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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
71/257

第71部 逃避行


 1243年8月9日 ドイツ・リンテルン


*)逃避行



「ゲート。」


 オレグはソフィアを抱いたままゲートに飛び込む。


「ちょっと、どこを触っているの。はたくわよ!」

「おう、いいぜ。これだけ揉んで殺されるのは本望さ!」

「もう、オレグったら。でも、今日だけは許してあ・げ・る。」


 マティルダとゾフィはリリーが手を引いてゲートに入った。


「きゃー!!」

「もう、大丈夫だよ!」

「ううん違うの。あの二人がH過ぎるから驚いたの。」

「まぁ……、」

「あらあら、羨ましいわ。私が代わりたいくらいだもの。」

「まぁ……。私にも恋人が欲しいです……。」


 ゾフィ、リリー、ゾフィ、リリー、マティルダ、リリーの言葉である。


 ゾフィが驚いて叫んだがマティルダはニコニコしていた。リンテルンの宿屋に飛んできた。


「あんたは妖精で魔法使い(ウイッチクラフト)かえ?」

「いいえ、魔法使い(カニングクラフト)ですわ。」

「まぁ、それはすてきですわ!」

「でしょう?」


「リリー。五人をハーメルンまで送れるかい。」

「うん大丈夫だよ。でも暫くは休ませてちょうだい。」

「そうしてくれ。俺はここの宿代を清算してくる。ビールを飲みたいなら、もらってくるぞ。」

「う~ん二杯頂戴。序でにオレンジパイもね!」

「OKよ、任せて!」


 ソフィアが返事をする。


「お姉さま、呑み過ぎは禁物よ! 川に落ちるわよ。」

「な~にが、川よ! フン!」


 オレグが清算している傍から追加の支払いが発生し続けていた? ヘベレケのソフィアの腰に手を回して担いでくるオレグに。


「あらあら、まぁまぁ。お兄さま、これはチャンスですよ。」


 マティルダは、恋の行方を見守っている。


「ゾフィ、あの二人を見てはいけません。」


 オレグは、リリーは、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、お待たせしました、ビールです。」

「・・・・・・」

「・・・」

「・・」


 マティルダにもビールが、ゾフィにはアップルパイが運ばれてきた。 


 みんなの休憩が終わると、


「ゲート。」


 追っ手が来るからハーメルンまでゲートで逃げていく。



 1243年8月9日 ドイツ・ハーメルン



 最初にボブの船に飛んだ。


「おう兄ちゃん。やっと逃げる準備が出来たかい。」


 ボブの予言? 予感が的中したのでオレグは少しイラついた。


 ボブは、


「Why so salty?」


 オレグは、


「Huh? Am I look salty?」


 ボブは、


「早く嫁さんを川から揚げてやりなよ。溺れるぜ。」

「わぉ! ソフィアが居ない。」



 オレグが川に飛び込んだ所でリリーは召喚魔法で二人を船に引き上げた。


 オレグはリリーに感謝した。そう、オレグはソフィアを温める抱き枕に変身したからである。


 ボブは、


「なぁ、御嬢さん。シャウムブルク城に殴り込みに行ったんだろう? 良く無事に戻れたな。」

「そうね、奇跡かも知れないけれど、すぐに追っ手の魔女が来るわ。」

「だったら、このまま船でヴェーザー川を下って、ブレーメンかハンブルクへ逃げたが良くないか?」


 リリーは少し考えた。答えは、


「そうね、私たちが船で下るとは思わないよね。だったら荷物を甲板に沢山見えるように積んで下さらないかしら。」

「そうですね。船室に隠れて頂きましょうか。……荷物は……、」


「あぁ、あのワインとビールの樽が良いですわ。」

「よし、すぐに集めて積み込みをさせよう。」


