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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
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第68部 リンテルンのシャウムブルク城のうわさ!


 1243年8月5日 ドイツ・ハンブルク



*)リンテルンのシャウムブルク城のうわさ!


 話が大きく逸れてしまった。ボブからの悲話・秘話がある。


「シャウムブルク城にはさ、悲話があるんだ。」

「どんな話だい。少しの事では驚かないぜ!」


「魔女裁判。」


「へっ!」「ええっ????」「シビルが居るの?」


「あぁ、シビルが居たらしいぜ。なんでもシャウムブルク城の娘か嫁が魔女だと言うので、火刑台に乗せられたそうだぜ。」

「……。」

「なぁ兄ちゃん。声が聞こえないぜ、どうした?」

「あぁ、驚いているぜ。頭がこんがらがっているのだよ。」


 ソフィアもリリーも驚いている。


「ねぁオレグ。誰が偽物なのかな。マティルダさんは関係ないよね!」

「それは希望的感想だろう。乗り込むしか方法がないかもね!」



1237年、アーベル (デンマーク王)とホルシュタイン伯アドルフ4世の娘マティルダが結婚した。 四人の子供が居る。ヴァルデマー、ゾフィー、エーリク アーベル。四番目のアーベルは、アーベル王の死後に生まれたのか同じ名前のようだ。


 不思議だと思うが、アーベル王の死後、マティルダはスウェーデン王、ビルイェル・ヤールと再婚している記述があって、男児を一人産んでいる。マティルダの名前が伏せられているようでもあった。ビルイェル・ヤールはマティルダと別れて再婚している。


 オレグらは川の上からシャウムブルク城を見上げていた。


「なかなか綺麗な山城だろう。城門まで行けば呪われた城が見られるぜ! カ~ッハッハッハー!」


 大声で笑うボブであった。ここまで高笑いされると魔女裁判はうそのように聞えてくる。


「おいおい、それは本当か?」

「あぁ、本当だよ。」

「詳しく頼むよ。金貨一枚出すよ。」

「おう、これはすまないな。ではパブに行って話そうか。」

「んだな。」


 山城は二棟あるようだ。一つは崖の岩場に築かれた建物がある。壁の厚さは三mだという。


 この頃の城は煉瓦をただただ重ねて積んでいくだけだった。モルタル等の接着剤はローマ時代にはあったが技術は残らなかった。攻め込んだ人種が戦ばかりで、文化や技術には理解出来なかったのか、キリスト教の教えで文化伝承が阻まれた。


 全てはキリスト教の所為で文化・技術は途絶えてしまうのです、そこには発展がなくて堕落する教会がのさばる。


 そう、煉瓦の作成方法は、中国から伝えられた。地震も無い大陸だからそれで良かったのだろう。モルタルが使われないから、壁の厚みは半端ではなかった。当然部屋は狭くて暗くて寒いのだ。農家の方がはるかにマシだった。城は窓が小さくて少ないのだから。



 王様は常に謁見の間で過ごすのはいいとしても、寝食も家臣や使用人も同じくこの謁見の間で寝ていた。机等があればその上で寝るのだよ。高い場所が確保出来ない使用人らは部屋や廊下で雑魚寝である。


 各部屋には防寒対策として麦稈を敷きつめてその上で過ごして居る。ご飯を零せば放置、オシッコを漏らせば放置されていたからとても不衛生であった。


 ドラ**ンの耳が噛みきられたように、床で寝ればネズミに身体を噛まれている。これだからペストが入ればパンデミックを起してしまった。風呂には入らないからね、常にネズミとの戦いがお城で繰り広げられていたんだよ。


 王城は数軒確保されてあって、定期的に引っ越しをしてもいるんだよね。その理由は敷き藁の交換とお城全体の大掃除を四ヶ月に亘ってさせていたというではないか。トイレ文化が無かったからなんだよ。


 王様にプライバシーはなくて謁見の間の端にベッドが置かれていて、冬に暖房はないから使用人を数名ベッドに引き入れて寝たいた。夏は床で寝たらしいよ?


