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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ
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第6部 垣根の上を飛ぶ女

        

 1241年4月2日 バルト海・ゴットランド島、ヴィスビュー



*)垣根の上を飛ぶ女


「あんたたち、今からハンザの商館に行くんかい?」

「はい、おかみさん。行って来ます!」


 ソフィアは元気よく返事をした。


「左の大通よりもね、少し遠回りだけれども、右に行って先の細い道を左に下りて行けばさ、バラの花壇や蔓バラのアーチが路地に続いているよ。綺麗だからさ、そちらからお行きよ。」


「オレグ! 行ってみよう? ねぇ、オレグ。まだ時間は早いしさ~」

「ソフィアはどうする? 見てみたいかい?」

「俺様はどうでもいいぜ!」

「ソフィアに訊いているのだけどもな。ノアが返事して? おい! ノア。この先に何か有るのかい?」

「いや、なんでもないさ。行けば分るよ。」


 ソフィアは返事しないで、先に左の道を歩み出した。先の小路に下りて行くには階段になっている。階段を下りた所から民家が並んでいて、バラの生垣が並んでいるのがもう見えている。


 どの家のバラの色は同じでは無く、また、蔓バラと木立のバラを密生させたりと変化に富んでいる。バラの育成はやや面倒で、たい肥や追肥が欠かせない。手入れをしないと、植えたままでは綺麗な大輪は咲かない。


 大きい家の生垣は庭師さんを雇っているのだろう、高木になる木々も身長を抑えた綺麗な刈込をされている。植え込みのある庭は広くはない。道行く人の目を楽しませるような思い遣りのある作りになっている。家の塀は白で統一されていて、塀の上には必ずバラか他の木々の枝葉が茂っている。


 綺麗だね! と言いながら左右を見て進んだ。前は殆ど見てはいなかった。


「ニャ~ン! ニャ~ン! ニャン!」


 黒ネコが小径こみちの真ん中に立っていて、右の垣根の上を見て鳴いている。


「ニャン!」


 と、大きい声で鳴いた。すると、


「わ~、ドイテ! どいて。キャー!」

「キャーッ。」


 若い女の庭師さんが、垣根の上を飛んで来た。庭師さんは私たちに驚いて着地を忘れたのか、見事なまでの尻もちで着地した。「キャーッ」と言ったのは、黒ネコとリリーだ。リリーの眼の前に女の庭師さんが飛んで来たのだった。


