魔女と妖精(ゴブリン)
ある日、森に住む魔女に出逢いました。
彼女は森の奥で一人で暮らしているというのですが。
いったい魔女はどうやって、何もない森の奥で暮らしているのでしょう。
少しお話を聞いてみましょうか。
こんにちは、この辺りではあまり見かけない顔ね。
ああ、私の名前はアイシャよ。この森の奥で魔女として暮らし始めて、そろそろ三百年くらいかしら。
自分の歳を覚えてないのかって?
そうね、変に思われるかもしれないけれど、こんな森の奥に一人で住んでいれば、何日、何ヶ月、何年経ったかなんてすぐに解らなくなると思うわよ。
日が昇って朝が来て、空が茜色に染まって夜が来る。月が出る日もあれば出ない日もあるし、雨や雪が降る日もある。
そもそも一年の始まりの日なんて人間が勝手に決めた事だもの、今日がその日であっても、明日がその日であっても自然にとっては関係ないわよね。
だから私がここで何年暮らしてきたかなんて、些細な事なのよ。
ふふふ、なんて偉そうに言ってはいるけれど、私もこの森に暮らし始めてから最初のうちは日数を数えていたのよ。でもだんだん面倒になってきちゃって、気が付いたら何日経ったかなんて分からなくなってたって訳。
そうね、それくらい長い間ここで一人で暮らしているのよ。
ここ?
さっきも言ったけれど、ここは森の一番奥よ。
この森から馬で一カ月くらい南に下ると人間たちが住んでいる大きな町があるわ。それで私達が今居る場所は森の北側、町とは反対側なの。だから人間たちの世界から見ると、ここは森の奥ってことになるのよ。
ほら、あそこに見えているのは、この森の北側に聳えるカイエターナ山脈っていう大きな山脈よ。
聞いたことがある?
有名だものね。
東西にずっと連なっていて、この国の北の国境線にもなっているわね。その山脈の雪解け水が麓に溜まってできたのがそこの大きな湖よ。
ここは湖の東の端だから、このまま湖の端を北へ歩いて行けばカイエターナ山脈の麓に辿り着くわ。
私はほら、あそこの湖の畔に家を建てて住んでいるっていうわけ。
なかなか立派な家でしょう?
幻じゃないわ、本物よ。
まさか、私があんなに立派な家を建てられるわけないじゃない。
あの家は妖精達が作ってくれたのよ。
そう、知ってる?
お伽話だと思ってた?
妖精は色々な種族がいるのよ。家を建ててくれたのも、そんな妖精達の一種よ。
一人でどうやって生活してるのかって?
そうね。食べ物は湖の魚とか森に自生しているキノコや野菜を食べているわ。たまに動物の肉も手に入るのよ。
着るものはだいたい自分で作っているわね。
そりゃ三百年も生きていれば裁縫も覚えるし、上達もするわよ。でもさすがに裁縫道具や調理器具を一から作るのは難しいから、時々遊びに来る友達に融通してもらってるの。
友達って言っても人間は来ないわよ。さっき森の反対側なんて軽く言ったけど、この森を抜けてこようと思ったら迷わず辿り着けたとしても一月は掛かるもの。
裁縫道具や調理器具のような金属類は、山の麓にある大きな洞窟を塒にしている妖精達が作ってくれるのよ。
山に住んでる妖精は手先が器用でね、時々すごく奇麗な装飾品も作って持ってきてくれるんだけれど。こんな森の中で一人暮らしだから、見せる相手なんていないのよね。
でもせっかく作ってくれているものだから、全部大切にしまってあるのよ。
あの家を建ててくれたのは森に住む妖精よ。森には何種類かの妖精が住んでいるんだけど、一際体の大きな妖精がいてね、山の妖精が指示をして、大きな妖精が建ててくれたのよ。
あら、家の前に妖精が二人いるわ。あれは森に住む妖精の一種ね。知性が高くて狩猟の得意な種族なの。小柄だけど美男美女が多いのよ。
こんにちわ、今日はどうしたの?
あら、これは兎ね。貰って良いの?
ありがとう!
