第75部 デンマークの王とハンザ商人夢の世界
1243年8月22日 トチェフ村
*)デンマークへ
「オレグは夢を見ていたのよ。どお? 綺麗な私は居たかな?」
「あぁいたよ。魔法少女ソフィア! と言っていたよ。」
「プッ、なぁ~にそれ。笑えないわ!」
「今噴出して笑ったくせに!!」
「アハハハ~!!」
オレグが起きたので、ハイな気分になったのかソフィアは大きい声で笑った。
「ソフィア。俺はデンマークを食いに行ってくる。」
オレグは、デンマークのお城に行く事を決めたのだ。
デンマークに行くには、ピアスタを連れて行く必要があった。なんでも「オレグ、ここはぜひとも反物の販売も兼ねて、行こうではありませんか」と、言うからピアスタを無視することは出来ない。それ以前に、絹の反物の販売の窓口でもある。なんという強者だろうか。金の豪傑とは違う側面が窺えるのだ。
「ピアスタさまは、オランダの王室との顔繋ぎに利用しなくてはね。」
「でも、しこたま面倒な性格でしょう? 同行させてもいいの?」
「おいおいピアスタさまはソフィアの娘だったんだろう? ソフィアは匙を投げるような事を言うのだな。」
「昔の話よ。今は関係ないわ!」
「そういうものか~ぁ?……ま、それもありか。」
「で、マティルダさまはオランダに届けなくてならないから、一緒に連れて行くよ。」
「オレグ、何を寝ぼけているのかしら? マティルダさまはとうの昔にリリーがゲートで送り返したではないですか。忘れたの?」
「いや、マティルダさまは今でもこの村に居るはずだ、俺はオランダに帰したとは聞いていないぞ。」
「オレグはまだ夢を見ているのよ。マティルダさまはもう居ません。」
「?……?」
「では、ちょっくら、イワバへ挨拶に行ってくるか。」
「そうね、私も行くわ。瞬時に着くようにアンナも連れてね!」
「カレーニナはどうすんだい。」
「館でカレーの料理を勉強したいから残るそうよ。」
オレグはいつも二人で行動する魔女が、別行動するのも変だと思いつつも理由までは訊かなかった。
「あの魔女マティルダは手なずけたのか。どうもあの魔女は嫌いなんだ。」
「性格を見抜かれているのね。何かあったら私が許さないから安心して!」
「それならソフィアに一任するよ。頼むな。」
「うん。」
「グラマリナさまに挨拶して、リリーを連れていくか。」
「そね、たぶん反物もたくさん織りあがっているはずよ。」
「マティルダさまと打ち合わせも必要だしな。」
オレグが館を訪れると、丸いお腹のエルザが出迎えてくれた。
「エルザ、他のメイドは何をしているんだい。」
「今、絹の反物の包装をさせています。運搬の途中で汚す訳にはいけませんもの、念入りにさせていますわ。」
「おうすまね~な助かるよ。リリーは部屋に居るの?」
「はい、そうです。すぐにマティルダさまのお部屋にご案内いたします。」
「先に俺らを案内してくれ。マティルダさまに出立の報告をしたいんだ。」
(だが、なんでマティルダの部屋に案内されるんだ? 不審しいだろう。)
オレグは心でつぶやく。
「はい、かしこまりました。」
オレグはソフィアと共にマティルダの部屋へ行った。エルザが声を掛けたら応接室で待つように言われた。オレグらは応接室へ行く。
「あれ? ルシンダさま、お久しぶりです。ルシンダさまも呼ばれていましたか。まさか……、」
「はい、そのまさかです。また旅のお供が出来てうれしいですわ。」
その一言で背筋が寒くなるオレグ。
「ルシンダさまは、お城へ帰られなくてもよろしいのでしょうか。以前から気になっていまして、その……、」
「はい構いません。お父様からは世の中の見聞を広げよ! と、言われていますから、当分はここに居ます。」
「そんな事はうそでしょう。このオレグを殺してソフィアを城へ連れてこいが正解だろうが。」
「ソフィアが居ますから、それは不可能ですわ。」
「ふ~ん、やっぱりそうかい。ソフィアは渡さないよ。」
「そんな~!」
「ルシンダさま、そのお言葉はどういう意味でしょうか? 内容に因りましては私が城ごと潰しますわよ。絶対にオレグは私が守って見せます。」