「わ~~、痛~い。もう立てないじゃない。キキ! しっかり見張りしててよね。」

「あのうー大丈夫ですか?」


 ソフィアは小走りで傍らに行き、左手を差し出した。女の庭師さんは顔を歪めたままで立ちそうもなかった。右手はお尻を撫でまわしている。


「庭師さん、起てますか?」

「うん~、もう少し時間が掛かります。今治療をしているところです。ご心配をお掛けしてすみません。」


「ミャ~、ミヤ~」

「キキ! どうして止めなかったのよ。驚いて着地を取れなかったじゃない。もうしっかりしてよ。」

「ミャ~、ミヤ~」「ミ~、ミ~」「ャ~、ミヤ~」

「ああ、そうかい。分ったわよ。教えてくれてありがとう。」


 ノアは黒ネコの横に飛んで行った。黒猫は驚きもしないで、小さい妖精の姿のノアを見上げている。


「やぁ、黒ネコのキキさん。こんにちは、だね。」

「何よ、あんた達。気安く声を掛けないでよ、失礼しちゃうわ。」

「キキ! そう突っ張らないでよ。」


 女の庭師さんが言った。他のみんなは当然驚く。


「キャーッ!!」

「わ! なんだ?猫が喋った? ね、ね、そうなの?」


 ソフィアの驚いた様子が面白かった。後ろに飛び退き、身体を仰け反って、大きな口を開けて、眼は見開き・・・・・。


「みなさん、驚かせてすみません。半分ですがキキも妖精です。もう、五つ目の命ですので人間の言葉が話せるのです。」


「こりゃ驚いた。話せる猫が居るとは知らなかったね。」

「じゃあ、あんたは、” 垣根の上を飛ぶ女 "かね?」

「そうですね、実際に飛んでおりますし、あなた達なら話してもいい、とキキも言っております。」


「ノアは知っていたんだね? リリーには先に教えて貰いたかったな~」

「ああそうだよ。空の上から街を見ていたら、垣根を飛び越えている女の人が見えていたもん。」


 リリーもキキに挨拶をした。女の庭師さんには、身体の周りを飛びながら、


「へぇ~私も初めてだな~。こんにちは、魔女さん。」


「え! 魔女さん? 魔女さんですか?」

「そうだよ、あんたは、イングランド生れの魔女さんかい?」


「はい、そうです。ここは生垣がたくさん在りますので、とても好きなのです。だから、この街のバラの手入れをして回っています。」

「ねぇ、オレグ! どうしてこの人がイングランドの魔女って分るの? 名前はドイツ語のようだけれども。」


「垣根の上を飛ぶ女は、ドイツでも有名さ。」

(垣根の上を飛ぶ女=境界に身を置く、半ば悪霊的な存在と解釈される)


「その名前の由来通りにさ、垣根を飛び越えて移動するからね。魔女さんは。」

「いいえ、ただの庭師ですわ。比喩を間違えていますわよ。」


「じゃあ、あ。何ですの? あの魔法使い(ウイッチクラフト)の? ですか。」

「そうじゃありませんわ。魔法使い(ウイッチクラフト)のように陰険ではありません。私はバラが好きなだけの、魔法使い(カニングクラフト)の端くれ! みたいな者です。」

(ウイッチクラフト=悪魔的妖術)

(カニングクラフト=賢者のわざ)


「このアイネは、駆け出しですので、魔法使い(カニングクラフト)らしい所は何処にもないのよ。ただのお姉さん! みたいな人なのよね。」


「キキ! 私の紹介をありがとう。もう痛みは無くなったわ。さ、何してらっしゃるかしら。右手を貸して頂けまして? 不思議なお嬢さま。」


「あ、はい、どうぞ。私は不思議な? ですか?」

「そうでしょう? 尻尾のある巫女さま!」


「なんだ、ソフィアの事は分るのですね。さすがに博識でいらっしゃる。」


「美人の魔法使いさん。貴方の異様な出で立ちはなんですの?」


 白と緑のワンピースだけれども、胸とお腹が白で、腕とスカートの部分が薄い緑色。前はミニみたいに短く、後ろには燕尾服みたいに長い。しかも、ギザギザの切れ込みがある。シミチョロ? みたいな白い下着らしきものが、後ろのスカートから長くはみ出している。背中は大きく露出させていて、胸の大きさはソフィア以上に大きい。


 ヒラヒラした裾からは、赤いバラの花が二つ下っている。髪は赤茶でカール。肩に乗るような、大きいカールを巻いている。大きいカールには秘密が有るというが、なんなのだろうか。肌の色は黄色人種の色。いわゆる肌色! だ。


 髪飾りは、真珠の白い球を6個を左右に連ねた感じで、6色の羽が出ている。あと一色あれば虹色になるのか? 年齢は不詳! 外見では、17歳くらいか?


「まぁ、いやだわ~。綺麗に盛りすぎよ。嬉しいですわ~。赤のセパレート・パンプスをお忘れですが・・魔法のバラのステッキもね。」

「ゴメンチャイ、描写が大変ですのでお許しください。」


「アイネさんよ、ところで仕事をしていたのかい?」

「そうよ、仕事しないと生きていけませんもの。庭のバラの手入れよ。ここのバラ園は素敵でしょう?」


「ああ、そうだな。白い塀で見えないが。生垣だけは綺麗と見えるがね。」

「オレグ! ここは本当に綺麗だよ。上から見てみろよ。」

「ああ、飛べるならばね! アホのリリー。バカのノア! 適当に飛んでいろ。」


「ところで、ソフィアは何処に行った?居ないぞ。」

「ソフィアはこの家の玄関に行ったよ。お庭訪問! とかなんとか言ってたな。」

「オレグはどうする?」

「ニャン!」


 この時には、魔法使いと黒ネコは消えてしまっている。ソフィアに気を取られ気付かないでいた。


「俺は遠慮するよ。庭の景色の描写は勘弁だからな。」

「じゃあ、おいらが空からソフィアと庭を中継しようか?」

「いや、いらね~な。ソフィアの見張りは頼むぜ! リリーも行ったのか?」


「リリーは知らないよ。オレグ! 魔法使いも居ないよ。消えてるよ。何処にも感じ取れない。リリーも何処にも居ないよ!」


 その後リリーは行方不明となった。


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