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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第69部 潜入失敗、菩提樹の罠


 1243年8月7日 ドイツ・リンテルン


*)菩提樹


 城の前の菩提樹に隠れて、


「ヴェーザー川から見た時はとても綺麗だったけどな。」

「そうね、幾分か不気味に見えるわね!」


「さ、正面突破よ、戦争よ!!」

「待って、お姉さま!」


「どうしてだい、リリー。」


「お姉さま、オレグ兄さま。不気味と言う感覚はとうに通り越しています。この悍ましいほどの妖気が分かりませんの?」


 リリーがお宅訪問の中止を言う。


「リリーすまないね。俺は人間だからさ、金の事以外は鈍感なのさ。」

「オレグのバカ。きっと私に対しても鈍感だから、もうイヤになっちゃう!」


 やっぱりソフィアはオレグの事が好きらしい。



 オレグとソフィアは、


「だがよ、シャウムブルク城は、ホルシュタイン伯がボルンヘーフェトの戦い(1227年)以降の報復を恐れて建てた城だろう?」

「違うわよオレグ。築城の年は分からないのよ。こんなに木々が茂っているから、もっと古いかもしれない。」


「あの菩提樹が呪われた菩提樹というのなら、せいぜい五年が過ぎたくらいかな。でも、いつでも植える事は出来るから建立の目安にはならないな。」


「菩提樹は自由の象徴というから一番大きい樹が目安になるかな。」

「あぁ、毎年魔女裁判で植樹されているならね!」

「ぎょぇ!」   

     

 ソフィアが異様な声を出す。リリーはここに来てからは大人しい。とても気分が悪いからかもしれない。


「ねぇオレグ兄さん。もう帰ろう?」

「なにを言うんだい。来たばっかりだろう。偵察、偵察!」

「イヤ! 私は帰るからね。……ゲート。」


 リリーは帰る予定で自分の目の前にゲートを開いた。


「お二人はどうぞ、ごゆっくりされて下さい。」


 リリーが二人を見ながらゲートに入った瞬間に、


「オレグ~ 助けて~、」


 助けを求めるリリーの声が響いた。


「リリー!!」


 大きく叫んでソフィアがゲートに飛び込んだ。


「リリー投げるよ!」

「お姉~さま~ソフィアお姉さま~!!」


 今度はリリーがソフィアの名を叫びながら、大きく投げ飛ばされてゲートから勢いよく出てきた。


「おい、リリー大丈夫か!」

「うん、でもお姉さまが向うに残ってしまいました。」

「お姉さま~!」


 リリーは叫びながらゲートに走り寄るが、ソフィアは、


「来たらダメ! リリー、ゲートを閉じなさい。さ! 早く……、」

「イヤーお姉さま!!~~~、」


 並々ならぬ事態だと思ったオレグはリリーを制止して、


「ソフィア~!!」


 今度はオレグがゲートに飛び込んだ。


「ぼっこ~ん!」


 オレグはソフィアに蹴られてゲートから勢いよく飛び出してきた。


 ゲートが……消えた……。


「イヤー、お姉さま!!~~~、」 

「ゾビィア~~~~~!」「ゲボゲボ!!」


 二人してソフィアを呼ぶ。オレグは腹を蹴られて言葉が出ない。リリーは再びゲートを開こうとして、


「おい、リリー!!……やめろ!」 

「ゲート。」

「えっ!」


 オレグは小さく叫んだ。ゲートが開いた先は山の麓だった。


「そんな~ソフィアお姉さま!」


 ソフィアが攫われてしまった。オレグとリリーは脱力で力が出ない。思考回路は……?