「おい、ソフィア。穏やかに頼むよ。」
「だいたいオレグが悪いのよ。どうしてあのような事を言ったのかしら?」
「すみませ~ん……」x2
と、オレグとルシンダがソフィアに謝った。
そこへピアスタとリリーが現れる。
「お姉さま、ドアの外まで聞こえましたわ。」
「何事ですか。また、オレグが悪いのですね。」
「どうも、すみませ~ん……。」
と謝るオレグ。マティルダは、
「今回はお願いしますわ。身重でなければ私も行きたいのですが、仕方ありません。見送るだけで許して下さい。反物は既に九十本が用意出来ております。リリーを連れて行って下さい。」
「もう? 九十本も出来ていますか。少し早すぎませんか?」
「いいえ、私もたくさん織りましたのよ。すごいでしょう?」
「?……身重で織れるの?」
「はい、先にイワバにまいりまして、ピアスタさまと同行いたします。」
「そうですわね、出来ましたらルシンダさまとサローとヤンも連れて行って下さいね。用心棒にはなりますわ。」
「そうでしょうか……、では反物は預かっていきます。」
「はい、よろしくお願いしましたよ。」
当日オレグたちはイワバで一泊して、翌日にイワバからグダニスクまでとんだ。
1243年8月23日 ポーランド・グダニスク
*)マクシム
オレグはグダニスクの街を見たら思い出した事があった。
「あ! マクシムを忘れていた。」
「そうだよ、機織り機はとっくに届いているだろうね。」
だが、オレグにはマクシムの事務所が在った場所を思い出せない。
「なぁリリー、マクシムの事務所は何処だったかなぁ~。」
「私は知らないわ。オレグが忘れていたら、もうお終いよ!」
「オレグさま、帰りに寄ろうではありませんか。先に寄りましても金貨をお支払いするだけでしょう。それに機械も引き取ってリリーさまのお腹に仕舞うだけですし。リリーさまの負担になるだけです。」
「それもそうだな。帰るまでに思い出せば良いか。」
オレグの行動に突っかかるアンナだった。ハンザ商館に寄るのも同じく帰りにしましょう、と言うアンナだ。
パブに寄りエネルギーを補給して今度は超跳躍に臨む。ハンブルクまで跳ぶのだった。さらに前回に宿泊したパブへ跳んだ。
「ここはいい思い出は無いんだよ。俺はすぐに酔って寝るからな。起こすなよ。それとアンナ、夢には出るな!」
「はいご主人さま~、」
妙に馴れ馴れしいアンナだった。オレグはあまり飲まないワインをかパかパと飲んで寝てしまった。
「お姉さまも、もうお休みになられましたらどうですか。」
「まだ、いいわよ。リリーこそ疲れたでしょうから、先に休んで頂戴。」
「はい、お兄さまの隣で休みます。」
「リリーお願いね。……私はアンナを抑えておくわ。」
「ワクワク、ドキドキ。そわそわ、るんるん!」
「オレグ兄さま、……それ~っ。」
「お兄さま、お姉さま公認ですのよ。いい夢を見て下さいね!」
リリーはオレグを守る為に結界を張って寝たのだ。いつぞやと同じように。翌朝はまた、ソフィアと一緒に寝た夢を見たと言いながら、鼻の下の髭が伸びていたのだった。
「オレグ、鼻毛は伸ばしたいの? あごひげよりも長いわよ。」
「そうかぁ~?……後で抜いておくよ。」
「突っ込んだ指を舐めるな!」
オレグに反して寝不足のアンナとソフィアの二人の姿が見られた。
ハンブルクの夜は明けた。今日はデンマークの都へ跳ぶのだが、リリーはデンマークを知らない。またしてもアンナの協力で、デンマークまで案内をしてもらう。
この当時のデンマークの首都は、コペンハーゲンなのだろうか。/*-*のHPにはデンマーク王****Ⅰ世とかしか書かれていない。中世のデンマークの首都はコペンハーゲンでよいのだろうか。
コペンハーゲンは、
海峡の向こうにはスエーデンが見える。エーレ海峡は船の通り道だ。交通の要所だからそれでいいだろう。ハンザ同盟の船はこのエール海峡を通る度にデンマークから攻撃を受けたのだろうが……。
1243年8月25日 デンマーク・コペンハーゲン
*)アーベル(在位、1250-1252年)
