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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
地方領の転機
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採用試験

技術者認定制度。

 現代社会に於いて、特に専門職などで、その業種に一定の水準を設けているケースは多い。

 またそれに付随し、認可認定を経ずその行使を禁ずる法令もまた存在する。


 専門業種の保護、専門技術の保全と水準の維持、価値の保全、危険行為の抑止、専売による利益の保持。

 技術者を制限することや、その許認可によって社会上の問題を回避する例は少なくない。


 国の成り立ちからそれらが存在していたとする説、法の成立からそれらがあるとする説、或いは組合や組織といった技術者同士による協定の誕生によって生まれたとする説、様々にあり、その形式もまた様々に存在するが、多くの場合は重い罰を課す。

 典型とされる例は、「造幣」「酒造」「薬造」「塩造」、近代社会では「建築」「狩猟」「法務ないし、その代行」「危険物保管、処理」「特定商取引」など。



「とまぁ、こういった事例が、当領での、ひいては国内での取り決めとなりますな。」

 コヴ・ヘス・ディルの説明に、幢子はため息をつく。


 村の現状を解説し終えた所で、河内幢子はディル領主の館へ捕縛・連行された。

 現状、その一室で縄を解かれ、説明を受けている。


「口頭での概要だけですが。当国の文字が読めない、書けないとは想定外でしたな。」

「申し訳ない限りです。記憶喪失なものでして。」

 幢子の心中は、想定内、という認識で特に取り乱すようなことでもなかった。


 サザウ国では、煉瓦の製造について、許認可制が存在している。

 コヴ・ヘスが問題としているのはそこであった。


「ポッコ村で製造された煉瓦は、三等級、状態の良いもののみを見積もって二等級。この意味はお分かりですかな?」


「税としての水準を満たしていないと。」

 幢子の目算は、村に課せられた納税であった。

 家畜という資源を狼によって失ったポッコ村に於いて、その代替納税を目指したものであった。


「それはまた別の問題。主となる問題は、無許諾の製造。領主である私が、それを認知も許諾していないという点です。これが出回れば、信用問題を含め、我が領は大いに非難を受けますな。」


 とは言うものの、コヴ・ヘスの表情は穏やかであり、幢子に対する扱いも罪人のそれではない。


 それについては、既に領主自身から幢子に対し伝えられていた。


「私自身が問題としているのは、先日のオオカミ騒動からこの短期間の間に、ここまでの煉瓦を作ってしまえるだけの設備を構築し、またそれに領民を動員していたという点ですな。お分かりかな?」


「はい。申し訳ありませんでした。」

 幢子は素直に頭を下げることにした。

 いつの間にかとは言え、村は幢子の工作に引き寄せられるように傾倒していった。

 煉瓦を遊びで作っていた子供たちも、また陶器を焼き始めた大人たちも。


「欲しいのは謝罪ではないのですよ、御令嬢。」


「私が求めている答えは、貴方が何者で、何が出来るのか、という点に尽きる。」

 コヴ・ヘスはそうして、役人を通じて得た陶器を取り出す。


「貴方が行ったことは単に、こうしたものを作ったという事だけではない。それを教え、また教えた相手にも同様のものを作ることが出来る教育まで行っている。これは本来、簡単な事ではない。」


「本来ならば設備のために財を投じ、専門的な技術者を呼び寄せ、指導をし、その指導の元で、結果が出れば良し。多くは実らず、諦める。」

 その気持ちは幢子には何となく理解できた。

 理解を得ることや、物事を教えることは難しいのだと、自らの経験を持って知っていた。


「その熟達も何年という月日を費やすもの。まして子供がそれをするなど。」


「いえ、それについては逆かと。子供の方がこうした事はずっと覚えやすいかと思いますよ。」

 それもまた、幢子の実感であった。そしてそれは自分がそうであったことばかりではない。

「子供には理解の妨害になるものがないのです。だから、技術や知識だけを取り込みやすい。」


「子供が覚えて実行すれば、赤の他人が熱弁するよりも親を刺激するものです。子供に出来るならばと必死になる。学習に大事なのは、その前段階、知識に対する信用や信頼なのかと、領主様。」


 幢子が述べる事をコヴ・ヘスは目を逸らさずに聴いている。

 コヴ・ヘスもまた、それを実感を持って今まさに学習していた。


「一年。多分ですけど、一年あれば、村の人達はもっと凄い煉瓦を自分たちで作り出せるはずです。その、認可をいただけて、税としての納入を認めて頂ければですけど。」

 一年。それがこの世界でどれだけの時間があるかは、エルカにおおよそ聴いて知っていた。


「成程。たった一年で足りますか。確かに既に二等級の煉瓦が手元にある。ですが、当座、今年はどうしますか、御令嬢。」

 コヴ・ヘスは答え合わせをするかのように、それを聴いている。


「今の煉瓦を、納税します。そしてそれを動かさず、そのままポッコ村に配給くだされば良いかと。」

 幢子は確かめるように、それを領主へ伝える。


「成程。村の外に出さなければ、確かに、信用の問題にはなりません。」

「領主様が正規に、同量の三等級煉瓦の手配をなさる際の、支出総額。その肩代わりが今年の納税です。」


「合格です、御令嬢。では、本題についてお話を進めましょう。」

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