第70部 囚われのソフィア、本当のマティルダ
1243年8月7日 ドイツ・リンテルン
*)囚われのソフィア
囚われたソフィアは、
「ここはどこかしら。オレグもリリーも無事だといいけれども……、」
「もう、あなたたちは騒がしいのだから、眼が覚めたではありませぬか。」
「キャ!」
「私の姿を見て驚くとは、失礼ですぞ!」
「コロボックル!?」
そこにはちいさな女の妖精が居た。(男はノームという)老婆は身長三十cmほどの小人で農婦の服と三角帽子を身につけている。
「はい……ごめんなさい。お騒がせいたしましてすみません。」
「ケッ!……?……?」
小人の老婆は、
「あんた、人間かい?」
「えぇ、そうですよ。バケモノに見えるのですか?」
ソフィアは穏やかな口調で答える。囚われているのがソフィア一人では無かったから安心した。
「……?」
「先ほど蹴とした男がバケモノですわ。」
「あぁ、あの男か。生きていればいいがね?」
「えぇ? そんな~生きていますよ、どうしてですか ……?」
「あんさんに蹴られたからだよ。あんた、力もちだね~。」
「いいえ、普通ですわよ。」
「んな事はないだろう。普通は飛んで行かないよ!」
「お婆さん、ここは何処ですか?」
「シャウムブルク城の地下牢さ。ここに入ったら出られないのよ。でも……、」
「でも……二人は出られた。」
「あの魔法があれば、もう一人は出れるけれどもね! イ~ヒッヒッヒ~、」
「お婆さん、そのモンペはすてきですね!」
「おう、これはおらの一張羅さ! 解るかい?」
「はい、最近見ましたので分かります。」
薄闇に目が慣れたソフィアは、この老婆の服が絹で織られているのが理解できた。
「お母さん、また誰か来たの?」
「おうおう、ゾフィ起きたんだね。そうだよ。また魔女が一人ね!」
「えぇ? ゾフィ?」
寝ぼけ眼の女の子は三歳ほどに見えた。ソフィアは幼女の言った「また誰か来たの?」という言葉が気になった。
「ねぇノーミードのお婆ちゃん。私はソフィアといいます。貴女のお名前は?」
「おう、このワシか? マテンダと言うんじゃよ。そして娘がゾフィ、ゾンビじゃないぞ。間違えるなよ。」
ソフィアは、マテンダはマティルダというのだろうと考えた。ゾフィはそのままだろう。
「マテンダさんとゾフィちゃんは母娘なのでしょう?」
「どうして解るんだい。ワシは妖精じゃよ。母娘には見えんじゃろ。」
「いいえ~私には魔法で小さくなったマティルダさんと、ゾフィちゃんに見えますわ。違いましたか?」
「あんた、ワシに訊きたい事が有ったんじゃないかい?」
「あっ! そうです、私の前にここに囚われた人は、どなたですの?」
「あれはな、マティルダに変身させられた妖精じゃよ。」
「えぇ? そんな……、」
ソフィアは驚いて言葉が出ない。
「では、シャウムブルク城に居るマティルダさんは、誰ですか?」
「あれらは妖精を食らってワシに化けておるのじゃ。この城のメイドは全員が魔女が化けておるのじゃ。もう長いことになるのう。」
「そんな、まさか。」
「いいや、本当だよ。最初の魔女は化けるのが下手で見つかり、火あぶりにされたよ。このワシが留守の時に来たからバレタのじゃろ。だから今はワシを捕えて化けておるのじゃろて。イ~ヒッヒッヒ~。」
「マティルダさまは、身も心も妖精なのですね。」
「あぁ、そうだとも。まだ死にたくはないからのう。」
「まだ他にも処刑された人が居ますか?」
「ここのメイドは全員がな。男はさすがに殺しきれないから首にしおったよ。」
「あぁ~斬首ですね!」