 城を睨んでいたリリーがしばらくして、


「この城にはとても強い魔女が居るのだわ!」


 リリーの囁きが聞こえたオレグは、


「いや、これは魔女のトラップだろう。その証拠にこんだけ騒いだのに、誰も出てこないじゃないか。」

「どんだけ騒いでも?」

「あぁ、こんだけ騒いでも! だ。」


「たぶんだが、この城には結界が張られていたんだ。俺らはその結界にかかりゲートの行き先が変わったんだ。」

「では、その結界が無くなったのなら……。」


「そうさ、今から騒いだらきっと城にはばれるだろう。」


「リリー、あの菩提樹からは何か伝わる……そう、悍ましい気はしないか!」

「そうなのよ、でももう何も感じないの。」

「すると一回だけのトラップだったんだ。すぐにここから離れよう。きっと魔女が飛んでくるに違いない。」


「でも、お姉さまが……、」


「情報収集して出直しだな。何も解らないからどうしようもないさ!」

「オレグはそれでいいの?」

「良くはないさ。このお礼は倍返しにしてやるよ。すまないソフィア。許しておくれ、すぐに助けに行くからさ。」


 菩提樹の罠に掛かった三人だった。二人は少し離れた場所からゲートを開いて宿屋へ跳んだ。


「ガタン、ゴトン、バタン!」


 二階で大きな音がしたので女将が心配して部屋を覗いた。


「ありゃ、いつ戻りなさった!」

「あぁ、大きな音を出してすみません。疲れていますので、声も掛けずに部屋に来ました。」

「そうかえ、……何か飲むかえ?」

「ありがとうございます。ビールを二つ下さい。」

「あいよ、まってろ!」


 女将はビールを四つ運んだ。オレグは気が利く女将に銀貨一枚を渡す。


「釣りは宿代に回しておくよ!」

「あぁ、そうしてくれ。夕方には降りてくるから。」

「あいよ。」



 リリーは勢いよくビール二杯を流し込んだ。


「グピ!」

「すまないねリリー。もう落ち着いたか。」


「うん、もう喉がカラカラだったの。……私が軽率だったんだわ。」

「ほら、もう一杯飲めよ。俺は一杯で十分だ。」

「うん……、」 

「ここは休んで下のパブで情報収集しような!」

「そうだね、誰に訊こうか。」

「ま、ボブが適任かも知れないが、でもソフィアを攫われたと知られるのも癪に障るからボブが居ない事を祈るよ!」


 三杯目を飲んだリリーは眠ってしまう。一人になったオレグは今後の身の振りかたを思案するのだが…………。




*)情報収集

    

 街の噂は所詮噂でしかない。普通は憶測に尾ひれがついて大きくなるのもだ。だが昨日と同じように収穫が無かった。ボブは嫁さんと共にハーメルンに行っているようだった。


「今日はボブさん……居ませんね。」


 と言う女将の返事にオレグは、


「リリー港まで飛んでくれないか。ボブの船が在るか見てきてくれないか。」

「OKよ、オレグ兄さま。任せてにょ!」

「おう酔っ払い。川には落ちるなよ。」

「大丈夫、だいじょうぶ!!」


「ボブの船は、クショ、ハ~クション!!」


 リリーは濡れねずみになって帰ってきた。



「そうか、居ないんだな。明日はハークショに行くか!」

「ハーメルンでしょう。夢食い魔法だったら、他所の街に行って訊きこみをしないと情報は無いわね。」


「着替えてくるにゃ!」

「おう、もう寝ていろ。風邪をひくなよ!!」

「グビジュビー!!」……「ビ~~~!!」


 リリーは特大の洟水を垂らして二階へ上がった。オレグはこのパブの人間の表情を見ていた。みんなは酒を飲んで楽しそうだった。オレグはさらにビールを二杯を飲んで部屋に戻った。


 部屋に入ると、なんだか泣いているようなリリーの気配がした。


「なんだ……まだ起きていたのか。」

「うん、眠れないの!」

「ソフィアの事が心配なんだね! 添い寝するかい?」

「うん、ソフィアお姉さまでなくてごめんね!」


 オレグはリリーのベッドの横に行ったら、


「あらあら、まぁまぁ、子供かしら。」


 ばたっと倒れて寝てしまった。この異常に気が付いたリリーは、


「夢食いの魔法ね、オレグの様子も可笑しかったもの。すぐに結界の魔法を張って守ってあげるね!」


 リリーはオレグをベッドに寝かせると結界を張った。


「これでオレグは大丈夫ね。私はどうしよう……えぇ~い! それ~っ!」



 久しぶりにソフィアを抱いたた夢を見たオレグは、早起きのリリーから挨拶をされた。


「オレグお兄さま、おはよう。なんだかご機嫌ですね。」

「おう? そう見えるのか? うん、久しぶりにソフィアと寝た夢を見たんだ。」

「良かったですわね? お兄さま。」

「?……?・・」


 この日はハーメルンへ出向いて、ここリンテルンの情報を漁るのだ。



 ハーメルンには四季が無い街だった。亜大西洋気候=初めて知った。降水量は年間八百mm。平均気温が夏は10.5℃、冬は8.2℃である。 これなら年中ライ麦や小麦が播種はしゅ出来て栽培が出来そうな気がする。青首大根も年中栽培が出来そうに思える? ハーメルン植物、で検索しても情報が出ないから。ハーメルンという投稿小説サイトばかりでした。同じく初めて知りました。


