ぼくの、爺ちゃんの入れ歯。
僕の爺ちゃんは、歯並びがいい。
キレイに並び揃っているよ。
だからね? ぼくは爺ちゃんに聞いてみたんだ!
『爺ちゃんの“歯”って? キレイだね!』
『・・・あぁ!? ジイちゃんの歯か?』
『爺ちゃんみたいな歯を、“歯並びがいいって言うんでしょ?”』
『あはは~ワシの歯は? 晴から見たら? 歯並びがいいのか!』
『・・・えぇ!? 違うの?』
『ワシの歯は、入れ歯じゃよ。』
『・・・“入れ歯?”』
『ほら? ジイちゃんの口元をよく見ておくんじゃよ。』
『うん!』
爺ちゃんは、僕の目の前で入れ歯を取って見せてくれた。
【ガクガク・パカッ】
『・・・じ、爺ちゃんの歯! 1本もないの!?』
『そっうっしゃよ。』
『歯がないと? 何言ってんだか分かんないね!』
【むにゃむにゃ】
『なんか!? “別人”みたい!』
【カシャ】
『なあ、入れ歯だっただろう?』
『爺ちゃん! 入れ歯をしてないとどうなるの?』
『まあ、ジイちゃんの好きな煎餅や固いモノは何も
食べれなくなるな~』
『爺ちゃんは、いつまで歯があったの?』
『60までは、自分の歯で何でも食べれたと思うがな~』
『急になくなった?』
『歳を取るとな? 歯ももろくなるんじゃ~歯茎が歳を取ると
いうか? 簡単に抜けるんじゃよ~』
『うーん? 僕にはまだ分からないな~』
『今のうちから、きちんと歯を磨いて大事にしてたら?
何時までも自分の歯で物が食べれるとワシは思うぞ!』
『自分の歯で食べるのと? 入れ歯を着けて食べるのは違うの?』
『晴は、目の付け所が違うな~流石! ワシの孫じゃの~そうそう!
自分に歯で食べた方が、そりゃ~旨いに決まっとる!』
『・・・なんで?』
『入れ歯だと、ガクガクするからな~やっぱり! 自分の歯がええー!』
『僕も爺ちゃんみたいに、歳を取ったら? 入れ歯になる?』
『それは! 晴次第だ!』
『“僕次第?”』
『歯の手入れを今からしっかりしてたら? ジイちゃんみたいに
入れ歯なんぞせんでも、自分の歯でずっといれるんじゃよ!』
『うん! 歯って、物凄く大事なんだって分かったよ!』
『晴は、頭の賢い子じゃ~利口な子は、ワシのように歳を取っても
後悔せん人生を歩んでくれよ。』
『・・・爺ちゃんは、後悔した事って何?』
『“歯と婆さんかな?”』
『僕が産まれた時には、婆ちゃんはもう居なかったけど? どうして
婆ちゃんは亡くなったの?』
『全部、ワシのせいじゃ~その頃のワシは家族より仕事人間でな!
婆さんが病気になっても傍に居る事もせんかった。』
『婆ちゃん、病気だったの?』
『風邪をこじらせたんじゃ~子供達は既にみんな独立して家を出ていた。
お前の母さんもそうじゃよ!』
『爺ちゃんと婆ちゃんの二人だけの生活だったの?』
『・・・いや? 殆ど婆さん一人だった。』
『・・・な、なんで!? 婆ちゃんを一人にしたんだよ!』
『そうだな、ワシが悪い!』
『・・・・・・』
『ワシが婆さんを殺したもんじゃ~』
『・・・でも、写真の中の婆ちゃんは隣に居る爺ちゃんに優しく
笑いかけてたじゃないか! 婆ちゃんは幸せだったはずだよ!』
『・・・うん、そうあればええな~』
『うん!』
『だから! 晴も歯を大事にしろよ!』
『うん。』
爺ちゃんは、僕にニコッと笑った。
爺ちゃんの歯は眩いぐらいに真っ白に光っていたんだ。
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