 いや~一軒家がある農奴の方が暮らしやすいとも言える中世ヨーロッパのお城事情です。


 アニメ等で出てくる高層アパートは、煙突の発明で発展したものですからね。それまでは平屋でした。




 閑話終了~っと。



 今はブドウ畑に囲まれた綺麗なホテルになっている。これは後世に建てられた城だろう。当時は煉瓦むき出しでしかない。



*)リンテルンのパブでパブニング?


 ボブは嫁さんを連れてきた。


「すまね~な。身重の女房なんだ。近くに置いておくに越したことはないしさ。勘定は割り勘でいいぜ。」

「六対四でいいぜ。なんせこちらにはビール樽が二つも転がっているからさ!」

「ばこ~ん。」「ぼこ~ん。」

「オレグ、まだ叩かれたいのかな?」

「いいえ、もう十分です。はい。」


「ガッハッハ~、旦那も女にはからっきし弱え~んだな。」

「いや、そうでもないさ。憂さ晴らしをさせているだけだよ。」

「うんうん、それが長続きの秘訣だね。ガッハッハ~」


「でさ、シャウムブルク城にはどうも数人の女が処刑されているらしんだ。」

「名前は解るかい。そこんとこよろしく!」

「いいや、分からないのだよ。シャウムブルク城の入口前の広場に立つ、血の菩提樹と言われる大木があるのさ。」

「ほほう、それで。」

「あぁ、数本も在るようだぜ?」

「そんなにあるのか。」


 オレグはさらに驚くのだった。


 菩提樹とは、中世ヨーロッパでは自由の象徴とされた。だから植樹された街が多数ある。ちなみに上記の大木は現在の事ですので、当時は苗木でしかない。


 もっとも、捕虜になって菩提樹を植えるとか出来ないだろう、という突っ込みの感想は受け付けません。 現実に戻ったあなた! さ、1243年へ時間旅行しましょうか。


「魔女裁判に掛けられる時にさ。」

「?……」


「私は無実なのよ! 信じて。私はここに菩提樹を植えるの。この樹は未来永劫枝葉を茂らせ大きく成長するわ。これは私が無実の証なのよ。」


 これを聞いた二人は寒気がしてビールを飲めなくなった。ボブ様々だと感謝するオレグがいる。


「小枝にはクリーム色の花を咲かせるから……と言って死んでいったらしいのだよね。うら若き乙女だったらしいぜ!」


「オレグ、ホットワインを頼んでいいかしら。」

「ソフィアもリリーも怖いのか?」

「ふん、バカにしないで。ビールは飲み飽きたのよ。」

「船の上で?」

「ええ、そうよ。それ以外に答えがあるかしら!」

「あぁ、そうだね。……ふふ~ん!」


 オレグは軽く笑った。


 ソフィアだけが話している。リリーは心細いのかも知れなかった。魔女裁判は難しいので後章に譲る。1400年ころから魔女裁判が吹き荒れる時代になる。今は1243年だから先は長いよ物語を構築出来る自信は無いと断言する。


 十二世紀に始まった異端審問が魔女裁判になり、私刑としての魔女狩りへと発展して続いていく。これもキリスト教の悪の部分になる。現代人は全てが魔女扱になってしまうのだ。


 おかしな文言の看板がk県の国道沿いにある。「キリストは罪を許す」と。人殺しの罪も許すから戦争が絶えなかったのか。


 ヨーロッパには多くのドラゴン伝説があって英雄が討伐する物語があるが、ドラゴン=土着信仰の住民で英雄の騎士=キリスト教信者の構図と読み取れる。


 魔女裁判は現代にも存在している。つい先日もどこそこの住人が越してきたから俺に悪いことが起きた、と。魔女裁判を申し立てたのだ。判定は当然白だが……真面に裁判を受けた裁判所も偉い?



 リリーは妖精で魔法使いで魔女になる。人狼のソフィアも異端で魔女になるから、素性がばれないようにしなければならない。


 ま、一番の問題はオレグだろう。木の器を作っている。これはもう異端も異端になるから、カトリック教の教会がある街へ売りでもしたら、即御用だ!