 



 1243年8月8日 ドイツ・ハーメルン  

 


「おう、リリーは風邪を引かなかったか?」

「ええ、温かい抱き枕が有りましたので風邪は引きませんでした。」

「そう、か~? 俺はなんだか冷えて風邪を引いたようだぜ。」


 オレグはそう言いながら、鼻をぐじゅぐじゅいわせている。


「ごめんなさいね、お兄さま。」

「えぇ? 何がだい。」

「うふふf!」


 意味深な含み笑いのリリーだった。



 リンテルンからハーメルンまでは直線で十k。歩いて行っても十三kほどだろうか。百二十分ほど歩けばいいが現代人には二時間とか掛かりそうだ。


「近いから歩こうか。」

「うん、いいよ。お姉さまの代わりにリリーとデートしようね!」

「あぁ、そうだな。」


 ソフィアの身を案じるリリーはきっと心配で仕方が無いんだ。だから無意味にはしゃいでいるのか、と思うオレグだった。


「待っててねオレグお兄さん。空から道筋を見てくる。」

「おう、待ってるぜ。Bingの地図でも見に行くんだろう?」

「Googlですわ。」


 地図を見てきたリリーは森と畑地とヴェーザー川が見えると報告した。


「途中には小さな集落があるわね。他は何もないわ。」

「この辺ではどこも同じだろう。でも、ありがとうよ。」



 オレグも務めて明るく振る舞った。ハーメルンに着いた。


 オレグは行き当たりばったりで、通行人にリンテルンについて尋ねて回った。


「あのう、リンテルンにはどれくらいで着きますか?」

「そうだね~八十分くらいで着くだろう。」

「そうですか、船は出ていますか?」

「あぁ、船着き場が在るよ。この先を右に左に右に行った所だ。」

「ありがとうございます。リンテルンはとても暮らしやすいと聞き及んでおりますが、そうでしょうか?」

「あ、いや。俺は知らないよ。他で聞いてくれ。」

「はぁ~それはどうも……」


「お兄さん、まともに答えてくれないようだね。」

「そうだろうか、……」


「あのう、リンテルンにはどれくらいで着きますか?」

「そうだね~九十分くらいで着くだろう。」

「そうですか、船は出ていますか?」

「あぁ、船は在るよ。この先を左に右に右に行った所だ。」

「ありがとうございます。リンテルンはとても暮らしやすいと聞き及んでおりますが、そうでしょうか?」

「あぁ、俺は行った事が無いから知らないよ。」

「それは、どうも……」


「あのう、リンテルンにはどれくらいで着きますか?」

「うう~ん九十分くらいで着くだろう。だが行かない方がいいよ。」

「どうしてです? あそこは穏やかで暮らしやすいと聞きました。」

「そうらしいがよ、この街の者は素通りするよ。兄ちゃんもそうしろよ。決して宿泊はしないがいいだろうよ。」


「リリー、リンテルンに付いてはいい話は出てこないかもね。」

「んだね。ボブを頼るしか方法がないかな。」

「んだな。ボブに情報ツウを探して貰うのが早いだろう。」

「普通は異邦人に心を開かないだろうね。だったら港に行こうか!」


「おう、そうするか。この先を左に右に左に、右に右に行った所だったな。」

「違うよ、この先を右に左に右に行った所だよ。」

「ほえっ!」


 誰も本当の道順は言っていなかった。だからリリーは、


「空から見てくる。」

    