「いや、首に縄を掛けて二階から落とした……、んな訳はなかろう。」
ゾフィは右手の親指をしゃぶりながらマティルダの膝の上で寝ている。枕にされているマティルダは、
「この子を外に出すまでは死ねぬでよ。あんた、この子を連れて逃げておくれ。お礼はきっと出来ると思とるでよ。」
「いいえ、もうすでに頂いております。ですからお二人は絶対にお助けいたしますから。」
「どうやって……?」
「明日か明後日には分かりますわ、うふふふっf!!」
「マテンダさま、ご夕食でございます。」
「おうおう、いつもすまないね~この娘さんにも有るのかい?」
「はい、豚の骨が五本です。」
「んま?! ただでは済ませませんわよ!」
「ほ! して、なんとする。」
「キ~ィ~~ッ~!!」「フン!!」
「元気がいい内は骨だけですからね。あと四日はお待ちになって。同じ食事を差し入れいたしますわ。」
「四日目は、お前の肉を頂くわ!……」
「出来ますかしら? 私はウイッチですから捕まりませんわよ。」
「そう~かしら?」
「ぱこ~ん!」
「ストライク~!」
「私はウイッチ~ズ、んな訳あるか~、」
ソフィアが投げた骨が、女の額に命中した。
「キ~ィ~~ッ~!!」
「バカ魔女め! もう来るな!!」
「フン!!」
魔女は怒って出て行く。出された料理はマティルダが一口食べて残りはゾフィが食べてしまった。ソフィアは豚足の少しばかりの肉を齧っていた。
「この豚足は美味しいわ!!」
翌日は、
「この豚の耳は美味しいわ。美容にいいのよね~!!」
「貴方は、うみんちゅ~なの?」
「いいえ~どこだか分かりませんわ!!」
「どか~ん!!」
「ほうら、やっぱりうみんちゅう~だわ。」
「あらま~これは大きくて美味しそうだわ! 豚の頭料理は!」
ソフィアは勢いよくブタの頭に齧りついた。
「ぺっ! ペッ!」
「紙が入っているわ。」
1243年8月9日 ドイツ・リンテルン
*)ソフィアの救出
前日の八日にハーメルンからオレグとリリーが帰って来た。
八日の夕方の事である。
「リリーまだ食べるのか? もう三kは食べたと思うぞ。」
「まだ三kなの? だったらあと二kは食べるからね。それくらいは食べないと明日の決戦には勝てませんのも。」
「……ほら、追加の豚の耳だ。これを食べたら綺麗な肌になると、知っているかい。」
「うん、コラーゲンだね。豚足にも多いのよね。あ~豚足も食べたいな~。」
オレグは、でかい子豚の頭料理を運んできた。
「ほら沖縄の料理だ、旨いぞ~!」
豚の鼻に花が挿しこまれていたのを見て、リリーは大笑いをした。
「もう・・やめ・て・・、おかしくて・・・食べれないわ!」
「だったら、お姉さまへのお土産にどうだい。」
「そうね、そうしようか。境界の魔法で収納するね。」
「リリーそのままソフィアの空間に投げれないのか!」
「あっ!! 出来るかも知れないわ。やってみる。」
「おう待て待て! 口の中に手紙を入れておくよ。」
オレグの提案にリリーは、
「そうよね。明日は頑張るわ!」
「では手紙に、明日の正午の鐘の音に合わせて召喚魔法を使う! と、これでいいか。」
オレグは、
「俺以外とちゅうするのは許せないが、ここは仕方がないか。口にこの紙を押し込んでおくか。ソフィアよ丸飲みするな!」
「お姉さまですもん、無理かもしれませんわ!」
「なんくるないさ~!」
「豚さん、お姉さまの元へ跳んでください、転送魔法! ブピー!」
「飛んで行ったな。」
「うん、きっと着いているはずよ。」
翌日の九時が過ぎた頃にオレグとリリーが宿屋を出た。ヴェーザー川を渡って行けばすぐだが橋は無い。
