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詩の空 朱の空(仮称)  作者: うっさこ
三国の転機
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王権の委譲

 独立交易商組合の本部長を伴い、栄治は王都トウド中央区画へと足を向ける。


「こんな状況で悠長に即位を待って、じっくりと腰を据えて交渉なんて馬鹿げた事ができるか?」

 随伴する本部長に栄治は吐き捨てる。しかし、当の本部長の顔色は悪い。

 先程の脚気かっけの一件が尾を引いていた。記憶を思い返し、貴族病の痕跡を頭で追っている。


「大体なんだ、毒だ?そんな話は何処から出てきたんだ。俺は故郷じゃ爺さん共に酒を飲まされて二日酔いになった時、アレを水で割って飲まされたんだぞ。カルピスじゃあるまいし。民間療法もいいレベルだ。だが今でもピンピンしている。」


「あの畑の薬というのは、人も効果が望めるものなのですか?私はまだ目にしたことがない品ですが。」

 薬と聞いて、目下、自身の体調に不安を抱えている本部長は、食い気味に問う。


「馬鹿言うな。あんな物飲んで健康を維持するなら日頃から食や生活に気を使うんだよ。飲んで体調を崩すとは言わないが、飲んで身体が治るとも言わん。」

 そう、だが実際に飲んで見せればいいと、栄治は考えていた。毒として押収されたそれは何処かに集められているはずである。



 王都トウドの中央区画は積み立てられた石垣によって隔離され、その内側へ入るためには限られた通用道を通らねばならない。その通用道を、入都門同様、衛士と役人が塞いでいる。


「リゼウ国の使節団、国主の名代を任されて来た農相の京極栄治だ。こっちは独立交易商組合の本部長。今回の輸送封鎖、並びに我が国の兵士の殺害、及び荷の取り扱いについて抗議に来た。知らせはもう何度もここを通っているだろう。取り次いでくれ。」


「お通りください。王城ではなく、王政府の方へご案内するよう、連絡を受けています。」

 当事者の居るであろう王城へと向かうつもりで居た栄治は、顎に手を置き、武将髭をさする。


「恐らく、王の崩御により内政部が配慮したのでしょう。参りましょう。」

 組合本部長は栄治に先じて一歩前へ進む。それを追う様に栄治もまた歩き出し、それに槍を携えた兵士長たちが、更にその後ろをサザウ国の衛士が随伴する。



「抗議については賜りました。この件について、これから協議させていただきたいと。」

 漸くたどり着いた会議室で待っていた言葉は、案の定、栄治の予想していたものであった。


「当事者の王太子殿下はどうした。うちの兵士を二人殺されていると既に話は聞いている。輸送路の封鎖についてもそいつが発布したものだろう。」

 栄治は目の前に座る数名の貴族役人と思われる面々に、言葉を荒げる。

 その中に、以前、食糧の買付に訪れた王太子やその随伴役人の姿はなかった。


「根拠のない、証拠も見つからない口上で、迷惑を被っているんだが。その砂鉄も、毒も何処にあるっていうんだ。こっちが送った荷は何処にあるんだよ。」

 栄治の追求に、役人たちは顔を見合わせる。


「拘束している当組合に所属する商人たちの身柄も、ディル領内で拘束されたままと聞きます。これにより当組合も運営に支障が出ている次第です。」

 栄治の威勢に押され、本部長も口を開けば、突いて出るのはこの騒動への不満と懸念であった。


「毒という論拠に上がっている木酢液ですが、当国に産業登録されたのは、王太子殿下が臨検を行われた前日であったのです。」

「その認知が及ぶ前に王太子殿下は積み荷の臨検に、衛士を伴って出発し、現場にて、木酢液を毒と断定され、封鎖が始まったことが解っております。」


「恐らく、全ては不幸な事故だったのです。」

 貴族役人が口々に、事件についての口上を述べる。


「はぁ、不幸な事故で依頼状を持ったウチの兵士を叩き切っておいて、封鎖も続けて、王太子は逃げて回ってるというのか。ウチの国も、交易商組合も小馬鹿にされたものだ。」

 栄治が台を拳で叩く。甲高く上がったその音が恫喝と取られようと、話が進むのならそれを大いに活用するつもりであった。

 現にその裁量は、他でもない国主に委ねられている。目の前の面々が恐れるに足る、地位に不足はなかった。


「王太子殿下は一昨日王城に戻られ、様態の急変した国王陛下の崩御にお立ち会いになりました。そのため、諸事の把握にまだお時間が必要なのです。王権の引き継ぎと諸事の承認により更に時間がかかる見込みとなっております。」


「なんだ?じゃあそれまで、品は届けないし、品は届かない、謝罪もしない。交易商組合にもそのまま待っていろというのか。話によれば、ディル領の領主と、エスタ領の領主も、滞在屋敷で軟禁させてるっていうじゃねぇか。」

 貴族役人たちは顔を見合わせ、一様に硬い表情で目を閉じる。


「ディル領には砂鉄の密輸で国家に対する叛徒の意思ありと容疑がかかっており、エスタ領もその共謀として扱われているのです。」

「これらの令を発布されたのは全て王太子殿下であり、国王陛下の崩御された今、王太子殿下の令以外では、解除できません。内政府で解除を求めても、喪に付していると、話が止まってしまうのです。」


 頭を抱える貴族役人たちを前に、栄治は唖然とする。

「今案件については、我々、内政府の貴族役人も判断が割れているのです。我々は早期解決を求めていますが、主流派は王太子殿下への円滑な王権移譲を優先したいと主張しています。」



「成程、それがサザウ国のシギザ領の派閥って事か。で、ここに集まったあんたらは、ブエラの婆さんの縁者か、エスタ、ディル領側の派閥で、こっち側ってことか。」

 その言葉に各々が頷く姿を見て、栄治は事態の深刻さに頭を抱えた。

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