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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
地方領の転機
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産業の足音

セメント。

 古代文明から人類を支えてきた建造資材の一つ。


 水に対する耐性が強く、塗布からの化学変化による硬化を利用した使用環境に対する柔軟性がある。


 代表的なものはアスファルト。その主とされる材料は、炭酸カルシウムや酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどカルシウム化合物の種に、灰、骨材となる砂利などをかき混ぜたもの。


 セメントの広義にはにかわなど、動植物由来材料によるの接着剤も含むが、一般的には煉瓦や石材などの建造資材、道路敷設の際、砂利、砂などを風雨から守る接着剤として用いるものとして言及されることが多い。



「まず必要なのは、石灰です。海産物の貝殻や湾岸の石灰岩を粉末状にしたものを求めます。それと、煉瓦製造の正式な許認可を、来年の納税期を前に取得したいです。」


 幢子の求めるものはまずは煉瓦炉の改良である。

 素組の煉瓦炉では窯の上昇温度に限界がある。

 土で隙間を埋めたものでは、焼成の途上で乾燥し剥がれ落ちてきてしまう。その隙間から煉瓦の膨張伸縮や、放熱が発生する。

 窯の耐久性、生産される煉瓦の品質が伸び悩む要因の一つとなっていた。


「続いて、越冬に当たっての資材の支援です。なるべくギリギリまで窯を運用し、なるべく早く窯を再開するためには、備蓄された薪では足りないです。また食糧支援を求めます。」

 こちらも、現在のポッコ村には必要不可欠なものである。


 まずはこれからやってくる冬を越さなければ一年後はやってこない。

 煉瓦を焼くための煉瓦が必要なポッコ村にとって、休む暇など無い、時間が無駄にできないと幢子を考えていた。

 品質を上げるためにも、焼成の経験と回数は幾らあっても足りていない。


「大型窯の建造を考えています。冬を迎える前に試作をしたい所です。越冬中に問題がなければ、雪解け後その数を増やしていくつもりです。優先するのは石灰の方です。一度の支援ではなく継続的に必要になるかと思います。」


 コヴ・ヘスは蓄えたその白いひげを思い悩むように擦る。


「その窯の建設知識は、トウコ殿に目算があるのかね?」

「同型の窯で、より焼成の高い陶器の増産も考えられる程度には、出来ると考えています。」


「良いだろう。ただ食料調達はするが、食糧支援はできん。この意味はわかるな?」

 幢子は頷く。恐らく、対価に対して足が出た部分なのだろうと。つまり、補填が必要なのだろうと。


「陶器の納品をし、領主様から買い入れと言うことですね。」

「そういう事だ。それに領民に対しても示しがつかない。他に開拓村もあるのでな。煉瓦製造の許認可についてはトウコ殿の言う一年後の品質向上を見て判断材料とする。」


「わかりました。食料は領主様から買い入れると村に提案します。追って役人経由で返答を。」

 これは飲める要求だ、と幢子は考える。

 同時に、村人たちにとっての意識の変化を生み出せるかも知れない。

 いずれ陶器を売りに出す。煉瓦による納税もする。その際に品質や実用性が問われる時が来る。


 そのための初級試験として、職業意識を育む必要はあるのだと。


「もう一つあります。領全体の展望での大事なお話です。」

「まだあるか。言ってみなさい。聞くだけは聞こうではないか。」

 コヴ・ヘスはやや呆れ気味に、幢子の顔を見る。どんな言葉が出てくるのだろうと。


「伐採、間伐についてです。ポッコ村周辺、領館への直線道、ポッコ村と港町へかけての直線道、並びにポッコ村からサト川上流域にかけて。大規模な伐採、間伐を開始をしてほしいのです。」


「即座には返答ができない。理由を聞こう。」

 コヴ・ヘスにとっては、大きく手に余る話であった。幢子の持つ対価を逸脱した提案であるのは明らかである。

 よってこれは、即物的なものを求める提案ではない、と解釈した。


「輸送道の整備です。いずれ舗装をする必要も出てくるでしょうし、伐採はすぐには行なえません。また燃料としての木材の消費量が大きく増加することを想定し、十分に乾燥した木材が今後必要になります。倒木しておいてそれに備える必要があります。」


「それを加味しても規模が大きすぎる。木は直ぐには育たない。切り倒しても用途がないのでは悪戯に市場を乱すだけだ。使われぬまま腐らせるのでは、領としては損失が計り知れない。」


「炭を作ります。煉瓦の先に、必要になります。木材はこの先、幾らあっても足りません。」

 幢子は一呼吸、間を置いてそう述べる。


「大型化は炭を作るための窯か。だが炭の消費はどうする。木材で事足りる物を、わざわざ手間をかけ高価な炭で賄うのか?」


「鉄を作ります。」

 幢子は間を置かず即答する。


「できるのか?流石に、大言が過ぎるのではないか?」

 コヴ・ヘスは冷静に、静かに問う。その言葉とは裏腹に、心の臓が激しく脈打つのを感じていた。


「その陶器が赤く仕上がったのを見て、現実的な話だと考えに至りました。私には砂鉄を溶かして固める、その手法の知識があります。」


「そしてサト川の下流には、砂鉄が沢山あるはずです。」

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