第81部 ブランデンブルク辺境伯の領首・オットーⅢ世
1243年10月11日 ドイツ・リューベック
*)ブランデンブルク辺境伯の領首・オットー三世
「ばか、あほ、まぬけ!」
「あんぽんたんのバカのオレグ兄さま。すぐに死んで下さい。」
二人から散々に罵詈雑言を浴びるオレグ。可哀そうだった。
「イヤだよ俺は。また死ぬのか~?」
「リリー五人をここに呼んでくれ。ブランデンブルク辺境伯について尋ねたい。」
「我は魔女五人を足元に呼び出す。魔女ショーカーン!!」
「キャッ、ドテ、痛い! ムッフ~ン、ギャー。」
「おうおう、いい悲鳴だ。一人を除いてだが。」
「ご主人さま、私たちは、」
「そうさ魔女・ソフィアさまに届けるのさ。……嫌ならブランデンブルクに付いて知っている事を話せ。」
「はい、私たちは魔女・ソフィアさまの使用人でございます。リンテルンのシャウムブルク城は、魔女・ソフィアさまの古巣でございます。リンテルンの領主さまは最近、魔女・ソフィアさまに反感を持たれてありましたので、不在の時に乗っ取っただけでございます。」
「リンテルンはブランデンブルク辺境伯の領地だったのか。」
「いいえ、隣接していたのでございます。だからオットーⅢ世さまが支配したがっておられました。」
「あんた、それは違うわよ。昔はそうだったらしいですが、今は領地になっていますわ。」
「えぇ!! なんてこったい。俺は既にオットーⅢ世に喧嘩を売っていたのか。」
「はい、ブレーメンの住民を移動させて戦争に借り出したのも、きっと癪に障った事だと推測が出来ます。」
「だったら、お前ら二十六人は全部返してやるよ。これで収まるだろう。」
「はい、時は既に遅しでございますでしょう。……私たちも帰されたら、きっと首が菩提樹の樹に下げられます。」
「オレグどうしようか。ここは反物を売って魔女は返して帰ろうか。」
「そうだな。魔女の残りは二十一人か。次回に届けよう。」
「そんな~ご主人さま、お助け下さいまし。」
「オットーⅢ世に反物と一緒だ。俺も死にたくはないから、お前らの生存の打開策を考えてやるよ。な、それでいいだろう?」
「そんな~」x5
「しばらく隠れていろ。もう昼過ぎたから四人は来るだろう。」
リリーの境界に収納された。羊にど突かれる魔女だった。
*)反物の入札
「オレグは知らんふりしててね。マクシムさんからの情報だけだから、オットーⅢ世はまだこちらの事は分からないわよ。」
「いや、名前と素性は知れてるさ。」
「それだけでしょう?……オレグ。」
「あぁそう……だね。」
「平静、平静、と。」
「着替えるから、お兄さまは後ろを向いて下さい。」
「あいよ。綺麗なリリーになるのかい?」
「そうね、うふふ……、」
最初に入って来たのがマクシムではなく、
「リリーさま、反物は出来ましたか~。」
「はいここに。とても綺麗に織れましたわ!」
「へっ!」
リリーが出したのは一mほどの長さだった。一晩で織れるのはこれが限度だ。
「素晴らしい、そう、とても素晴らしい!!」
見惚れるイングランドの商人だった。
マクシムに連れられて他の二人が入ってきた。
「マクシムさま、これを見て下さい。とても綺麗に出来上がりました。」
「ホッ!」
すぐに女史が、
「お茶でございます。」
「ハッ!」
「リリーさま、とてもお美しい!! ですわ。」
「ソフィアお姉さまですわ~。」
そこには絹の反物で出来た服を着た綺麗なソフィアの姿があった。機織りをしたのはりりーだが、ソフィアは見本の中の一本から服を縫って作ったのだ。
綺麗なソフィアを見た瞬間からオレグは身動きも出来ないほどに感動していた。未だに呆けている。
これはソフィアの策略だった。いくら反物が綺麗でも買うのは男だ。布をみて判断はできない。
「ここは反物で作った着物の見本が要る。」
そう言ってソフィアは着物を作ったのだ。
「オレグさま、入札を始めてもよろしいでしょうか? オレグさん?」
「あ、ああ、俺は夢を見ていたのか。そ、そうだ、始めようか。」
それを見たソフィアとリリーは、うふふと笑った。
「それでは絹の反物八十五本の入札を始めます。みなさま金額をこの紙に書いて下さい。そして机の上に置いて下さい。女史が開いて読み上げます。よろしいでしょうか。」
「はい、」x2
マクシムはオレグと三人の目の前で白紙を広げて見せた。
オレグが、
「おう、白紙を確認した。さ、金額を書いてくれ!」
「はい、」x3
四人はこそこそと紙に金額を書いて四つ折りにして、机に置いた。
「さ、女史。開いて下さい。」
「え! そんな。……一位は、……金貨一万三千枚のイングランドの羊さまでございます。二位はオットー様の金貨一万二千枚。後は省略します。」
二枚は白紙だったのだ。これもマクシムの指示だったが、イングランドの商人が反旗を起こしたのだった。このイングランドの商人は継続しての取引を熱望したのだった。
「ヌヌヌヌ!!! ばかな。この俺が落ちただと、ンンンンン、許せん。マクシムお前は俺を裏切ったのか!」
