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人狼夫婦と妖精 ツインズの旅  作者: 冬忍 金銀花
第一章 駆け出しのハンザ商人 オレグ

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第57部 イワバの災害


 1243年4月16日 ポーランド・イワバ


*)落ち武者の集団


「ピアスタさま、大変でございます。街でドイツ騎士団が暴れています。」

「えぇ? そんな~……、バルトシュ。すぐに兵を率いて討伐に向かいなさい。」

「はい、お嬢さま。」


 バルトシュは、血相を変えて昼食の会場から駆け出した。ピアスタもそわそわして落ち着かない。このイワバの領主は若い女性のピアスタだ。頼れる男というは、きっとバルトシュだけだろう。


 グラマリナはエリアスに、


「ピアスタさまを助ける事は出来ないかしら。」

「グラマリナ。きっと大丈夫だよ。こういう事は何度かあっただろうし、また対策も取られているだろうさ!」

「えぇ、そうでしょうけれどもエリアス。私は心配だわ!」


 玄関口でバルトシュの怒鳴り声が響いている。


「おい、ドイツ騎士団はどれくらいの数だ。」

「はい、おおよそ二十人ほどかと思われます。ですが、先遣隊とも思われますのでまだ全容は分かりません。」

「そうだな、今は自衛団の十人で対処する。お前は、街の自衛団を集めて応援に来い!」

「はい、すぐに集めて参上いたします。」

「おう、頼んだぞ。」


「バルトシュ!」

「ピアスタさま、大丈夫ですよ。無事に討伐して戻って来ます。」

「えぇ……、頼みましたよ。」


「はいやぁ~。」


 バルトシュを先頭に自衛団の十人が馬に乗り駆けていく。


「バルトシュ……」


 ピアスタは心細そうにバルトシュ等を見送っている。また、庭先に繋がれているたぶんピアスタ本人の馬だろう、ちらちらと視線を送っていた。


「私も出ようかしら。」

「お嬢さま! それはなりません。座して吉報をお待ちください。」

「えぇ、そうですわね。爺の言うとおりだわ。」

「それに、お客様を放置されるおつもりは、微塵こもありませんですよね?」

「微塵にこは付けないでよろしいでしょう。」

「はい、お嬢さまをテストさせて頂きました。」

「合格かしら?」

「はい、さようでございます。では、お客様のもとへお戻りになられませ。」

「はい。」


 爺はこの館の執事だろうか。終始落ち着いた面持ちで領主のピアスタに声を掛けていた。または戦い慣れた元騎士、ということもあるだろうか。


「みなさま大変見苦しいところをお見せしました。申し訳ありませんが、ここは片づけさせて頂きます。メイド長、すぐにお茶の用意をなさい。」

「はい、お嬢さま。」


 とても不安なピアスタは、気丈に振る舞っている。先ほどの事がなければ、いつものピアスタと変わらない。こういう時には、頼れる男、そう、夫が居ればいいのだが……。


「お嬢さま、お茶のご用意が出来ました。」

 

「さぁ、皆様、美味しいお茶をお召し上がりください。」


 ピアスタはメイド長には返事をせずに、グラマリナたちに声をかける。これはまだピアスタも、こころここにあらず、ということだろう。



「ピアスタさま、お茶を頂きますわ!」


 グラマリナがピアスタに声を掛けた。順次、頂きます、と言いながら全員はお茶を飲む。



 オレグは、


「なぁリリー。境界の魔法で街の様子を見てきてくれないか。同時にさ街や森にも伏兵が居ないかも調査を頼むよ。」

「OKよ、オレグ。偵察に行ってくる。」

「ああ、ピアスタさまには悟られないようにして退席しておくれ!」


「あいよ、了解した!」


「?……、あぁ、待ってくれ。リリーはここに居ていいよ。時機に報告は上がってくるだろうさ。」


「そうなんだね! オレグ!」

「あぁ、そうさ。ソフィア?」



「ピアスタ。ここのサローとヤンも行かせます。」

「ルシンダ。ありがとう。もしもの時にはお願いするわ。それまで待ってて。」


 ソフィアは、


「ルシンダさん、代わりにこのリリーに行ってもらいましょう。ね! いいでしょう? リリー?」


「えぇ、分かりましたわ、お姉さま。……私、死んだら化けて出ますからね!」

「いいですわよ、可愛い妹。みんなを眠らせて頂戴!」

「フン!」


 一方、イワバの街では、ドイツ騎士団の落ち武者、二十人が押され気味に西の方に後退していた。館の自警団が十人と街の自警団が三十人。数の原理でドイツ騎士団を押している。戦闘は戦い慣れているドイツ騎士団に分があるはずなのだが……。



