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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
スラールの転機
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露出するもの

露頭

 人は鉱石と古い付き合いを持つ。鉱山の開発技術を持つ前から、人は多くの鉱物を得てきた。


 大地の悪戯か、天の恵みか。山の神の怒りという話もある。

 それらは地面を震わせ、地面を押し上げ、或いは窪ませて。そうしてできた土地に、地層が露見することがある。これを露頭という。

 日本であるなら、石炭鉱山で有名であった夕張の石炭の大露頭などが有名であろうか。


 その時には価値が認知されなかったものが、後年、インフラの整備や知識の成熟で再発見される場合もある。



「その、栄治さん、こちらの方は。」

 由佳がそれを問う事ができたのは、切り分けられた鶏肉を栄治が飲み込んだのを見届けてからのことであった。


「そういえば挨拶がまだであったね。リゼウ国、国主をしているアルド・リゼウだ。」

 眼前の人物がそう名乗ったのを咀嚼そしゃくし飲み込むのに目一杯と掛かった由佳であったが、やがてそれを反芻はんすうし、至って、唇が青くなるのを自覚する。


「ホソカワ、ユカと言ったか。ブエラ老からの先触れの手紙で話は伺っているよ。」

 そうして、アルド・リゼウは再び、木匙で粥をすする。それはとうに冷めてしまってるが、それを気にすることなく器は空になった。由佳はそんな空の器を見つめ、その顔とを視線が交互し踊る。


「女学生、あんたあの婆さんに随分気に入られたみたいだな。そうでなきゃ若い手駒として目をつけられたか。」

 先頃の攻勢から漸く立て直した栄治が、ここぞと話を逸らす。その顔を、アルド・リゼウはじっと見つめている。


「まぁ、こっちもお前さんが来たら聞こうと思っていた事があったんだ。先触れは準備の面で正直助かった。荷や荷車の件も存分に話を聞きたいが、食わせた陸稲おかぼの分は付き合ってもらえんかね。」



 中庭の炊き場から歩を進め、栄治は由佳を連れ立って城内を歩いていく。荷の中身を確認するという名目で、アルド・リゼウはその場に同道はしなかった。


「さっきの、あの国主様、だ、男性の方ですよね?」

「知るかよ。面と向かってちゃんと聴いた事はない。正直、今更ってのもある。」

 由佳は先程の文脈を思い出し、道中の過程に真っ先に気になっていた事を尋ねる。


「徒弟の小僧が、一人で鶏卵たまごを眺めていた。小僧よりも鶏卵が気になって、声をかけて改めた。何やら質問をされたので、問答を交わした。そういう出会いだっただけだ。」


「でも、国主様だったわけですよね?」

「その時は、栄養の行き届いてない小僧だとしか思わなかったさ。その次に会った時もそんな感じだ。」

 栄治は深い溜息を吐く。その背景については、後に同僚となった役人の面々から聞き出したことはあったが、やはり本人と当時の事を改める気にはならなかった。


「ここだ。まぁ入ってくれ。」

 栄治がドアを開けると、中で作業をしていたと思わしき兵士数人が手を止め立ち上がる。それを栄治が片手でなだめると、彼らは再び着席し、それぞれの眼の前の箱の中身に再び顔を戻す。


「先日、エスタのコ・ニアから多種多様な種が送られてきてな。あの辺りの植物らしいのだが、こちらの植生、種なんかも合わせて分類と記録をさせている所だ。幸い、紙もブエラ婆さんから送られてきてな。慣れないだろうが部下として研究者みたいな事をさせている。」

 栄治は部屋の片隅に積み上げられた大型の木箱を抱えると、机の空いた場所に中身を展開する。


「で、国内を走らせるんだからついでにと、近場に限ったがこういうのを集めさせてみた。女学生の得意分野じゃなかったか、こういうのが。」


 机の上に、ゴトリゴトリと、それが並べられていく。

 それを見るにつけ、由佳の目は喜々とした色に変わっていく。


「黄鉄鉱っ!でいいのかな?」

 黄色みがかった石に欠けたサイコロのようなものが張り付いている。由佳の記憶にはそれがしっかりと存在していた。


「木槌とかありますっ?砕いても大丈夫っすかねっ?」

 反応を見る間もなくそれを手に取ってから、処遇を尋ねる。更には、由佳は栄治の眼の前の木箱の中身が気になって仕方なくなった。その匂いを嗅ぎつけたのもある。


「ほらよ。好きにやれ。」

 硬い殻を持つ種子の検査用に用意されていた小ぶりの木槌を、抱えていた木箱ごと渡す。


「この匂いはやっぱり硫黄っすか!」

 それを素手で触れようとして、ハッと思いとどまり、荷車の牽引用の手袋を慌てて装着する。


「こういった鉱物は、窯元で使えそうか?使えるなら運ばせたいのだが。」


「それは、無理っすね。」

 木槌を打ち付ける手を止めて、由佳は一呼吸置いて、答える。


「黄鉄鉱を還元して鉄にするなら、今の砂鉄からの鋳鉄方式の方が遥かに現実的っすね。知ってると思うっすけど、硫黄ガスは毒ですからね。公害になるし、手が付けられないっすよ。」


「硫黄は硫酸の材料だったと思うが、そっち方面も無理か?後は、かや」

「駄目っすよ。その辺りは今の設備と知識と教育じゃ、更に手に負えないっす。」

 栄治が言いかけた言葉を食って、由佳は答える。硫黄を見て、一瞬考えて直ぐに排除した答えを素直に述べる。


「では、これはどうだ?」

 栄治がもう一つ箱を取り出す。


「石炭、っすかね。それは。」

 それを見て、由佳は自分の体が一気に冷えていくのを感じた。

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