 リリーはたくさんの魔法の力を使ったから以後の魔法は使えない。余力は最後の手段に温存しておく必要がある。


「すみません、もう私には力は残っていません。逃避行はお願いします。」

「いいよ、いいよ嬢ちゃん。ここは船乗りに任せな!」


「食糧もたくさんお願いします。代金はこれで……、」


 リリーは金貨二枚をボブに差し出した。だがボブは、


「ここは一枚で十分だろう。」

「?……、どうしてですか?」

「すでに積み込んでいるからさ。追加の小人の二人と嬢ちゃんの食い物だけだからだよ。」


 ソフィアを着替だついさせて戻ったオレグは、


「それはすまないな、今日から世話になるよ。船賃も後で請求してくれ。」

「そっちは遠慮なく頂くぜ。こちらも商売だからな。」

「あぁいいよ。それから五人は同室で頼むよ。狭いが我慢するからさ!」


 ボブは少し変に思ったかもしれないが、顔の変化は無かった。


「いいぜ自由に使ってくれ。船倉なら広いからよ。」

「そう……だな。船倉に泊まり込むから。」

「水夫と樽を載せたら出発するぜ。その後で晩飯にすっからよ。楽しみにしていな。今日はご馳走にすっから。」


「キャッ、すてき!」


 リリーは喜んでいるが、オレグは機嫌が悪いままであった。小声で言う。


「ボブは準備が良すぎるのではないか? 樽だって港に積んであったしな。」


 マティルダは、


「あのボブは信用できないわ。だってリリーの魔法に驚かないもの。」

「あぁ、そうなんだよ。驚きもしないし訊きもしないよな。」


 オレグはそう返事した。導き出される答えは、


「リリー途中でえさを境界に投げ込んで、バックれるぜ!」

「やっぱりそうなんだ。だったらこの船倉の荷物は全部頂きね!」


 リリーは頷いて可愛く微笑んだ。


「今晩は満月だわお兄さま。着替えの準備はよろしいでしょうか?」

「はは、今のソフィアは、す*ぽ**ン、さ。」

「まぁ、お兄さまのH……!」

「あらあら、まぁまぁ、今日は何が見られますのかしら?」


 マティルダの話し言葉が変化していたのがお分かりでしょうか。ゾフィは疲れてソフィアの湯たんぽとして一緒に眠っている。


 オレグ、リリー、マティルダの三人は、船倉の荷物を全部リリーの魔法の境界の中に収納した。いざとなれば四人を収納してリリーは妖精になって飛んで逃げる事も出来る。さすがにゲートは使えないが飛ぶ事は出来る。


 揺れていた船が停泊したように揺れが止まった。


「リリー小人の二人は境界に仕舞ってくれ。俺は外の様子を見てくる。船倉のドアは閉めるなよ。」

「うん気を付けて!」


 船はヴェーザー川を十kほど下った所に居る。ちょうどリンテルンの城の辺りになるだろう。すでに暗くなっているからオレグらには判別が出来ない。


「ボブ、ボブは何処だ……、」


 オレグはそれ以上何も言わずに船倉のドアに首を突っ込んで、


「リリー。ソフィアも収納して出てきてくれ。襲撃は直に始まりそうだ。妖精になって飛んでくれ!」

「うん分かったわ。でも甲板の荷物も頂くわ。」


「おう、好きにしろ。」


 オレグとリリーは甲板の樽と船用品まで、


「まるで追いはぎだな!」

「いいわよ。これくらいは安い物よ。」

「んだな。」


「最後にオレグを収納して空高く舞上がるから追っても来れないでしょう。」

「あぁ、もう夜で暗いしな。」

「私は妖精だもの暗くても平気だよ!」


 リリーはオレグを境界に入れて妖精の姿になり空高く飛んでいく。


「ハーメルンまで飛べるかな。」


「シュン、シュン、シュン、シュン、シュン、シュン。」


 魔女の攻撃らしき音がする。きっと石を適当に打ち上げているのだろうか。


「ふふ~んだ、そんなの当んないよ!」


 リリーたちは無事に逃げ切った。北へ百kブレーメンに辿り着く。



 ブレーメンもパブのある宿屋には宿泊が出来ないだろうから最初に会ったマティルダの農家へと飛んだ。今は柱と屋根だけの四阿あずまやになっているが、誰にも見つからないからいいのだった。