「おい兄ちゃん。聞いているのか!」

「あ、いや、考え事をしていたのだよ。すまね~な。」

「ほほう、この俺の話術が優れているのだな。」

「あぁ、そうだよ。あんたの言葉は妙に心に突き刺さってしょうがないんだ。」


「そうかい、このリンテルンから逃げ出す時は手伝うぜ!」

「んん? 要らぬお世話だ。」

「ほう、そうかい。俺にはそうは思えないがよ。気のせいか? ならいいさ。」

「フン!」

「ガッハッハ~!」


 豪快に笑うボブは、また豪快に肉を右手に持って口に押し込んでいる。汚れた手はテーブルクロスで拭くのだった。


 この時代の食事風景がこの日本にもありました。高級すし店です、小さな木のまな板に載るお寿司を手づかみで食べる。これと同じであります。



 オレグは小声で二人に声を掛ける。


「こいつはやばい男のようだ。もう宿屋に行こうか!」

「うん、そうだね。リリーはすっかりしぼんでしまってるよ!」

「あ、ホントだ。水をかけようか。」

「乾いたバラに水を下さい……、そんなこと、あるか!」

「ばこ~ん!」


「すまね~ボブ。ここでお休みするよ。もう座っていられね~~~。」


 オレグはリリーから叩かれて意識が無くなった。


「わ~大変。リリーオレグにもしもの事があったら、許しませんよ!?」

「ごめんなさい。お姉さま。」


 ソフィアはオレグの脇の下を持ち、リリーはオレグの足を持ってパブから引き上げた。


「おう、お大事にな~」

「フン!」


 ツンツンになったソフィア。勘定はすべてがボブに回った。


「おう今回は見逃してやるよ。悪い夢だけは見るなよ、攫われるからさ。」


 悪い夢? 意味不明なことを言うボブだった。




 1243年8月6日 ドイツ・リンテルン



*)領主の娘、マティルダ


 翌日、


 ホルシュタイン伯・アドルフⅣ世には、二男一女の子供が居たと思われる。マティルダとヨハンⅠ世・キール伯。それにゲルハルトⅠ世・イツェホー伯。


 この物語はマティルダのみに当てる。女であるがゆえ情報は有りません。全てが架空になります。


 街のうわさだとマティルダは三人目のお産で帰郷しているらしいのだった。二番目の娘のゾフィと共に城にいるというのだ。長男はデンマーク王アーベルと共にデンマークの城に残る。


「いいえ、姿は誰も見た事はないようです。ただ最初に帰郷された時にだけは街を通って町民に手を振ったといいます。」

「はい、マティルダさまは私も見た事はありません。」


「このリンテルンには魔女さまは居ません。噂もありませにょ!」

「にょ? あぁ、綺麗な街ですので、やはり魔女の噂はありませんにょね!」

「はい、そうですよ!!」


 街ですれ違う女に訊いたのだった。


「オレグ、収穫は無しだね。」

「そうだね~ボブが言う魔女裁判の事は巷には流れないのかな。」


「いいや、ここにはシビルが居るのだろう。」

「あのシビル?」

「いやいや、シビルと同じ夢食いの魔法を使う魔女がだよ!」

「あっ! そうだね。だったらこの街の穏やかさが解るというものだ。」


「そうだね、ボブは穏やかなリンテルンと言っていたわね。」

「ボブはハーメルンに行ったかな。」

「だろうよ。」




*)シャウムブルク城


 オレグはシャウムブルク城に赴いた。岩城の方は造りが戦争向きになっている。城を取り巻く城へ続く道は時計回りに登るのだ。


「この城は左に崖が来るように造ったのかな。」

「そうだよソフィア。騎士は左手に盾を持つだろう。だからさ。」

「オレグお兄さん、どうしてなの?」


「それは登ってくる騎士にすきを作らせるためさ。右手が剣ならば矢が当たり易いだろう?」


「あっ、本当だ。盾を利き手に持たせたら防御ばかりで攻撃が出来ないね。」

「序でに崖に落としやすいだろう?」

「うん。」「うん。」

「窓も小さいのね。」

「弓矢が使えるぎりぎりの大きさだろうね。上は採光の窓だろうがよ。」

「ふ~ん。」


 シャウムブルク城の外観はそのようになっている。崖の上に建つ城だから道を進むしか方法が無い。完璧な山城だ。


「母屋が下にあるから、山城は籠城の城だな。」



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