「いいえ、そのような事はございません。このイングランド商人の気の迷いからでしょう。私はこの者にもちゃんと指示を出しておきました。」
「マクシムさん、すみません。反物はイングランドにこそ相応しいものでございます。いくら王様とて、商人を黙らせる事は出来ません。」
激怒しているオットーⅢ世。ひるむことがないイングランドの商人。睨み合いが続く。
「オットーさま、お初にお目に掛かります。オレグでございます。」
「フン、貴様には用は無いわ、即刻立ち去れ!」
「ヤッター、ソフィア、リリー。ここは立ち去ろう。あの商人には気の毒だがあれもハンザ商人だろう。死にはしないさ。」
「オレグ、だって今後のお客様だよ? 助けてやらなくちゃ。」
だが、
「神の御加護を!」
「お前は殺して熊に食わせる。覚悟しておけ。」
「神のご加護を。」
「ヌヌヌ、……貴様~!!」
「神のご加護を。」
「お前は、なんだ、名前はなんだ。」
「神のご加護を。シーンプと言います。シープではありません。」
オットーⅢ世は茹蛸のように赤くなった。
「リリー、非常時に備えて逃げる準備を頼む。」
小声で囁くオレグ。
「OKよ、お兄さま。」
オレグは怖がって動けない女史を指さして、
「ソフィア、あの女史をマクシムの所まで届けてくれ。そしてこの紙をマムシに渡してくれないか。」
「いいよオレグ。気を付けてね!」
「あぁ、リリーも居るから俺は大丈夫だ。」
「リリー、オレグを頼んだわよ。」
「うんお姉さまこそマムシと戦ってね!」
「なんで?……?」
ソフィアは女史をヒョイと抱えて走りだした。気が小さい男なのだろう。吠えるばかりで能が無い? オットーⅢ世は使えぬ王様なのだろうと、観察したソフィアだった。
「神の御加護を!」
「お前は殺して大熊猫に食わせる。覚悟しておけ。」
「神のご加護を。」
「ヌヌヌ、……、貴様~!!」
「神のご加護を。」
「リリー召喚の時に四番目に落ちた女をここに呼んでくれないか。」
「秘策があるのね、任せてオレグ兄さま。」
「イヤ~~ン、私をどうする気ですか。」
「お前はサキュバスだろう。王様の玉を抜いてくれ。」
「もう抜いておりますわ。玉座から玉を抜きましたから、王様の王になっていますでしょう?」
「ギャッハッハー、ギャーーーーッハッハー!」
「大笑いをしたオレグ。貴様はいったい何者だ。」
「はい、魔女を使役する魔法遣いでございます。」
「おう気に入った。もっと魔女を寄こせ。腹いせに食ってやる。」
「リリー!」
「は~い任せて。残りの四人を出すからね。」
「キャッ、ドテ、痛い! ギャー。」…「ギャー!!!!!」
「すまない。俺の為に犠牲になってくれ。墓は十字架の立派な物を作るから!」
「そのようなお墓はいりませ~ん、お助け下さい。」
「リリー、ここは羊を連れて出て行こうか。」
「シーンプさん。……さ、ここから出ましょう。そしてパブで飲みましょうよ。お姉さまも居ますわよ?」
「うん、行く行く!」
街中から騒ぎを聞きつけてマクシムの使用人と船のクルーが集まり出した。もちろんボブらもオレグの元に集まった。いつものパブ。
「マムシさん、私はあなたの元ではもう働けません。トラバ~ユさせて頂きます。これは私の採用通知書です。退職金を下さい。」
「いや、いや。待って下さい。貴女を置いて先に逃げたのは謝ります、ですから、その、ここは穏便にいきましょう。」
「ばこ~ん!」
「もう十分ですわ。私は出て行きます。この指輪はお返しします。」
「そんな~。」
「よう旦那。また嫁さんに逃げられるのですかい?」
「えぇ!!!…マクシムの嫁さんだったのか~。」
オレグは大変な女史を採用してしまったのだった。
「さ、オレグさま。ワインを飲みましょう…よ!」
「ばこ~ん!」「ばこ~ん!」
今度は二人から殴られるオレグだった。
「旦那も大変ですね~。」
「分かるかい、ボブ二世くん!」
ソフィアはシーンプから捕まり逃げられない。オレグは女史から掴まれて逃げられなかった。
「マクシムさん、嫁さんの代金は払えないよ!」
「おう持っていけ。熨斗つけてやるよ。ローソクを百本な!」
「えっ! そんな!!!!」
「ロープもあるぜ。」
「ギャー! 勘弁してくれ~。」
「マクシムさん。私の旦那様を驚かさないで下さいまし。」
「腹いせだ! これくらい許してくれるだろう。」
オレグは美人秘書を手にいれた。だがオレグは、
「あんたはトチェフの領主様つきだ。その才能を活かしてくれ。」
「はい、分かりました。」
翌日は三人の代金の決済が行われた。同じハンザ商人だ。瞬時にネット決済が出来上がった。また、イングランドのシーンプとは長い付き合いになる予定だ。
ブランデンブルク辺境伯のオットーⅢ世とその妻のソフィアとも、長い付き合いが始まるのだった。
最初のお付き合いはドイツ騎士団だった。
月夜の晩に、夜空に木霊する魔女の叫びが不気味だった。
「マクシムさま、ローソクとロープは事務所に置いてきましたわ。明日の掃除は頑張って下さいまし。」
「滑って転ぶとか?」