 リリーは、


「着いたからオレグだけ出てきて。」

「おう、すまないね。もう着いたのか?」

「そうよ、境界には時間が存在しないの。動く感じはするけれども時間は進まないのよ。」


「そうか、中には水夫が樽に隠れていたからロープで縛ってきたぜ。酸欠にはならないんだよな。」

「うん死なないよ。それよりも奴隷にできるね。」

「おお! それはいい。帰ったら奴隷契約を施してやれ!」

「そしてボブに押し付けるのね!」

「ただし、ボブが二人になっちまうよ。」


「嫁さんはお礼参りに行った時に迎えに行くか。放置したら身重で可哀そうだろう。」

「うん、お兄さんは優しいね!」


 オレグが火を起こしてリリーを休ませた。


「おう、俺は寝ないでここを見張るぞ~。」




 1243年8月10日 ドイツ・ブレーメン



*)ブレーメンの音楽隊


 翌日の朝になった。


「オレグ、オレグ……起きて。」 

「オレグ、オレグ……起きて。」


 優しいソフィアの声で目が覚めた。


「おう、俺は寝ていたのか。」

「そうだよ。」


 オレグが起きたらハダカンボのソフィアがいた。


「ねぇ、服を戻して頂戴!」

「服はリリーの腹の中だよ。」

「うん、そうなのだけれども見つからないのよ。だって境界はとても広いのですもの。手伝って下さい。」


 可笑しい。普通だったら裸にされたら怒るソフィアだ。第一にリリーが寝ているのにソフィアが出て来れる訳がなかった。


「リリーを起こすから待っててくれ。」

「ううん、リリーは起こさなくてもいいわよ。いっそのことオレグの服を貸してよ。その方が早いわよ。」


 薄絹を纏ったソフィアだがその薄絹の出所も分からない。見た記憶が無いのだ。オレグはソフィアを制してリリーを起こす必要に迫られる。


「おいリリー、起きてくれ。起きてソフィアの服を出してくれないか。」


「う~ん。まだ早い……お姉さまの服ね……。」


 リリーはまた寝てしまった。オレグには、近くで草木が揺れる音が聞こえる。


「えぇ~い、もう起きろ~」

「ばこ~ん。」

「キャッ、なにをするの。……ハッ!」


「なぁリリー、周りを見てくれないか。」


 森の木々が大きな動物に変わって見えている。


「俺は夢を見てはいないぞ。」

「そうだね。これがブレーメンの音楽隊なのね!」



「ぎゃ、ぎゃ、バウバウ、ぎゅあ~、ギュア~。」


 色んな、みょうちくりんな声が辺りから聞こえる。犬のような、猫も居るような、ロバは啼くのだろうか……。


「キャ~ッ!!」


 オレグはソフィアの薄絹を奪ってリリーの傍に逃げた。女は悲鳴をあげた。


「リリー魔女の襲撃だ。ソフィアを起こして出してくれないか。」

「うん、すぐに起こすね。お姉さんよ出てきなさい。」


 すぐにハダカンボのソフィアが出てきた。オレグはすぐさまソフィアに薄絹を着せる。


「ソフィア、あの偽物を頼むよ。」

「フン!!」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」


 オオカミの遠吠えが森に響く。動物たちは一斉に逃げ出す。だが、裸の魔女は逃げずに向かってくる。


「エロエロエッサム、エロエロエッサム……、」


 魔女が持つ杖から光が出てきた。オレグはまともに受けて後ろに飛ばされた。ソフィアは等身大から三mの大きさまで大きくなって、


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」


 魔女に跳びかかる。魔女はひるんで逃げるが、前と後ろをソフィアに噛まれてお釜になってしまった。


 リリーはようやく目が覚めたか、


「風よ我に力を与えたまえ、一迅の風になりて魔女を打ちたまえ!」


 強い突風が起こり異様な森の姿は消えて無くなった。


「おのれ~~~~、」


 魔女は退散した。一人だったから良かったのか、または下級の魔女だったのか弱いように見えた。だがオレグには対処の方法が無かった。


 オレグは薄絹を拾って大きく広げてソフィアを向かい入れた。


「ソフィア、ありがとう。助かったよ。」

「オレグのH。魔女を見て欲情しているのだから……。」

「いや俺はすぐに魔女だと気付いたぞ。だからこうして無事だっただろう?」

「うん、そうね。区別が出来ていなかったら、……今頃は、」

「今頃は?」

「ふん、もう知らない……!」


 オレグの胸に収まったソフィア。リリーは、


「もう、お姉さま。早く服を着て下さい。お兄さんの顔が揺るんでいます。」


 そう、オレグの顔の鼻の穴は大きく膨らみ、ほっぺは赤くただれて揺れる。両目はたれ目になっていて、鼻息が荒くなっていた。口は大きく開き……?


