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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
スラールの転機
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夜襲戦 皆で共に朝食を

 教会のドアが音を立てる。ドアが開く事を、内側から掛けられた貫抜が妨害する。

 

 幢子が昨年即席で作成したそれは、野盗に対して万全の備えとは言えない。

 体格の良い男が三人程で体当たりをすれば簡単に外れてしまう。


 しかし、時間はそれで事足りていた。



 野盗達は、慣習として知っていた。教会にはその村の備蓄がある。

 この村には、それまでの村と違って、人の気配が確かに存在している。

 

 村に近づくにしたがって、充満する燻煙くんえんが鼻を刺激していた。


 事前に打ち合わせた火矢の合図はない。

 それでも、彼らは、漸くありつける獲物が目の前にちらつき、腹の虫が抑えきれなかった。

 

 東側の道の先には、片付けられていない倒木が幾つも横たわっていた。

 単純にそれだけの理由で、そこを直進せず、横切って村の北側に回った。


 目に入ったのは、馴染のある石造りの建物、教会であった。

 五人は、夜目を利かせる詩魔法の効果も鑑みて、それを理由に示し合わせ、真っ直ぐと教会へ向かって村へ侵入をした。

 

「がっ…!」

 一番後ろに立っていた男が、後頭部に強打を受けて意識を失う。

 教会の門に侵入を拒まれたため、そこに意識を持っていかれた矢先だった。


 四人が振り返ると、そこには槍を構えた衛士が立っている。咄嗟にその場を飛び退いて、身構える。


 男たちが持っていたのは青銅であつらえた小刀である。

 一人が居を決して飛び込んだのを皮切りに、他の三人も飛びかかる。


 一人目は槍の切っ先で払われて、両腕から血を吹いて倒れる。

 二人目はそのまま槍の先で喉を突かれて抉られた。そのまま突き倒されて地面に転がる。

 三人目は衛士の後ろに回ったが、槍の石突に顔を抉られる。そのまま倒れかかった地面に強く頭を打ち付ける。


 四人目は、衛士の脇腹を小刀で斬りつけた。衛士の体制が崩れる。


「くそっ!」

 その一瞬の隙を、男は逃げる事に使った。

 相手が自分たちを見えている事は明らかであった。それは自分たちと同じく夜目を付与されているという事だと、斬りつけたと同時に思い至った。実際に、同僚たちはその場に倒れている。


 衛士は追ってくる事はなかった。男はそのまま北側の深い森へと走り飛び込む。

 逃げおおせる事を願って。



 衛士は脇腹を押さえ、膝をつく。かなり深く斬りつけられた事は解った。

 手ににじむ血が、指先を濡らしていく。


 両腕を切り払われた男が、大きくわめいている。

 一人が逃げてくのが見えたが、脇腹から流れる血に力が抜けていく。


 目の前に二人、男が倒れている。その向こうで血を吹いた男が地面をのたうっている。

 目でもう一人を探す。それは何人目の男であったろうか。



 コ・ジエは、背後で上がった叫び声に気がついて、とっさに身を翻し走り出す。

 即座にそれは、教会の方からだと、最悪の過程をして、駆け抜けていく。


 エルカに依って付与された詩魔法は、事前に幢子で慣らされた分、負担を感じていなかった。

 だからこそ、その引き上げられた足の勢いにも振り回されることはなかった。


 門の前に人影が見える。数える間もなく、その内の一つが、うずくまる影に、腕を振り下ろそうとしている所であった。

 

 咄嗟にコ・ジエはその勢いのまま身体をぶつける。そして、倒れ込んだまま、右腕に持っていた斧を振り上げる。


「たっ!助けてくれ!助けてくれ!」

 それが誰であるか意識を向ける間もなく、その言葉が目の前から発せられる。

 だが、コ・ジエの勢いは自分の意志に否応なく、止まる事なく、その腕が振り下ろされる。



「開けてください!トウコ殿!」

 門を叩く声。聞き馴染みのあるその声に、幢子は歪んだ貫抜に取り付く。

 その姿にエルカも直ぐに駆けつける。


 貫抜に手を焼いている間に、声はドアを激しく叩く音に変わる。


 建付けを引き剥がし、内側からドアを押し開けた。

 幢子とエルカの目に飛び込んできたのは、自分たちを守るために外へ飛び出していった衛士の血を流す姿であった。


「エルカ!」

 幢子が叫ぶ間もなく、エルカがそれに近寄る。


 震える手で幢子は腰に備えたオカリナを取る。

 頭に浮かぶ混乱と不安と恐怖を払いながら、吹き口に口を当てる。


ホー ホー ホーホホー

 焦る気持ちを抑え込みながら、幢子は音を確かめる。


ホー ホーホー ホホーホー

 それを支えるように、エルカのオカリナの音色が先導をする。


 エルカのオカリナが先行し、一小節ずつ奏でられる。

 幢子のオカリナの音が、それを追っていく。


 静かな輪唱が、辺りを包む。

 間もなくの冬季を告げる、冷たい風が駆け抜けていく。


 周囲が白んでいく。二人の祈りに応える様に、周囲に白い光が集まっていく。

 朝の陽が静かに、夜の闇を払っていく。



「情けないです。」

 衛士は涙を流す。遠くなりつつあった意識が、二人の詩に引き戻されていくのを実感していた。


「情けなくなんてねぇよ。」

 いつしかその一同に混じっていたリオルが、それの言葉に対して口を開く。


「大人しくしてろ。朝飯を持ってきてやる。」

 衛士は、霞む目で誰が誰かもわからない中、その声と、オカリナの音色を信じて息を吐く。

 返す呼吸で深く身体に取り込んだ空気が肺に満たされると、身体が汗を吹き出す。

 体の内側と外側からやってくる、冷えをそこで認識する。


「凄く、寒いですね。熱い豆と、温かい汁物が、いいです。皆で、食べましょう。」

 その言葉を聞いて、周囲の止まっていた時間が慌ただしく動き出す。

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