エーリクⅣ世(在位、1241-1250年) 今は1243年である。
今は兄のエーリクⅣ世(デンマーク王)が王位についていて、アーベルは三男になる。この頃は兄のエーリクⅣ世を殺害しようと計画中だった。
アーベルの配偶者がマティルダだ。
あのマティルダの名前は、メヒティルド・フォン・ホルシュタイン という。胸の大きい王妃だった。娘のゾフィが女の胸を確かめるのは母の乳を慕ってか。おかしいと思うのだが、配偶者の名前はメヒティルド・フォン・ホルシュタインと書いてあった。結婚してもフォン・ホルシュタインでいいのだろうか。
「オレグ、また馬鹿な事を考えていますね。もうおよしなさい。」
ピアスタははしたないオレグを窘めている。今回は貴族を通り越して公爵に謁見するのだった。
オレグは、
「俺みたいな男に公爵さまが会う訳はないだろう。あとはピアスタさまにお願いします。私は従者の控室の馬小屋でお待ちします。」
「あらあら、オレグ。厩舎には入れませんよ。ちゃんと控室があります。」
「それは良かったです。では控室でお待ちしておきます。」
「そうですか?」
「はい、反物を織ったリリーだけを従者にされて下さい。」
「オレグ、リリーを暫くお借りします。」
「リリー頑張って反物を売り込んでこいよ。」
「うん、なんとかしてくるね。」
公爵に謁見する緊張した面持ちのリリーは少し可哀そうに見えた。
アーベルは奸計の塊りのような男だと、オレグは考えた。事実、王座に就いたのも簒奪によるものだ。当の本人は知らぬ”というのだが、誰も逆らえないので、表面上は先王は病死だ~となっている。
マティルダも、大変な王に嫁いだと思うのはオレグの勝手な意見だ。どこの国も自国を守る為には、政略婚を張り巡らすのが普通。王妃の娘はやはり王妃になる事は百%では無いにしろほぼ百%に近い。
なぜならば、国王は常に命を狙われるし、アーベルのように戦死もするのだ。短い長いの違いがある
王座だが嫁の候補は多数あっただろう。
反対に息子は二人三人と居れば、運が良くて二人か国王になれるが、悪ければ一人、いやゼロもあり得るのだ。アーベルの長子は人質に差し出されて国王にはなれなかった。二男が国王になっている。三男は残念ながら椅子は回ってこなかった。三男にも国王を! と考えたマティルダは、アーベルの死後に生まれた子にアーベルと名付けている。
「ピアスタか、久しいな。ステファン伯と共に来たのはもう四年になるのか。」
「はいアーベル公爵さま。父は領地の攻防で忙しいもので、一緒に謁見する事が出来ませんでした。」
マティルダもアーベルの横に座っている。
「ピアスタ、この前はお前の家臣のお蔭で命が助かりました。お礼を言います。」
「とんでもございません。お礼には及びません。」
アーベル、マティルダ、ピアスタの会話が続く。リリーは(ただのお飾りかい!)と憤慨している。
ようやくリリーへ話が回ってきた。
「マティルダさま、こちらが絹の反物です。精根を込めてこの娘が織りました。これを西側に輸出して頂きたいのです。」
「はい、フランスの貴族へ勧めましょうか。」
リリーは、
「はい、お願いします。私が姉と共に二年の月日を掛けて織り上げました。是非ともお手に取られてご覧くださいまし。」
「アーベル、この絹の布は薄くて色も綺麗ですわ。……これならば東洋の宝物と言ってもよろしいですわね。」
「いやマティルダ。これはヨーロッパで織られた柄になるわい。ふ~む、実に貴族が好みそうな柄で織られている。」
「なかなかよろしいでしょう?」
ピアスタは勧め始める。
「これは素晴らしいですわ。全部広げてみましょうか。」
宮中の女中三人が広げ始めた。九十本もの数だ。結構な時間が経過した。リリーは数え始めた。
「ピアスタさま、念のために数を数えておきます。」
後ほどリリーは九十本ありますという。
ピアスタは、
「アーベル公爵さま、念のために確認をお願いします。」
「おう、そうであるな。……これ、数を確認いたせ。」
「はい。先ほどから数えましたが、全部で百二十本ございます。」