 ハーメルンを一望してきたリリーはお手柄だった。


「ボブの船を見つけたよ。それからボブの行き先のパブもね!」

「おお! それはすごいぞ、ビールとオレンジパイだな!」

「?……」


「港は左に曲がって真っ直ぐだね。ボブは港の横のパブらしいわ。」

「らしい? のか。」

「うん三軒あるのだもの。たぶん港の横だよ。」


 港に着いたら大きいパブがあった。独特の造りだ。


「なに、この建物は!」

「ふふ~ん大きいでしょう。空から見たら真ん丸なのよ。」

「なになに、P1 Rondell ?」


「いいからいいから、右から入りましょう。」

「いや、左だ。」

「中は同じだもの、ここはブレーメンの調査団、という事にしましょうにゃ。」

「???」


 理解出来ないオレグだった。庶民は左から出入りしている。右は皆無だ。


「だから良く目立つのよ。ねっ!」


「お客さん、銀貨一枚ね。……? だったら出直しな!」

「はい銀貨ね。」

「ほう! 旦那は偉い人だね。ここでは歓迎されるよ。」

「なんでだい。」

「すぐに判るよ。さ、入って下さいまし。旦那さま!」


 カン、カン、カ~ン!……カ~ン。


 けたたましいベルの鐘が鳴り響いた。パブの人間は歓声を上げる。


「ワーオー!」「おう、今日はついてるぜ!」


「旦那、お世話になります。」

「お・お・おう、なんでだ。」

「この入口は伯爵さまの入り口ですぜ。」

「はっ! いや、俺は伯爵じゃないよ。今から出直すよ!」

「もう無理です。さ~旦那、一言!」


「おう、みんな~、ビールを飲んでくれ~、二杯はご馳走するぜ~」


 しょげるオレグ。


「リリーこの店は知っていたのか? あ、あぁん?」

「わ~ご~めんなさい。私~ち~っとも、知りませんで~した。」


 ワーワー言いながら民衆が集まってきた。あのボブも交じっていた。


「オヤジ、金貨一枚までだ。みんなに振る舞ってくれ!」

「だんな。足りません。」

「なんだ、まだ足りないのか?」

「んだな。いいえ、ビールが足りませんのですよ。」

「なだん、そういう事か。だったらワインを出せ。」

「旦那、これ一枚で十分です。」


 ボブはソフィアが居ない事に気が付いた。


「オレグさん、どうしたんです。可愛い奥さんはどうされました?」

「おう、ボブ。奇遇だな~妹なら帰ったぜ!」

「オレグさん、うそはいけません。胸の無い方が奥さんでしょうが。」

「そうだったか? だったら確認してみろ!」


「ばこ~ん。」


 リリーの胸を触ろうとしたボブがはたかれた。


「やっぱりこちらが妹さんです……。叩かれた音で分かります。」

「おう、そうか、これはすまなんだ。」


 ビールがどんどん注がれていく。オレグの前にも運ばれる。


「主人。適当に食べ物も運んでくれ。オレンジパイも一皿頼むぞ。」

「そんなパイはありません。アップルパイをお持ちします。」

「特上でな。」

「もち!!」


 オレグとボブの歓談が始まる。パブはより騒がしくなるばかりだった。


「えぇ? なに? 聞えないよ!」


 酒場の喧騒に慣れないオレグは、ボブの言葉が聞き取れない。


「だ・か・ら、飲み直そう?」

「ええ!!」

「ちょ~っと待ってて下さい。宿の手配をさせますので……、」


「あっ! 泊りの宿屋を探していなかった。」


 いつものオレグらしい。いつもソフィアが宿の手配をしているので、オレグは気にもしていなかった。


「待たせたな、もう一軒のパブの宿屋にいくぜ。ここの勘定を頼むな。」

「おう、任せな!」

「旦那、今日はありがとうございます。金貨二枚です。」

「多すぎないか?」

「いいえ、ちっとも多くはありません。これが普通ですよ旦那!」


 場末のパブに着いた。物静かなパブだった。ボブの後について入る。


「ここなら聞こえますでしょう。宿屋はここの二階になります。」

「おう、すまね~な。」

「いえいえ大した事ではありません。他にも船乗りと行商人も居ますから情報原は多いですぜ!」


 それは助かるよ、と言うオレグ。シャウムブルク城やリンテルンについて質問を始めた。オレグの質問は一言で済んだ。答えが十倍にもなって返ってきたのだ。


「おう、たくさんの事を教えてくれてありがとうな。」


 オレグはそう言いながら、銀貨五枚を周りに配った。


「俺には無いのかい。」

「もう済んでいるだろう。船賃も弾んだし。」

「チェッ!」


 オレグが聞いた事は魔女裁判は二回が行われたらしい。非公開にはさらに三件があるらしいという。魔女裁判の二回は大人の女と十五歳くらいの娘だという。非公開の魔女裁判はどれも女だという。


