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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第99部 オレグの予見


 1244年10月28日 ポーランド・トチェフ


*)オレグの予見


 昨日オレグは今日のマルボルク行きの予定をグラマリナに話したら、


「私も行きます。」


 と言った。グラマリナはエルザとデーヴィッドと二人の赤ん坊も連れていく。オレグはドイツ騎士団がいつマルボルグへ侵攻してくるか、不安であったからグラマリナと娘の同行を許可したのだ。


 オレグは面と向かってグラマリナには、ドイツ騎士団の侵攻については話していないが、グラマリナは心に留めているようだった。


 オレグはマルボルクへ渡った。トチェフの港まで道路は出来ているから、デーヴィッドが一走りして馬車を頼みに行った。執事のギュンターが喜んで馬車を曳いてくる。



「グラマリナさま、お元気そうでなによりです。」

「ギュンターは少しも変わりませんね、………。」


 そう言ってグラマリナはギュンターに娘を抱かせた。……? そのままであった。


「お嬢さま……。」


 慣れない手つきで赤子を抱いている。


 馬車はデーヴィッドがぎょする。館の前ではあらあら一人増えていた。可愛い男の赤ん坊だ。ユゼフの嫁バーシアの生んだ子共だ。エルブロとユゼフとベマが首を長くして待っていた。


「お父様、お母様、お世話になります。お兄さま、抱かせてくださいまし。」


 嫁のバーシアから半分強奪するかのように飛びついた。


「まぁかわいらしい、……。お兄さま、」

「バカを言うな、交換はしないぞ。?? 俺の子供だぞ……、」

   

 グラマリナの先の言葉を想像して話すユゼフだ、慌てた姿がかわいらしい。


「グラマリナ。さぁ中へお入り。」


 母親のべマが娘を引っ張っていく。


「はいはいお母さま。」


 他は他人だ、無視されても文句は言えない。


「奥様、お孫さんをお忘れですよ~。」


 ギュンターから孫を抱き上げる。ぎゃん、ギャン、ギャンタと泣き叫ぶ?。


「あらあらどうしましょ、……。ギュンター!」


 そんな事は無視してギュンターは皆を応接室へと案内した。


「こちらでおくつろぎください。エルザさま、お願いします。」


 とギュンターはエルザを連れて厨房へと去っていく。今回もエリアスは留守番にされている。


 ビスワ川の横には石材が積まれていたのを、オレグは思い出していた。二人はワクスを持って現れる。


「ギュンターさん、ビスワ川の横には石材が在りましたが、港を建設されるのでしょうか?」

「はいそうです、冬の減水期に建設する予定でございます。聞けばオレグさまもブィドゴシュチュにも港を造られたとか、活躍が素晴らしいですね。」


 並べられたワクスが一つ多い。オレグの視線を感じたのか、


「すぐに若旦那さまがお見えになられます。」


 と言いながら応接室の後方のテーブルにエルザと二人で着席した。


「コン、こん、ゴン。」「いて!!」


 ユゼフは頭でドアにノックしたようだった。


「お待たせしましたオレグさん、ライ麦の買い付けですよね。」

「はいそうです。この秋もよろしくお願いします。」


「オレグさん、少し変わった方法になります。良く考えてお返事をして下さい。用件は三つあります。一つはライ麦は九万袋で一袋を銅貨十枚でお願いします。二点目はライ麦一袋につき銅貨五枚を妹・グラマリナへお支払いください。三点目が……。」


