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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
三国の転機
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外野に華が咲く

「ジエ、何故ここへ。」

 応接間に姿を見せたコ・ジエの姿に、咄嗟に立ち上がり、コヴ・ヘスが声を漏らす。


「道中に横たわる問題を解消しつつ、戻らぬ父上の、安否を確かめに参りました。」

 自身を出向かえるコヴ・ヘスを抱きしめる。その場に臨席する人々の目にはコ・ジエの背は、初老に入った父のそれよりも大きく見える。


「王都まで来る事はなかった。領地の差配こそ、お前の指示が必要であろうに。」

「漁港に滞在する衛士に、拘束した独立商人たちの解放を促し、接収した荷の行方を探しつつここへ来たのです。」

 抱き留める我が子の腕の強さ、手の大きさに、コヴ・ヘスは思わず感極まっていく。


「よう、河内さん。アンタも来たんだな。」

 窓際の陽に当たる栄治が、幢子の姿を見つけ手を掲げる。


「京極さん、実際に会うは久しぶりですね。鍬の様子はどうですか?」

「やっぱり、日本の量販品の品質を思い知るわ。だが悪くねぇ。」

 栄治は第一声に道具の品質を問う幢子の姿勢に半ば呆れつつ、見知らぬもう一人の顔に目を送る。


「で、あんたは?と、聞くまでもないな。顔を見ればわかる。」

「そうだね、安心する顔。細川由佳です。ええっと。」

 鼻を掻きながら、気恥ずかしげに由佳は相手を見る。

 人見知りしない方だとは自身を思っていたが、感情が複雑絡み合いに掻き乱される。


「京極栄治だ。お隣のリゼウ国で農相なんて肩書を押し付けられてる。今回の大事おおごとをとっとと解決するために、わざわざこっちまで来たってわけだ。」



「物資は、その殆どは行方知れず、か。」

 コヴ・ヘスが顔を歪め、目を細める。一同もまた、各々それに似た表情を浮かべる。


「はい、王領の向こう側か、シギザ方面かと確かめつつ参りました。道中ではついに見つかる事なく、灰は浜辺に打ち捨てられ、輸送用の陶器は割られ、木酢液は毒の証拠として王都に運ばれたと。」


「輸送のため現れた荷車の一団というものは気になりますな。その様な依頼を、私が知る範囲では交易商組合で受注した覚えも、また独立商人たちに対し発行も行っておりません。」

 本部長が口を開く。その日ここを訪れる前にも、その様な依頼のやり取りは確認した記憶はなかった。


「第一、この様に輸送封鎖を受けている状況、疫病の噂まである中、王都トウドに遠路足を運ぶ独立商人はおりません。それだけの荷車と輸送隊を、どこで、誰が、手配したというのです。」


「少なくとも、行軍してきたリゼウ国側にはそんな一団を見た話は無い。王領内に荷が運ばれる、交易商組合の本部が預かり知らないというのも妙だ。」

 栄治の頭には残された答えが一つだけであった。概ね、その場にいる全員の考えもそれに一致していた。


「ダナウの奴だろうね。ラザウの様態急変を見て、更に王太子の暴走も身近で確認している。頃合いを見計らって、皮を借りて横から奪ったのだろうさ。」

 コ・ブエラの代弁に、二人の領主が奥歯を噛みしめる。


「何が我が領とエスタ領に叛意あり、だ。王領内政府の貴族役人すらたばかり、我が領の物資も奪い、あちらこそ叛意そのものではないか。」

 拳を机に打ち付け、コヴ・ヘスは怒りをあらわにする。その言葉に、コヴ・ラドも頷く。


「何処から計画してたか知らないが、好き勝手に暴れまわってる小悪党とは、金輪際縁を切った方がいい、そうだろう?本部長。コ・ジエ殿が衛士に働きかけなきゃ、アンタは多くの組合員まで失ってたんだ。」

「全くですな。今回の騒動でバルドー国側の組合支部とも連絡がつかなくなっている。シギザ領に今後何らかの対応を具体的にとっていかねばなりません。」



「全く話についていけないね。」

「そうですね。河内さんはともかく、ただの独立商人ですもん、私。」

 末席で、幢子と由佳が並んで苦笑いを浮かべる。幢子は応接間の調度品に興味を示している。


「実はそろそろ硝子がらすも考えたいんだよね。窓硝子、硝子容器、硝子細工。」

「あ、もし作ったら運ばせてください。あと、荷車の改良ってのもお願いします。」

 二人は二人で、全く別の話を繰り広げる。

 由佳にとって、生業にしている輸送業と、商売武器である荷車の改良の方がよっぽど興味を惹かれる話だった。


「ああ、それならさ、バルドー国で銅を買い付けて運んできてよ。後、すずって解る?青銅を作るから、一緒に仕入れてくれると助かるんだけどな。溶融窯は製鉄の施設知識流用できるし、むしろ融点降下するから。鉱石の品質良ければ、直ぐにでも操業できそう。」


「あ、すずは解りますよ。昔、爺ちゃんが九州で石炭の鉱夫してたんで、色々教えてもらったんで、鉱石は色々解ります。地学と地理、後、理科とか歴史とか、結構役に立ったなぁ。結局、受験生にならずに、今は商人やってますけど。」

 由佳は、嬉しそうな祖父の顔を思い浮かべ、同時に受験勉強や学期末試験を思い出す。


「でも今、バルドー国の銅鉱山、鉱夫不足でダメダメですよ。去年、雨季に鉱山内で崩落が起こって、鉱夫が沢山亡くなったんです。鉱脈も埋まったわ、坑道も埋まったわ、道具も埋まったわで、トリプルノックアウトされてますからね。今年どうなったかはこっちに来たから知らないですけど。」


 場の会話が、全て止まる。

 二人は、会話が止まった事に気づいて、思わず口に指を当て、様子を伺う。


「なんで、こういう話が外野から飛び出してくるんだ。銅?錫?銅鉱山の崩落?」


「硝子や青銅という言葉も聞こえましたな。荷車に手を加える?何かの冗談ですかな?」

 一同の多くは頭を抱え、残りの一部は口をつぐむ二人に視線が釘付けとなった。

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