今日は魚を釣りに行ったのだけれど、一匹も釣れなくて困っていたの。助かったわ。
そうだわ、ちょっと待っててくれるかしら。先月漬けておいた梅のお酒がそろそろ飲み頃だと思うの。お礼に持って帰って。
納屋に置いてあるから取ってくるわね。
さあどうぞ。去年は気候が良かったみたいで、近くで群生していた梅の木がたくさん実をつけていてね。落ちるに任せても良かったのだけれど、ちょうどその頃に山の妖精が持ってきてくれた、やたらと強いお酒があったからお砂糖と一緒に漬けこんでおいたの。
ちょっと樽が大きいから、軽くなる魔法を掛けてあるわ。この上の栓を外して、傾けると中身が出てくるから。
梅の実は美味しくないからお酒だけ飲んでね。
ちょっと味見してみる?
良いわよ。コップを持ってくるわね。
どうかな、美味しい?
そう! お口に合って良かったわ。
みんなで楽しんでね。でも一度にたくさん飲むと体に良くないから少しずつね。
兎をもってきてくれてありがとう、気をつけて帰ってね。
さてと、兎って、ちゃんと下拵えすると美味しいのよね。
妖精達も付き合いが長いから、私に分けてくれる獲物は仕留めたらすぐに下処理をしてくれるようになったのよ。だからすごく新鮮だし、臭みもなくて美味しいの。
それじゃ早速兎を捌きましょう。
これもね、山の妖精達が作ってくれたナイフよ。とっても良く切れるし、不思議なことに切れ味がなかなか落ちないのよ、凄いわね。
えっと、何の話をしてたのかしら……。
ああ、そうそう妖精ね。
他にはそうね。ときどきだけど、外に出掛けて家に帰ってくると、家の中がすごく奇麗に片付いている時があるの。
どうやら家事をしてくれる妖精がいるみたいなのよ。本当に助かっているから、できればお礼をしたいのだけれど一度も姿を見たことがないのよね。
でも家が奇麗になった日は保存してあったパンやミルクが少し減っているから、それでお礼になっていれば良いんだけれど。
さぁできたわ、兎の肉を使ったシチューよ。
早過ぎないかって?
私はこれでも魔女なのよ。シチューを作るのなんて魔法を使えば一瞬よ。
なんてね。本当はシチューの種を作って保存してあるのよ。
ああ、種っていうのは木や草の種のことじゃなくて、お料理を途中まで作って保存してあるってことよ。
シチューはほら、こうして一番良い組み合わせの香辛料を混ぜた状態で保管しているの。
そうね、普通なら腐っちゃうわよ。そこは魔法の力を使っているの。
見て、この食糧庫。
こっちの食糧庫は中に入れた物が凍る魔法が掛けてあるの。こっちは凍らない位に冷えるようにしてあるのよ。
すごいでしょ。これでいつでも冷たい飲み物が飲めるし、たいがいの物は凍らせると長持ちするからすっごい便利なのよ。
そこは大丈夫よ。生きものを生きたまま入れても魔法は効果を出さないようにしているから。貴方が閉じ込められても凍ったりしないわよ。多少寒いかも知れないけどね。
さぁ、シチューが冷めないうちに食べましょう。
さっき森の妖精さん達に分けた梅酒がまだあるから、それも出してあげるわね。
いいのいいの、気にしないで。誰かと食事を取るのなんて久しぶりだもの。
ふふふ、ちょっと浮かれてるのかも知れないわね。
どう、美味しい?
お口に合って良かったわ。
あら、お世辞が上手いわね。お代わり食べる?
ああ、美味しかった。梅酒も良い具合に浸かってたわね。
そう言えば、名前を聞くのを忘れていたわね。
お疲れ様でした。いかがでしたか?
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。
魔女がどうやって森で暮らしているか、お分かりになりましたか?
それにしても魔女の話し相手は誰だったのでしょう。
お話の続きが気になる人は、いろんな想像を膨らませて楽しんでくださいね。
もし想像した内容を教えても良いよって思ったら、コソッと伝えていただけると嬉しいです。