「オレグ、大変よ。」


 リリーはそう言って境界の魔法で部屋に飛び込んできた。オレグは驚きもしないが、きゃ! と、とても驚いたピアスタとルシンダ。サローとヤンは目を見張っていた。


「サローさん、ヤンさん、ここはすぐに襲撃されます。外に出て応戦して下さい。ピアスタさんは、メイドさんたちを早く避難させてください。」


 そう言われてもピンとこないピアスタは、爺から助言を受けた。


「さぁ、お嬢さま、メイドたちを避難させて、私たちは三階で指揮を執りましょう。」

「えぇ、そ、そうですわね、そういたしましょう。グラマリナさんたちも一緒に来て下さい。」


 ソフィアは大きい声で、


「エリアスさま、グラマリナさま。ルシンダさまも、さ! 早く避難しましょう。」


 ソフィアはあたかも、自分も避難するようの行動をとっていた。


 オレグとリリーは、


「リリーここを襲撃する野盗はどれくらいだい?」

「少ないと思う。八人程度かもしれない。でも……。」

「そうだな、きっとまだ増えるだろうさ。」


 オレグの読みは正しかった。ドイツ騎士団の落ち武者はこの館の占拠を目的としている。八人程度では少なすぎる。すぐに本体の二十人が館の襲撃に加わるのだった。


 玄関先で戦闘を行うサローとヤンには勝ち目がない。狭い玄関先で応戦しているのも、ドイツ騎士団の野盗を通さないためである。


「ちんたらしてんじゃね~ぞ、お前ら~。」


 野盗の頭領みたいな男が出てくる。サローは一撃で後ろに飛ばされてしまう。ヤンは踏ん張るも結果は同じだった。もうこの館には戦力が無かった。二階の階段から見ていたピアスタは恐怖で口を押え大きく目を見張っていた。


「そ、そんな~。……。」


 もう後に続く言葉はない。


「お嬢さま上に逃げますよ。丈夫なドアで作られています。きっと大丈夫ですから。さ、早く!」

「おい、爺さん。女たちを全員連れて行ってくれ!」

「は、はい、オレグさま。ですが、……。」

「おう、俺らは死なね~よ。大丈夫さ!」

「はい、ご武運を!」


 

 女たちは悲鳴を上げながら階段を三階まで駆け上る。


「リリー、殿しんがりを頼む。女たちを全員押し込んできてくれ! ここは俺ら三人で対処するよ。」


「OKよ、オレグ。全員の尻を押し込んでくるわ。後はゲートで戻ってくるね。」

「ソフィア、どうだ、こいつらを抑え込めるか!」

「オレグ~無理を言わないで、私は可愛い女の子だよ?」

「すぐに変わるだろう?」 


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


「えぇ? オオカミ?」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~」


「オオカミだ! みんな逃げろ~!」

「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


 三階では、「ピアスタさま。私怖いです。キャー!・・・・・・」


「おかしら! あいつらを丸焼きにしましょう。」

「バカを言うな。人質を殺したら、俺らも殺されるぞ。」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


 ソフィアは、体長3メートルの大きさになり、野盗を蹴散らしている。


「まぁ、すてきなお姉さまだこと!……、ほれぼれしますわ~。」

「おい、リリー特大ゲートを開いてくれ。ソフィアの鑑賞はその後だ!」


「は、はい。オレグ。すぐに開きます。館の門辺りでいいかな。」

「う~ん、もっと館よりがいい。」


「ソフィア! 野盗をゲートに押し込むぞ。」

「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


 オレグは非力ながらも、オオカミに押されて野盗を追い払う。


 リリーは、


「ねぇオレグ。ゲートの先はどうするの? 海の上とか?」

「う~ん……暫くは境界の中に入れておこうか。後で相談しよう、な?」

「うん分かった!」


 野盗たちは数名が逃れたが、全員を押し込むことが出来た。だが?