「もう、オレグったら、我慢できないのね……、」

「リリー、境界を出して頂戴!」

「もう、お姉さま。私の腹の中でやる気なの?」

「ううん樽にオレグをぶち込むのよ。リリーも手伝うでしょう?」

「ダメよ。可愛いお兄さまにはヒドイ事は出来ません。」


 オレグは逃げ出した。ソフィアは着替えに境界へと入って行き二人を連れて出てきた。


 オレグはマティルダに助けを求めて、この場所での出来事を説明した。


「そうかい、この農家に絹の糸がたくさんね~。」

「それと、この紙ですね。」


 この前ここで見つけた紙を渡そうと探したが、最後まで見つからなかった。時間のパラドックスが起きたのだった。これらの説明内容にはマティルダは何も言わなかった。マティルダは五十年後になって時を遡り、またこの地に絹糸を置きに来るのだろうか。


 五人はブレーメンの街のパブで食事をして宿泊した。マティルダはゾフィの背におぶさり人形になっていた。


 その夜、対策会議が行われて、


「リリー今回は一人でトチェフに戻って、シビルやピアスタとルシンダを連れてきてくれないか。揃ったらシャウムブルク城に反撃しに行きたいのだよ。出来れば兵隊も居たらいいけれども……。」


「うん、でも兵隊は連れては来れないから、巫女たちの三人を呼んでくる。」

「あっ、ジィもね。」




 1243年8月12日 ドイツ・ブレーメン



*)人狼の巫女の集結


 ブレーメンはもう安全ではないので、一旦ハンブルクまで退避する事にした。オレグ達がハンブルクに着いた日の前日にはマクシムが居たという。これは後日談になる。


 ハンブルクに着いても毎日宿屋は変更した。ここまで念を入れても安心が出来ないのだ。ブレーメンの襲撃だってどうして見つかったのかが分からないから不安が付きまとう。


「リリー、トチェフに着いたら奴隷は港の檻に入れてくれ。ここで集めた樽は同じく港に置くとして、絹糸は俺の倉庫に収納を頼みたい。」

「うん、ルシンダさんに手伝って頂くわ。奴隷はヤンさんに頼むね。」

「ドイツ・ハンブルクの物も全部下ろしてくれ。もし荷物の中に魔女が場所をトレースする物が有るかもしれないからね。」


「トチェフはばれないかな。」

「あぁ、もうばれてもいいよ。すぐに魔女は壊滅するだろうよ。」

「それもそうね。反撃するまでは逃げるしかなね、」


 ソフィアはやや不安でもあった。リリーが居ない間はソフィア一人で三人を守らねばならないのだから。



「ゲート。」


 リリーは十二日の朝に発った。


 リリーが援軍を連れてくるまでは、マティルダからホルシュタイン伯の内部を詳しく教えてもらう。ただ魔女の人数が不明なのが気がかりだった。




 1243年8月14日 ポーランド・トチェフ


*)トチェフ村


 リリーは一人だったからトチェフには二日で帰宅出来た。リリーが最初に行ったのは、


「バラさん。長いこと放置してごめんなさいね。」


 バラたちはグラマリナの指示で村人が世話をしていた。もちろんグラマリナも散歩を目的として、毎日見に来ているという。


「リリーですか?」

「はいグラマリナさま。ただいま戻りました。」

「ご苦労さまでした。オレグたちは家ですか?」

「いいえ、まだ帰って来れない状態でおります。これからピアスタさまを迎えにイワバへ行くところでございます。」

「そのような、火急の用件とは何でしょうか?」


「はい、とても難しいので、ルシンダさまとシビルも含めた所で、説明いたしますので、先の報告はご容赦下さい。私たちも一刻を争う内容ですので、明日の朝方には戻ります。」