「男の処刑は無いのかいな。」

「あぁ男は聞かないよ。女は使用人から姫さんまでというから穏やかではないな。」

「三歳の娘はどうだい。」

「さすがにそれはないだろう。だって三歳だろう?」

「そうか……。」


 オレグに代わってリリーが質問した。


「リンテルンの夜は、少し変ではありませんか?」


 ボブが前のめりになって小声で話す。


「あぁそうだよ。リンテルンに泊まった奴は、記憶が無くなる事が多々あるというんだ。この俺も数回は有ったようなんだ。どれも、この女房によって思い出したから助かったんだぜ。」

「?……、昨晩は何もなかったがな~。」

「そうかぁ~?」


 リリーがにこやかな顔をして、


「昨晩は寝ずにお兄さんをいたぶったから夢を見ていないの。だから何ともなかったのね。」

「おいおいおい!!!、おめ~さんは、女房持ちで妹にも手を掛けるのかい? いくら嫁さんが留守だといっても、そりゃ~ぁ、あんまりだろう。」


「なにを言う。この俺はふしだらではないぞ。」

「だって、お嬢さんが今、言っただろう?」

「うふふf……。」

「?……、」


「だからあの街の住民は穏やかなのだな。」

「そうだよ。何だか理解出来ないのだが、朝起きたら心が晴れやかになっているんだよ。気持ちいい夢を見たような? な。」

「あぁ、その夢な。昔俺もたくさん見せられて夢も食われた事があるんだ。言う意味は分かるよ。」



 その後のボブや他の男の話では、


 シャウムブルク城には、領主の娘のマティルダと長女のゾフィが帰郷しているのは、間違いないという。船に乗って帰ってきたのだからと水夫が言うのだ。毎日一回は通るという行商人は、この二人もだが城の人間も見ないという。


「なぁボブ。あいつに訊けば分かるだろう。」

「あいつ? あぁ、野菜屋の配達の息子だな。」

「呼んでくるか!」

「そうしてくれ。たたき起こしてでも連れてきてくれないか。」

「なんだ、もう寝ているのか!」

「そうなんだ、どのみち、もうそろそろたたき出される時間だろう!」


 この息子は隣のパブの常連で、呑み過ぎていつも寝てしまうから叩き起こされているという。


「待たせたな、連れてきたぜ。」

「なぁサム。シャウムブルク城に配達に行った時の事を、この旦那に話してくれないか。金貨一枚で買うらしいぜ!」

「ほぇ? 金貨二枚だとう?」


「おうおう、銀貨三枚だ!」


 所詮は酔っ払いだ、聞いても覚えてはいないはず。オレグは先に銀貨三枚を右手で堅く握ってサムに握らせる。見えないように?……だ!


「うんうん三枚あるな!……」


「あそこに配達に行けば綺麗な夫人とメイドが出てきて、野菜や肉を選んで買ってくれるんだ。」

「時々小さい子供が出てくるから、はちみつにひたした菓子をやっているよ。喜んで食べているぜ。」


「で、その綺麗な夫人と娘の名前は分かるかい。」

「メテンダとゾンビ? だったかな。随分前に聞いただけだから覚えていないよ。なんだ?……違ったか?」


「いや正解だ。……でだ。あの城で処刑された女は居るのか?」

「あぁ居るぜ。領主の前の嫁さんとその娘だったかな。それと使用人もだな。それから、……、……、……マテンダが偽物だ~、と言うて、若い女も火刑になったような記憶があるような、無いような……。」


「えぇ? マテンダが火刑に?」

「すまね~な。ビールをくれ。喉が渇いたよ。」


 オレグはボブに頷いて了承した。ボブはビールを買いに行った。


 それから、


「あそこのメイドは若いのばかりではないんだ。古ぼけた女も大勢居るんだよ。お怪我で? いや、お蔭でいい商売が出来ているよ。」


 このサムの飲みしろはシャウムブルク城から受ける利益が源泉だった。毎晩毎晩飲んだくれている。


 オレグもリリーもひどく喉が渇いてビールを軽く飲み干してしまった。二杯目もだ。


「あ~ぁ汗掻いたな、銭湯へ行きたいな!」


 リリーは青ざめている。オレグ以上に理解が出来たのだ。


「お姉さま、助け出せるかしら……、」



 菩提樹=セイヨウシナノキ


ヨーロッパではいにしえから多くが植えられています。特に中世ヨーロッパになると、

自由の象徴までになりました。多くが植樹されて楽器や木彫に使われました。

また、樹皮は繊維に利用されて、葉はハーブ(ティユール)として利用されていま

す。薄い黄色の花は、蜂蜜として養蜂業を支えています。


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