「はい分かりました。ライ麦はほぼ全量を買い上げます。そしてマルボルクに逆輸入を致します。価格はライ麦一袋につき銅貨十枚ですね。」

「いいえ、そこは十一枚で構いません。出来ますか?」


 デーヴィッドには意味が理解出来なかった。


「来春のライ麦も同じようにお願いします。」

「はい出来る事は全て協力いたします。」


「ちょっと、それはどういう意味でしょうか。」

「デーヴィッドさん、それはマルボルクにお金を置いていたくはないからです。おそらく来年にはドイツ騎士団が侵攻してくる予定なのでしょう。」


「えええぇ、そうなんですか、そんな~。」


 デーヴィッドは大声をあげて驚き、そして落胆していった。


「はいオレグさんの言う通りでございます。領主さまには、ライ麦一袋につき銅貨四枚を支払う予定です。」


 90,000x1,000=900,000,000=金貨九百枚。マルボルクへ、

 90,000x500=45,000,000=金貨四百五十枚。グラマリナへ支払う事になる。


「エルブロンクはすでに侵攻されたのでしょうか?」

「いいえ年明けそうそうになるようです。この案は領主さまからの提案でございます。」

「ドイツ騎士団に侵攻された後は?……。」

「その時は別途騎士団の要望を聞き入れてからの事案になりましょうか。」



 デーヴィッドの目が泳いでいた。そして難しい顔つきに変わった。


「グラマリナさまには説明をされましたか?」 

「いいえこれからになります。先にオレグさんの了解を頂いてからの事でございますから。」


 オレグは急に不安になった。ブィドゴシュチュのライ麦の件だ。ギーシャは約束を破らないだろうが、頑固おやじが健在なのだ。


「申し訳ございません、私は火急の用件でブィドゴシュチュへまいります。代金の決済は次回の訪問の時にお願いします。」

「はい承知いたしました。」


「お約束は必ず履行致しますのでこの場は失礼させて頂きます。」

「はい、お気をつけて。」




 オレグは血相をかえて館を飛び出す。ギュンターは港まで送るというが、断るのだった。館を出て街外れまで走ってオレグは西の空に向かい、


「リリー大変だ。すぐに来てくれ~。」

「リリー~~!!」


 待つこと五分でオレグの前に現れたリリー。


「は~い呼んだ?」

「うん俺を至急ブィドゴシュチュへ連れて行ってくれないか。ドイツ騎士団の動きが急に変わったようなんだ。」


「ブィドゴシュチュにドイツ騎士団が侵攻してくるの?」

「あぁ可能性が出てきたのだよ。ライ麦を全量押えないと儲けが無くなってしまうよ。それと魔女軍団を結成する。少しの間手伝ってくれ。」


「うん分かったわ。そうしたら総員でブィドゴシュチュへ引き返すね。」

「あぁ頼む。」

「ゲート。ブィドゴシュチュへ!」


 リリーたちは出発してすぐだったからソフィアはブーブー言いながらも夕方には戻ってきた。オレグのパブに集まり対策会議が開かれた。


 ソフィア、リリー、ゾフィ、マティルダ、シーンプ、ギーシャとへステア。それにボブ船長とボブ二号も加わる。横にはシビルと魔女の二十六人が控える。




 1244年10月28日 ポーランド・ブィドゴシュチュ


*)対策会議


 オレグはマルボルクで得た情報を九人に話した。ブィドゴシュチュには既にドイツ騎士団が駐留している。もう侵攻されたと同じことだろう。いつ、ここの自治権をはく奪されてもいいくらいの注意をする必要がある。


「オツトーⅢ世はブランデンブルクへ金を送れというから、まだ大丈夫とは思うが、ドイツ騎士団が先に暴走しないとも解らなくなったんだ。ギーシャさん、ここは確実にライ麦を全量、俺の倉庫に運ばせてくれないか。そうしないととても安心出来ないよ。」


「ですよね、話が壊れたら金貨一千五百枚は貸し倒れになりますからね。」

「あんただって大損するだろう。」


「ギーシャさん相談だがライ麦を全量、一袋を銅貨8枚で売ってくれ。そうしたら俺はギーシャさんに銅貨七枚を支払うよ。もちろん金貨の一千五百枚は差引して払うがね。どうだいブィドゴシュチュに金を置いてドイツ騎士団に奪われるよりかマシだろう。ライ麦は必要に応じてさへステアさんの兄さんへ銅貨三十枚で希望通りに卸すからさ。」


