。

 色とりどり真剣さと気恥ずかしさが混じった、複雑な表情だ。


「必ず、十分な、いやそれ以上の食料を持ち帰ろう。約束をする。」

 コ・ジエに深い熱が宿る。売れないわけがない。確信していた。


「あまり期待はしていませんよ。いつもより蓄えの少ない冬になる覚悟はして貰っています。」

 幢子は顔を崩さず言った。そう上手くいくはずがないという、コ・ジエとは逆の確信があった。


 翌朝、窯に火を入れた報告を受けた領主の荷車が、ポッコ村にやってきた。

 コ・ジエの見守る中、草布と僅かな羊毛に包まれ、商品は彼と共に領主の館へと旅立っていった。

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