「はい分かりました。明日朝に待っておりますよ。」


「グラマリナさま、バラの手入れをありがとうございました。また、明日からもお願いいたします。」


 バラの樹も確認できて安心したリリーは、グラマリナに挨拶を返してイワバに向かった。


「ゲート。」



*)イワバ


 この前の野盗の襲撃で焼けた館は綺麗に再建出来ていた。リリーの造った壁も石材で補強をされている。ここでも綺麗なバラの花がリリーを迎えてくれたのだ。


「バラさん、こんにちは。綺麗に咲いていますね!」

「ありがとうございます。リリーだけですの?」

「わっ、びっくりしました。……すみません。」


 リリーの背後から声を掛けたのはピアスタであった。


「ピアスタさま、ご無沙汰いたしております。」

「いいえ、お互い様でしょうか。いつぞやはお世話になって助かっております。」

「こちらこそ姉妹で服を頂きました事に感謝いたします。」


「リリーだけのようですね。何か事件が有りましたか?」

「はい、今回は私たちだけでは解決が出来ませんので、ピアスタさまに協力をお願いにまいりました。」


 ピアスタは異様な感じのリリーに恐れを感じた。だから食事の準備を早めにさせて、リリーには休息を取ってもらう事にした。


「貴女、すぐにお風呂の用意とリリーの着替えを用意してください。それから、夕食の用意も大至急用意なさい。」

「はい、ピアスタさま。すぐにご用意いたします。先にお客様のお部屋をご用意いたします。」

「はい頼みましたよ。」


 メイドは急ぎ足で館の中へと消えてゆく。


 客室へと通されたリリーはベッドに横たわったら、どっと疲れが出てきてもう朝まで起きる事は出来なかった。


「あらあら、どうしましょう。……、もう起きそうもありませんね。」


 ピアスタは、淋しそうに一人で食事をするのであった。ピアスタは領主の娘だから、領主と同じように家族と食事をしなければならない。だからいつも一人だった。メイドには朝の湯あみが出来るようにと頼んでおいた。


 翌朝。


「ピアスタさま、おはようございます。」

「あらまぁ~挨拶は抜きでよろしいから、お顔の煤を湯あみで洗ってらっしゃいな。もう準備は出来ておりますよ。」


 リリーは急に恥じらいの顔になって赤くなった。昨日はそのような余裕すらなかったのだ。


「リリー今日は可愛くなっていますよ。さ、もっときれいになって来なさい。」


 ピアスタはメイドにもリリーの介助を頼んで送り出した。


 それから1時間してもリリーは現れなかった。心配したピアスタは、


「リリーはまだお風呂ですか?」

「はい、また寝込まれてしまいました。今は服を着せてお布団を掛けておりますが、これでよろしいでしょうか。」

「そうですね、このまま休ませてあげたいのですが、火急の用件が有るのでしょう。私が起こしますから少し出ていていなさい。」

「はい、かしこまりました。」


 メイドが出て行ってピアスタはリリーを起こした。ゆすっても、ほっぺを軽く叩いても起きなかった。


「これは無理だわ。……奥の手を使うしかないのね?」


 ピアスタは退室してメイドを呼んでリリーに付かせる。そうしてから、


「これを持って行けばいいかしら! これと、あれもね。」


 ピアスタが持って行った物とは、


「さ、リリー朝ごはんですよ!」


 ピアスタは意地悪にリリーの顔の横に熱いスープやお肉料理を並べて手で煽ったのだ。


「さぁ、リリー起きるのよ。・・・・・・・、まぁ! お腹が先に起きたみたいね。」


 リリーのお腹がギュル、グーと大きな音を出し始めた。


「キャッ、恥ずかしいですわ。ピアスタさまの意地悪!!」


「あら! リリーは元気ではありませんか。もう湯あみは済みましたか?」

「はい長くなりすみません。実は火急の用件がありますので、ご一緒にトチェフへ来て下さい。用件はルシンダさまとグラマリナさまにもお話しをしなければなりません。」


「はい、リリー黙りましょうか! あ~~ん。」


 リリーは大きく口を開けて放り込まれた肉を食べだした。


「リリー出かける準備は出来ておりますが、リリーの朝食後に出ましょうか。」

「はい、ピアスタさま。」



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