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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
三国の転機
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宮廷劇の粗筋

「で、何処まで知ってるんだ。逆にこっちがまだ知らない事も吐け。」

 栄治が声を上げるのに対し、黙して、貴族役人たちは栄治の隣を見る。


「ああ、組合の本部長か。まぁ、いいだろうよ。ここまで関わったのだから、むしろ逃がしゃしねぇよ。こっち側に引き込むつもりだ。そのためにわざわざ依頼を出して甘い汁吸わせてるんだからな。」

「い、一体何の話でしょう。」

 栄治の物騒な物言いに、一抹の不安を感じた本部長が声を上げる。


「全ての始まりは、リゼウ国からお戻りになった王太子殿下の誤解から端を発しているのです。」

 貴族役人の一人が重い口を開く。それを受けて数人の役人が顔を見合わせ、表情を崩す。


「貨幣ではなく灰を持ってこい。その様に言われた事を、曲解し、またそれをシギザ領派閥が助長したのです。灰、それと木酢液ならば食料を買えるという話を、国交を取り合わない敵対行為に趣旨をすり替えたのです。」


「連日、その話題は王領の内政府でも口にされるようになりました。ほぼ同時に王太子殿下がバルドー国との物資取引を取り付けた事も広まりました。」


「この段階で、我々エスタ領に近い者たちは、シギザ領派閥による、いつもの手口だと認識し、警戒と反対を表明はしていたのです。」

 隣り合わせに座る五人が首を縦に振る。


「我々は他の方々と違い、セッタ領に近く、中立の立場にいました。ブエラ様がエスタ領に身を寄せた事は存じていましたが、その段階では静観、という立場でいました。ところが、各領がバルドー国の物資購入にあたって、増税を受けると聞き、その時点で事態に介入することを決め、慎重論を掲げ、反対を表明するエスタ領の派閥に接触を行いました。」


「それに依ると、本当に灰と貝殻、木酢液なる品で食料が買えるという。耳を疑いました。内政府の風潮ではもはやリゼウ国が断交まで検討しているとも言われていたのです。これは根底から何か食い違っているのではと、ブエラ様や、コヴ・ドゥロに確認をとったのです。」


「コヴ・ドゥロは言葉を濁しながら、昨年の冬季、ブエラ様と仲違いをされた経緯、それとエスタ領から暗黙に届けられた農村部への支援の話を口にされました。また、そのエスタ領から、大量の紙の買付を、二の豆での支払いで打診されていると聞き及んだのです。」

 その場に臨席する三人が顔を見合わせ頷く。


「これは、私が聴いていて、いい話なのでしょうか。」

 次々に語られる内情に、本部長が顔を歪めていく。

「聴いたからにはアンタもこっち側だ。黙って聴いていろ。」

 栄治はその右手で彼の頭をおもむろに鷲掴みにする。


「これらの動きに同調し、ディル領に近い私達も、情報の共有を行うことにしたのです。北部開拓村の具体的進捗はエスタ領の派閥に仔細を届けていませんでしたが、木酢液の産出状況、今後の産出量見込みなどは、コ・ジエ様がコヴ経由でこちらにも共有を図っていました。例の品、の進捗についても、です。」

「この頃には、灰の下に砂鉄があるのでは、という噂が広がりつつありました。実際にそれを口にする王太子殿下と、シギザ領のコ、デナンの会話は本当に偶然、こちらの耳に入ったのです。」

「ディル領に報告をおこなった所、例の品、についてはこの時点で既に灰の下に潜ませる事を控える手筈になっていたのです。幸い、それが可能な方は、現地に居ますからね。」

 二人が頷く。これまでの人数を併せ、この場にいる全員が出揃う。


「灰の下あるのは、木酢液、ではないのですか?」

 セッタ領寄りの役人の一人が、話の尾を踏む。栄治にとってそれは濁したいものだったが、意を決する。


「不測の出来事として鉄器が潜む事がある。鍬の刃だがな。これを聴いた以上はもう逃さんからな。」

「鉄器でございますか!?不測の出来事というのは一体。」

 口を開いた本部長のみならず、その場に居合わせたセッタ領寄りの貴族役人が互いに顔を見合わせる。


「ディル領の北部開拓村で、砂鉄を溶かして、製鉄を始めてるんだ。俺達リゼウ国はそれを求めてディル領を支援している。エスタ領もそうだ。この事はブエラの婆さんも知ってるから、そっちにも時期が来れば共有されただろう。勿論、こちらが支援した分、鉄器の発注を済ませた後でな。」


「しかし不測の事態というのは?鉄器がディル領から密輸、されているという事でしょうか。輸送する商人が預かり知らない品が灰の下に沈んでいた、という事ではないですか。」

 本部長の顔が見る見ると赤くなる。それは、輸送依頼の約定に触る違反の一つであったからだ。


「馬鹿言うな。窯元が誰にも黙って勝手に試作品だって灰の下に隠して送ってくるんだよ。何時送られてくるか判らねぇから、密輸とか言われても預かり知らねぇし、価値も付けられねぇ。こっちも扱いに困るんだ。ある意味、被害者だぞこっちは。」

 実際に治験農場で既にその数本は活用しているが、その事は伏せ、栄治は説明をする。


「大体の経緯は理解った。で、いよいよ王太子が暴発した訳か。出るはずもない砂鉄を探して。」

 細事は置いて、一同が頷く。


「木酢液の産業登録については、本当に間一髪でした。貴族病でお倒れになる直前に、ブエラ様が国王陛下に認可を取り付けた所であったのです。それを終えたブエラ様が応接間を退出して間もなく、王太子殿下が現れ、ディル領が早期に納税を済ませた旨を言及なさったのです。」


「その場で、ディル領は砂鉄を売り、リゼウ国から支援を得ている。そう言及なさいました。その言に胸中を病まれ、国王陛下は貴族病を著しく悪化されたのです。お倒れになった国王陛下の前に居合わせた王太子殿下を止めるものは誰も居ませんでした。」


「貴族病が脚気かっけだとすると、心労が原因で慢性まんせい心不全の急悪化にも一致するな、そりゃ。」

 事態の粗筋を把握し、栄治はその大層な宮廷劇に大きなため息をついた。

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