ピアスタとリリーは声を押し殺して驚くのだった。リリーはマティルダを見た。するとマティルダはニコニコと笑って頷いていた。
「ピアスタ、反物の金額は幾らじゃ。」
「はい、絹の糸をペルシャから購入しましたので、反物一本につき、金貨八十枚でございます。アーベル公爵さまには、手数料として金貨五枚でございます。」
「ならば反物を金貨九十枚で売れば、ワシの儲けは金貨十五枚じゃな。」
「……はい、そのようになります。」
ピアスタもオレグの販売方法をまねていた。手数料として金貨五枚は、所謂袖の下、公爵の懐に入るのだ。
120x80=9,600枚 120x5=600枚 120x90=10.800枚 ピアスタに入る金貨は、9,000枚になる。 オランダの国庫に入る金貨は、1.200枚だ。
だが実物は九十本しかないから、三十本分を余分にアーベルへ支払わなければならないから、(30x5=150枚)9,000-150=8,850枚がピアスタの収益だと考えた。
だが国庫から9,600枚の金貨が持ち出されて、ピアスタに9,000枚。アーベルが600枚を手にした。これだと、全部を販売できても、金貨は90x90=8,100枚にしかならないのだ。アーベルは金貨600枚を見て後はどうでも良かった。
マティルダは、
「うふふふ、金貨は九千枚を持ち帰りなさい。」
と言うのだった。
マティルダとリリーは、
「?…?……?」
「ありがとうございます。」
「これで助けて頂いたお礼といたします。」
一枚二十gで百八十k?………。しかし、金貨九千枚とかあり得ないお話です。
「大金貨九十枚でどうだ。」というアーベル。ピアスタはオレグから前知識として「大金貨は国が変われば使えない」と言われていた。
「申し訳ありません。当方の金庫は空っぽですので、金貨で埋めたいと考えております。アーベル公爵さまにしましても、金貨で代金を受けられるのでしょうから、ここは金貨でお願いします。」
「そうか、残念だ。」
*)宮中晩さん会
「マティルダの生還を行う。全員で参加するがよい。」
「はい、お伺いいたします。」
「いいか、誰かに訊かれてもマティルダの生還会だ。お前たちはその功労者としての、ピアスタとその家臣だ。いいな、忘れるな!!!!」
と、強い口調で言うアーベルだった。マティルダは、
「ピアスタ、くれぐれも他の者にも伝えて下さいよ。」
「はい、承知いたしました。」
マティルダは二人を呼びとめて、
「服は用意していませんでしょうから、私の衣装を貸します。」
と、言うのだった。
ピアスタとリリーは控室に戻り、
「オレグ、ルシンダ、他の者も聞いて下さい。この後晩さん会があります。会の名目はマティルダさまの生還を祝う会、です。宮中で訊かれましたら必ずそう言うのですよ。分かりましたか。」
「はい、マティルダさまの生還会です、言えない者は置いて行きます。」
オレグはヤンの顔を見て返事した。
「俺か? 俺は口は動かすが絶対に喋らないぞ!」
「おう、頼んだよ。」
「フム!」
参加者はアーベル、マティルダ、ヴァルデマー、ゾフィーと大臣のカンケイの五人。
対してオレグらは、ピアスタ、ソフィア、リリー、ルシンダ、アンナ、オレグ、サロー、ヤンの八人になる。
女も男も湯あみをさせられて着替えを済ませた。
宮中晩さん会が始まった。だがアンナ、オレグ、サロー、ヤンの四人は直前ではじかれてしまう。
「申し訳ありません。急に予定が変更されました。貴方達四人は別室にてこの私がお相手いたします。他は私の妻と従者が二名になります。」
ピアスタが理由を伺うも返事は無かった。ただアーベルの意向だとしか答えなかった。
「そうですか、仕方が有りません。オレグたちは下がっていて下さい。」
オレグは腕を組んで右手を顎に当てた。
「リリーなにかあったら構わずに魔法で切り抜けてくれ。」
「うん、分かったわ。」
「ソフィア、何も起こらない保証はないのだ。もしもの時は二人を守ってくれないか。」
「いいわよオレグ、何か気になるのね!」
「あぁ、外れてくれればいいのだが……、」