「お兄さん、ゲートを開くね。」
「おう、頼むぞ。」
「ゲート。」
川向うのシャウムブルク城の麓に飛んだ。
「もう少し登ったがいいのか。」
「そうね、お城が綺麗に見えないと出来ないかも。きっと地下牢だから地下牢の高さまでは山を登る必要があるわ。」
「高い樹に登ったらどうだい?」
「ああああ! それいい!」
リリーは妖精の姿に戻って飛んで上がった。
「オレグ兄さん、召喚魔法を使うね。」
「あぁ、でも、正午の鐘にはまだ早いぞ。」
リリーはそのまま空に飛んで城の外周を見て回る。城の外観から地下牢の場所の見当をつけて降りる。
「オレグ兄さん、おおよその見当がつきました。きっと成功しますわ。」
今回のリリーの召喚魔法は地下牢という壁の障害物がある。今までとは大きく異なるのだ。リリー自身でも出来るかが分からないのだった。
「リリー不安に思っても何もならないさ、ここは思い切ってやろうや!」
「うん、なんくるないさ~、ね!」
リリーは頭を横に倒して可愛くウインクした。それを見たオレグは少し安心が出来たのだ。オレグは木と木にロープを張った。
「ここは斜面だから転送されて転がらないように、と。これでいいかな。」
「うん、できるだけそこに落ちてくるようにするね。もし魔女も出てきたら思いっきりブチノメシテ!!ね。」
「おう、任せとけ!」
*)リリーの召喚魔法!
正午まであと少しになってリリーは木に登った。オレグはリリーと城を交互に見ている。正午の鐘はここで鳴らされる。
正午になった。鐘の音が森に街に広がる。
「リリー!」
「我はここにソフィア姉さまを召喚する。ちょベリー婆~。」
すぐに、
「キャ!」 「ドテ」 「イタッ!」 「わ~い!」
三人が空から降ってきた。
「おう、すまね~もう少し上だったか。」
「わぁ~お!」 「バタン、ゴロゴテ!」
ソフィアは召喚されて瞬間にオレグに飛びついたのだ。二人は勢いよく山の斜面を転がって樹のカブにぶつかって止まった。
「オレグ! オレグ! オレグ! オレグ! オレグ! オレグ! オレグ! オレグ!」
「おうソフィア。待たせたな。元気だったか。」
「お兄さま、お姉さま。逃げて~、」
リリーの叫び声がコダマした。二人の頭上には地下牢に在った物が一斉に降ってきたのだ。
「イテ!」
「オレグ、命中したね!」
オレグの頭には昨日の豚の頭の食べ残りが落ちてきた。
マテンダは腰を打ったのか腰を撫でながら起き上り、ゾフィは空から落ちる時から楽しそうに叫んでいた。足から着地して転がっても喜んでいた。
リリーは妖精の姿で降りてきてリリーの姿に戻った。
「あれあれ! まぁまぁ、妖精さんですか。」
「はいリリーと言います。この前最初に地下牢へ落ちたのが、私です。」
「あぁ、あのお嬢さんかえ。助けてくれてありがとうね。」
「リリーこの方は本当のマティルダさまよ。そしてゾフィちゃんね。」
「私はオレグと言います。」
下の方から挨拶を言うオレグ。ソフィアはしっかりとオレグに抱き着いていた。
「こら、もう離れろ!」
「いやだよ。おんぶして帰って。何も食べていないから歩けないの。」
「お、おんぶしてこの山から転がってもいいのだな!」
「ゲート。」
オレグはソフィアを抱いたままゲートに飛び込む。マティルダとゾフィはリリーが手を引いてゲートに入った。
「きゃー!!」
ゾフィが驚いて叫んだがマティルダはニコニコしていた。
魔女の数人が山を下りてきたが、すでに五人の姿は無かった。
ソフィアの救出作戦は大成功で終わったが後半戦に続く……。




