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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
スラールの転機
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初動対応の妙

 コ・ジエは、朝から必死に動いていた。応接の広間の家財道具や調度品を、空いている部屋へ放り込むと、小さいながらも招待者をもてなせる、立食パーティの場を整える。


 そんな時、エルカと一緒に王立学校へ向かった幢子が、目元を腫らせて戻って来る。

 取り乱し、パニックとなりかけたコ・ジエをなだめ、それを幢子の目元をオカリナで癒やすエルカの姿は、役人たちにとっては、安堵と、崇敬すうけいすら感じさせた。


 幢子が学校へと向かう前に置いていった玄米の扱いに悩み、それがいつまでも後送りにされている頃、チラホラと招待者たちが、ディル領の滞在屋敷の門を叩く。


 昨晩、急遽決まった小さな催しと言えど、それぞれの胃の健康のために、各所で奮闘が行われ、面々はその門を叩くに至る。


 最初に現れたのは単身の京極栄治であり、その手には玄米のたんまり入った白い袋があった。

 それは、調理に悩んでいた面々に、喜びと絶望を持って迎えられ、彼は調理場に籠もるに至る。


 追って、細川由佳とブエラが、セッタ領主コヴ・ドゥロを連れ、訪れる。

 予定をしていなかったコヴ・ドゥロがその場に現れた事で、コ・ジエは再び静かに恐慌状態となり、それは機転を利かせた幢子の時間稼ぎと、玄米を炊く香りを嗅ぎつけた由佳のより大きな恐慌に依って、何とか持ち直すに至る。


 続いて、衛士長と数名の衛士が顔を出し、それに少し遅れて、コ・ニアが、コヴ・ラドの欠席の知らせと共に現れる。そして、独立交易商組合から本部長と補佐役が訪れ、その対応をしている最中に、アルド・リゼウが護衛を伴い、雨の中その後ろに立ち、慌てふためく役人の背中を、炊いた玄米を何とか海鮮スープのかゆに改めさせた由佳が鍋を持って歩いていく。


 慌ただしくも、それらの様式が整い、打ち上げとも言えるパーティが始まったのが、陽も落ちた頃だった。



 それぞれが互いに挨拶を済ませ、幢子が音頭を取り、食事が始まったその少し後の事。


 滞在屋敷のドアノッカーが強く打ち鳴らされる。その喧騒に、一同は静寂に包まれる。

 門の内側の軒には、リゼウ国の兵士と、サザウ国の衛士が顔を並べていたはず、とコ・ジエが足を向けようとしたのを押し留め、役人がその応対に向かう。


 一同がその動向を静かに見守る最中、応対に向かった役人と衛士の一名が、広間に駆け込んでくる。


「バルドー国の兵に動きあり!シギザ領、領境より向こうに大規模な増員があり、進軍と思われる前進が始まったとの事!衛士隊の偵察より知らせあり、連絡の馬役が王都へ駆け込んでまいりました!」


 雨の中、ずぶ濡れとなって息を切らせながらの、衛士の風雲急を告げるその知らせに、一同の表情は重くなる。


「主要な関係者が一同に集うこの場ってのは、都合がいいのやら、間が悪いのやら。」

 ブエラが、手に持った玄米の粥の器を、テーブルに置き、深いため息をつく。


「ジエさん、この場をそのまま使って、今、初動対応を決めてしまおう。」

 幢子がそれを口にすると、ジエは急ぎ役人に指示をして、四脚椅子と、幾つかの机を中に運び込む手配をする。


「ごめんなさい。パーティは中断になってしまいます。この続きは、状況が落ち着いてからまた改めて、きちんとした形で行わせてください。それで、この場の面々で、このまま、状況への初動対応を打ち合わせさせていただければと思います。」

 幢子が一同にそれを述べる。各々が思慮に時間をかけ、頷くのを確認すると、丁度椅子と机が運び込まれる所であった。


「こういう時、炭をこぼす輩が出なくて済むのは、鉛筆の利点だねぇ。」

 ブエラが用意された椅子に腰を掛け、それを機にそれぞれが、その背に用意された椅子に腰を掛けていく。そんな中、衛士長はそこに起立したまま、幾つかを連絡係に申し付ける。


「まず、既に議会で承認を得られている、リゼウ国への派兵要請をさせてください。国主アルド・リゼウ様、お受け頂けますか?」


「解った。この打ち合わせを終え次第、予定を繰り上げ、直ぐに国元へ出立する。可能な限り迅速に編成を済ませ、こちらへ向かわせよう。護衛として連れて来ている兵士も、何かの役に立つかもしれん。少しだが残し、裁量は預ける故、サザウの衛士隊から指示を与えてやって欲しい。」

 幢子、そして衛士長へと順を追って目を移したアルド・リゼウは、それぞれが頷くのを見届ける。


「ご厚意に感謝します。衛士長殿、衛士隊の増援派遣と、預かった兵への指示を頼めますか。」

「解った。私もこちらでの段取りを済ませ次第、東部へ向かう。ポッコ村を拠点として使わせてもらって構わんな?コヴ・トウコ。」


「はい。こちらを離れる際に、現地の役人への指示の書簡を持たせます。ジエ、領主印を任せます。まずはそちらを。続いてそれを終え次第、簡略でいいので、リゼウ国への派兵要請の届け出を。」

 コ・ジエが頷き、白紙に向かうのを確認し、幢子は続いて由佳を見る。


「由佳ちゃんは、先にポッコ村へ向かって、例のあれを、陶器窯の皆に、急いで、全力で作ってもらえるようにお願いしてもらえる?あれが一番早いから。生産量は釜に入れてから二日に一回で、荷車を一つ埋められると思うから。それを持って一度王都へ戻ってきてもらえる?あと、帰るのが遅くなるかもって、村の皆に伝えて。その依頼は、本部長さんにこの場で出しますので、この場でハヤテとして受け取ってください。」


「了解っす。」

 由佳は、幢子の言葉を受けて、本部長とブエラを見る。二人が頷くのを見ると、その勢いのままに、部屋を駆け出して行く。


「状況が整うまでの日数確認と、滞在する衛士さんや増援できてもらう兵士さんたちへの継続的な補給が必要ですよね。その辺りをまず、皆さんに相談させてください。そこを固めてから、対応するディル領の領主として、勝つための算段をします。」

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