「ドイツ騎士団から金を奪う? という事でしょうか。」

「そうなるでしょう、ブィドゴシュチュにお金が無ければ、当然ドイツ騎士団が食糧を他の地域から調達するか、このギルドを通じて購入するしかないよね。」


 一同は頷いて納得した。


 次にオレグは、


「グルジョンツはもう占拠されているのだろう?」

「そのようです。ですが自治権はまだ移譲されてはいません。ドイツ騎士団は防塞の城を築いているだけですから……でも城が出来てしまえば自治権も奪われるでしょう。」


「ギーシャさん、明日俺とグルジョンツへ行って、仲介をお願いするよ。」

「出来るかは分かりませんが尽力いたします。私と同じように裏取引を勧めれば、おそらく可能でしょう。」

「そうよな。都合が悪くなれば中国へ逃げれば誰も追ってはこないだろうし。」

「はい伝染病は怖いですものね。」


 すでに中国では数回のペストが流行していた。このペストが百年後からヨーロッパへと皮製品に紛れて入り込む。ネズミは運ばない無実だ。



 ボブ船長が、


「待ってくれ、おい兄ちゃん。なんの対策会議かを忘れちまったようだな。ここは先にブィドゴシュチュのライ麦を全量押えるのが先だろう。」


 オレグもギーシャも、


「どうもすみませ~ん。」


「ボブ、船の出港準備だ、要らない荷物は全部置いてその分ライ麦を積んでくれ。またグダニスクのマクシムの所へピストン輸送を頼む。」

「おう元気になったじゃね~か兄ちゃんよ、輸送は任せな一日で往復だぜ!」

「ボブ二号は倉庫の管理と積み込みを頼むぞ。」

「ガッテンでさ~。」

「お~忙しくなってきた~~~~。野郎どもに集合掛けるか。」


 喜ぶボブ船長だった。


「シビル、今晩大規模魔法をお願いするよ。グルジョンツも頼むな。」

「おう、じゃんじゃん持ってきな。……あとは任せんしゃい。」

「頼もしいな、魔女は全員使ってくれ、明日からは十人を船に乗せるからね。」


 オレグはシビルのビールと料理を頼んで出かけた。それも大量にだ。


 翌日からブィドゴシュチュの各地の農地から順次ライ麦が届く。「荷馬車が欲しい。」とオレグが叫ぶ。


「でしょうが、荷馬車は領主の役目なのでもうここには来ません。ご愁傷さまです。」

「俺は殺されても死なない男だ、ハンザ商人だぞ。」


「いいえケチな男でしょうが……。」


 ヒドイ事を平気で言うソフィア。積み込みが早く終える船にオレグとリリー、ギーシャが乗り込む。いよいよグルジョンツへ行くのだ。




 1244年10月30日 ポーランド・グルジョンツ



*)巻き上げ機


 シビルの魔法が功を奏しドイツ騎士団の妨害は一切受けなかった。倉庫にはライ麦の袋が大量に届く。


「ボブ、これでは入りきれないよ。どうにか出来ないか。」

「上に積み上げるか、早く倉出しをして下さい。二十万袋ですよ。」


 ボブ二号は天井の梁に滑車を取り付けて巻き上げ機を作った。任意の所で上に上げる事ができるという優れものだ。上に人足を配置して下から巻き上げ機で持ち上げる。上で受け取り積み上げる。