 ころあいを見張らかって戻ってきた先遣隊は、


「あいつらは魔女と大魔神だ、火を打て~!」

「おかしらを助けるんだ~。……おかしら~。」


 総勢で二十名だ。館ではなく外にいるからゲートには押し込めない。すぐに火矢が放たれる。窓を狙って火矢が飛んできた。


「リリー、ゲートを仕舞ってくれ。水魔法で消火を頼む。」


 そう言ってオレグは、野盗の奪った剣で外の野盗に挑む。この野盗は馬で来たのだろう、街の自警団は誰も居ない。


 このありさまを見ているピアスタやグラマリナ、ルシンダは、どうする事も出来ずにじだんだを踏むが、メイドたちや従者は焼き殺される恐怖に打ち震えている。


「キャー、」「ピアスタさま~、ピアスタさま~。」 「いや~!!!!」


 ピアスタやグラマリナからは、オレグやサローとヤンが戦っているのが見える。


 オオカミの姿から人の姿に戻ったソフィアは、


「リリー、消火は出来るわね!」

「うん、出来る。でも館の裏にも火矢が放たれていたら消火が出来ない。お姉さん館の裏を守ってください。」

「うん、頑張ってね!」


 リリーに思いっきり水を掛けられたオオカミは館の裏に回った。そこにも火矢は放たれていた。オオカミは野盗を目がけて跳びかかる。


「ウォ~ オォ! ウォ~~~!」

「お姉さまだわ。あ~どうしよう。まだ水を掛けていない部屋もあるしな~。」


 リリーでは多数の部屋が有る館の消火は追いつかない。え~い、ままよ! リリーは三階に行き、


「あんたたち館の火消をさなさい。ピアスタ! 従者に命令しなさい! さぁ早く!!」


 リリーは領主のピアスタを呼び捨てにした。事態は急をようしている。ちんたらとは出来ない。


「もう、ダメ~~~!!!!!」


 リリーは男の従者を一階の水場にゲートで放り込んだ。落ちた所は風呂の中だった。男たちはこの不思議な現象と、火災の恐怖と戦う事になった。すぐにリリーも落ちてきた。


「きゃ~……ドボ~ン!」

「あなたたち、すぐに水で館の火を消しなさい。」

「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」


 外ではオオカミの大きい姿が見え大きい声が響いてくる。うずくまる男をリリーは、


「バコ~ン!」

「あんた、一遍死んでみたいの?」

「いいえ、死にたくはありません。」


 そんな泣き声で言う男に桶を持たせた。


「ほら、死にたくなければ水を掛けるのよ。外には怖いオオカミが居るのよ? どこにも逃げられないわ!!}

「バコ~ン!」

「キャィ~ン!」


 男たちは消火に取掛った。リリーは火勢の強い部屋に跳んだ。一つや二つでは無いのだった。


「こうなれば、やけくそよ~!!!!!」

「ゲート!」


 ゲートのからは野盗どもが火のある部屋に落とされた。当然、大騒ぎになる。


「あち! あち! おい、火を消せ! ドアから逃げるぞ。」

「ドアは開きません。」


「あんたたち、消火は任せたわ!」


 リリーは、部屋のドアを全部無くしてしまった。


「ま、悲鳴が聞こえるからいいっか!!!」


「お姉さま~今行きま~す。」


 リリーは継続して消火に当たった。


 その頃、玄関先では、


「オレグどの。遠くから声が聞こえます。援軍です。あと少し頑張って下さい。」

「おう、任せとけ!」


 そう返事をしたが足腰はもうガタガタになっている。


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」

「バコ~ン!」「バコ~ン!」


「ウォ~ォ~ オ~~ォ ウォ~~~!」

「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」「バコ~ン!」


 ついにドイツ騎士団は逃げていった。館に残された者はローストになっていた。


「あんたら、館の火消しを急いでくれ!」


 自警団は残党を放置して消火にあたった。一階と二階はほぼ燃えたか、半分が燃えたか? という悲惨な状態だった。自警団に怪我人はいるが死者は皆無だった。


 館の騒ぎは収まるも収まらない事案がある。それも一つ二つではない。


 ソフィアは三階に上がり中を見る。そこには恐怖で慄いたピアスタのうずくまる姿があった。その姿を見て怒ったソフィアは、煤けた顔をしてピアスタに近づき、


「バチ~ン!」


 ピアスタを引っ叩いていた。一瞬何が起こったのか理解できないピアスタ。


「ほら、ピアスタ。戦いは終わりましたわ、しっかりなさい。」


 ピアスタは涙目になりソフィアに抱き着いた。ピアスタはワンワンと大泣きなりソフィアにしがみついた。


 そんなピアスタの頭をやさしくなでるソフィアは、ピアスタの母になっていた。爺が見て驚いたのである。亡きソフィアさまと幼いピアスタの姿が混じって、もう同じに見えたという。


「ソフィアさま!」


 ソフィアはオオカミに変身したから服は破れてしまって着れない。今はどこかの部屋のシーツだろうか巻きつけている。あちこちに焼けて風穴が開いていた。


 この姿を見てケラケラと笑うシビル。オレグには可哀そうなソフィアに見えた。


 オレグは館を見て回りバルトシュに声をかける。


「バルトシュさん。この館の住人をどこかの宿屋に収める事が出来るかい?」

「そうですね、総勢で二十人までにはなりませんが、不可能でしょう。」


「そうかい分かったよ。自警団を全員集めてくれないか。今晩の警備に付いて相談したい。」

「えぇ、そうですね。まだ外にいますからすぐに。」


 オレグは館の警備の方法について、


「今すぐの襲撃は無いから夜の警備をお願いしたい。館の人は先に食事と休息を取ってもらい、そして、夜の警備をお願いします。街の人は館のごみとなった者を排除してくれ。好きなようにして構わない。」

「お!~」


 残党は全員が袋叩きにあう。その後は利用出来ない家具類は全て外に出された。オレグはバルトシュら全員を宿屋で休息をとらせる。




「さて、ソフィアの方は……問題だな~。」


 ソフィアに抱かれたピアスタは、覚醒してしまった。


「お母さんなの?」

「 そうだよ。彩加だね?」

「ええ、そうよ。」

「もう会えないと思っていました。ここは中世ですか?」

「そうだね、姉の綾香も居るけれども、覚醒はしていないよ。会いたいかい?」

「うん、会いたい。」

「そうだね、綾香にも目覚めてもらおうか。」


 ソフィアはルシンダを呼んで、事情を説明した。


「そうですか、事情の説明がありませんが、理解しました。私も妹と仲直りをしたいので、お願いします。」


 ソフィアはルシンダを横にして、


「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ 綾香」

「我は汝の記憶を司る。我は汝の真名を唱える、ファティーマ 彩加」   


 こうして姉妹は覚醒した。



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