「すごいぞボブ。よく考え出したな。」


 とうとう倉庫には収まらずに港の埠頭にまで積み上げられた。


 ソフィアは倉庫の統治者として残していきリリーを連れていく。明日は三人でボブ船長の船に乗り込む。



*)グルジョンツ


「オレグさん、私と兄も一緒に行きます。」


 へステアが同行を申し出た。不穏な情勢だから早く自分の保守の確保が必要なのだ。へステアの兄はギルドの要望として行くという。


「おうすまないな。人間は多い方がいいのもな。文殊の知恵になる。」

「昨晩に打てる手立ては打っておいた。今日は無事に仕事が出来るだろうさ。」


 ブィドゴシュチュではキルケの邪魔は無かった。


「あぁキルケね。邪魔はしないと思うわ。だってゾフィをミル島に送り込んでいますから。」

「あの魔女は何をしたいのか理解出来ないものな。ゾフィか頼りになるな。」



 グルジョンツでも妨害は無かった。へステアの案内で領主代行の館を訪ねる。


「ここは私たちの姉が嫁いでいますから遠慮なく入れますよ。」

「そうでしたか……。」

「でも決済するのは義父ですから分かりません。」


 到着してすぐに通されたオレグ。兄妹は奥へいったきりで出てこない。オレグ、リリー、ギーシャの三人が取り残されてまま時間が過ぎる。


「………。」

「俺は反対だからな……何を言われようとも、断固反対だ!」


 大きい声と共にノックなしていきなり大男が入室してきた。


「クルシュ待って頂戴、クルシュ!」


 続いて大男の妻らしき女も勢いよく入室してきた。


「あんたがオレグか、ここから出て行け、俺は反対だからな。絶対に許さん。」

「お義兄さま怒らないで下さい。お義兄さま……!」


 慌てた様子でへステアが入ってくる。


「うるさい黙れ!!」


 クルシュと呼ばれた大男は赤ら顔になっていた。


「おいお前……!!」


「はい初めまして、私はオレグと言います。ハンザ商人でございます。」


 オレグは柔らかく挨拶を述べる。


「随分と若いな……お前は?……?」

「はいリリーと申します。姉の妹でございます。」

「随分とふざけた女だな、ガはははは~!!」

「そうでございますか? いたって普通かと思いますが、間違っておりますでしょうか。」


「まぁいい。妹ならば許そう。」


「もしかしましたら、私の妻がなにか原因でしょうか?」

「いいや姉だろう。ま、それはいい。だからライ麦は売ってはやらぬから即刻立ち去れ。」


「このライ麦の件は、ここグルジョンツの街にとって意義のある方法かと存じますが?」

「俺の立場が無くなる。たとえ親父が許しても俺は売らぬ。」


 オレグはへステアに向かい、


「すみませんへステアさん。お義兄さまには説明が通っていますでしょうか。それとももっと別の理由がおありとか?」

「はい理屈で述べましたので、お理解はされたと思います。」


「そうねオレグ兄さま。きっと別の理由がありますわ。たぶんお話は頂けないでしょうから、退散いたしますか。」

「おう出て行け!!」


 そう言いながらクルシュの方が部屋から出ていった。


「あらあらクルシュの方が出て行きましたわ。あぁすみません、私はクルシュの妻でへステアの姉です。」

「今回の申し出はとても良いと思います。どうしてクルシュが怒るのかが分かりませんが、父が帰りましたらもう一度説得してみます。今日はひとまず、」


「はい、明日また伺うといたします。」


 オレグ、リリー、ギーシャの三人は帰るが、兄妹は残って説得するという。


「すまないねギーシャさん、きっとソフィアのせいだろう。リリー何か心当たりはないかな。」

「もしかして、前のグルジョンツでライ麦を売った時に六人ほど捕まりましたよね。でも私が六人を取り戻したから怒っているとか。」


「いや違うだろう。きっとソフィアが何かを言って逃げたからかもしれないよね。」

「それは大いに可能性があるわよ。でも違うような気がする。だって私を見て疑問に思っていたし、語気も和らいだわ。」


「きっとリリーが若くて綺麗だったからだろう?」


「まぁそんな、恥ずかしいわ~! 妹 ♥L♥O♥V♥E♥だわ!!」


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